王様との話し合い


 その日はメグさんが荷物を整理するということで、早めに解散。私は一日のんびりと過ごして、真美のお家でご飯を食べて、そうして翌日。

 ミレーユさんたちを送るのはお昼から、ということになったので、私は王城に来ていた。魔女らしく、空を飛んで移動して、お城の門の前に着地。門番さん二人が目を剥いて槍を構えてる。お仕事熱心だ。


『いきなり配信始まったと思ったら、なんかお城の前にいるし』

『あれ? 今日はミレーユさんたちを送るんじゃなかったっけ?』


「ん。それはお昼から。だから朝のうちに、師匠の話を聞いておきたい」


 待ってるだけなのも退屈だから、時間は有効利用しないとね。

 槍を構えている門番さんたちは、じっと私を見つめて、そして言った。


「失礼ですが、お名前をお伺いしても?」

「ん。隠遁の魔女」

「なるほど、あなたが……。失礼致しました。少々お待ちください」


 構えをといて、門番さんの一人が中へと走って行く。待っていればいいかな?


『てかいきなり槍を構えるとか失礼じゃね?』

『そら空から唐突に人が下りてきたら警戒ぐらいするやろ』

『今から行きます、とか言ってたらともかく、リタちゃんは言ってなさそうだし』


 先触れ、ていうんだっけ? 出してないね。出した方が良かったのかな。今更だとは思うけど。

 そのまま少し待っていると、門がゆっくりと開き始めた。中から出てきたのはさっきの門番さんと、そして執事さん、だと思う。黒い服を着ていて、丁寧に頭を下げてきた。


「ようこそ、隠遁の魔女様。お待ちしておりました」

「ん。王様に会える?」

「もちろんでございます。どうぞこちらへ」


 執事さんに案内されて、お城の中へ。前回と違って今回は日中だからか、たくさんのメイドさんたちが行き交ってる。そんなメイドさんも、私たちが近くを通ると恭しく頭を下げてきた。

 なんだか、変な感じ。特別扱いされてるみたい。


『特別扱いされてるんだと思うよ』

『守護者とは言ってなくても、とても大事なお客様だから丁重に扱え、程度は言ってそう』

『言っちゃった以上は仕方ないさ』


 んー……。次からは言わないようにしたい。ちょっと、嫌だから。

 執事さんに案内されたのは、二階の部屋。少し広めの部屋で、なんだか高級そうな家具がたくさん置かれてる。執事さんが言うには、とても大事なお客様が来た時に使う部屋らしいよ。他国の偉い人、とか。

 執事さんに促されて、椅子に座る。その後にメイドさんがたくさん入ってきて、お菓子とかジュースを用意してくれた。食べていいらしいから、食べてみる。んー……。


「ジュードさんたちのお家でもらったものと同じ、かな?」


『あっちも公爵家だから、そうそう違いはないだろうな』

『王家の方が高級ではあるかもだけど、リタちゃんは日本のお菓子になれすぎてるからw』


 比較対象が悪いってやつだね。

 お菓子をもぐもぐと食べていると、部屋のドアがノックされた。


「んー……? どうぞ?」


 またメイドさんかな、と思ったけど、入ってきのは王様だった。ジュードさんと、ソレイド公爵さんも一緒だ。


「失礼致します。ようこそ、リタ殿。我が国、我が城へ」

「ん」


 私も立って挨拶した方がいいのかな? そう思ってる間に、王様がテーブルを挟んで向かい側に座った。ジュードさんとソレイド公爵さんは、王様の後ろで立ってる。


「改めて、先日はご協力、誠にありがとうございます。リタ殿のご協力がなければ、あの事件は未だ未解決のままだったでしょう」

「んー……。アリシアさんでも、そのうち捕まえられたと思う」


 多分、だけどね。何もしてなかったわけではないと思うし、魔道具の魔力にさえ気づけたら、すぐ捕まえられるようになったと思う。


「今回の報酬として、こちらは何を用意すれば良いでしょうか? あなたの要望に可能な限り応えたいと考えています」

「いらない。代わりに、情報が欲しい」

「情報ですか」

「ん。賢者コウタについて、教えてほしい」


 私がそう言うと、王様だけじゃなくて、ジュードさんたちも眉をひそめていた。師匠の名前が出てくるのは予想外だったみたい。最近の話じゃないし、亡くなったっていう話も聞いてるだろうしね。


「賢者殿なら我が国にも訪れていましたが……。何かありましたか?」

「まさか、精霊に対して何かをしでかしたのですか!?」


 ジュードさんが少し慌ててるみたい。どうしてジュードさんが、と思ったけど、もしかすると師匠はジュードさんとも何かあったのかもしれない。ミレーユさんにもう少し詳しく聞いておけばよかった。


「んーん。違う。賢者コウタは、私の師匠」

「な、なるほど。安心しまし……、なんと?」

「私の師匠。先代の守護者」

「はははそんなまさかご冗談を」


 王様たちは笑ってるけど、残念ながら本当だ。私がじっと王様を見つめると、次第に王様たちは頬を引きつらせた。


『王様たちもまさか賢者さんが元守護者とは思わなかっただろうからなあw』

『知らずに地雷を歓待してたと思ったら、まあ怖いわな』

『しかもこれ、真実はどうあれ、自国で死なせてしまってるからな』


 あ、そっか。魔法学園はこの国の所属なんだから、魔法学園の周辺はこの国の領土なんだよね。つまり……。


「師匠はこの国で死んじゃったってことだね」

「うぅ……っ!」


 あ、王様がお腹を押さえてしまった。余計なことは言わないでおこう。


『わざとかな?』

『鬼だ、鬼がいるw』

『鬼畜の魔女に改名する?w』


 わざとじゃないってば。


「それについて責めるつもりはない。私は、師匠がこの国で何をしていたのかとか、この国に来る前にどこに行っていたのか、知りたいだけ」

「な、なるほど……。そうでしたか」


 小さく、安堵のため息をつく王様。表情には出していなかったから、とても器用だ。王様は少しだけ目を閉じて、そしてすぐに頭を下げてきた。


「ですが、それでも。賢者殿が我が国で亡くなったことに違いはありません。謝罪をさせていただきたい」

「…………」


 とても律儀な人だね。王様って、もっと偉そうな人だと思ってた。でも、なんだかとてもまっすぐな人だ。好感が持てる人、だね。


「いいよ。許す」


 私がそう言うと、ありがとうございますと王様は顔を上げた。その表情は分かりやすい安堵の色だ。ジュードさんとソレイド公爵も同じく。


「それで、師匠はこの国で何をやってたの? 知ってる範囲で教えてほしい」

「そうですね……」


 王様が言うには。師匠はまず挨拶として、王様に謁見したらしい。その時にいろいろと贈り物もしたみたいだね。精霊の森の果物とか。

 次に、バルザス公爵邸に滞在して、ミレーユさんを含む有望な魔法使いにアイテムボックスの魔法を伝えたらしい。どんどん広めても構わない、という許可まで出して。

 どういう目的でそれをしたのかは分からないけど、少なくない金銭を見返りに要求したらしいから、旅の資金の調達源だったのかも。


 あとは、観光をして、そのまま旅立った、とのこと。多分この観光の時に孤児院に寄ったのかな。

 つまりこの国に旅の目的はなかったんだと思う。寄り道、みたいな感じだったのかも。

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