ミレーユさんの天敵


 部屋でグミを食べながらのんびりしていたら、太陽がすっかり昇った頃になってからミレーユさんたちが戻ってきた。部屋に入ってきたのはミレーユさんとメグさんだけで、二人とも疲れてるのはよく分かった。

 ジュードさんはまだ帰ってこれないみたい。貴族は大変だ。


「疲れましたわ……。リタさん、何か、その……。ありますか?」

「ん。チョコあげる」

「いただきますわ」


 ミレーユさんと、ついでに少し羨ましそうに見ていたメグさんにチョコレートをあげた。大きな袋にたくさんの個包装されたチョコが入ってるものの一つだ。一口サイズだけど、食べやすいから好き。


「両端を引っ張ったら出てくるよ」

「こう、ですの? あら……。これはすごいですわね」

「あの……。この、包んである紙みたいなものは何ですか……?」

「メグ。守護者殿の持ち物は気にしない方がいいですわ。詮索もしない方がいいと思います」

「なるほど理解しました」

「ん……。間違ってはないけど、ちょっとひどい」


『詮索されると困るし、ちょうどいいと思おうぜw』

『触らぬ神になんとやら、みたいな扱いだなw』


 みんなでチョコを食べる。包装をとって、一口。んー……。やっぱり日本のチョコレートはとっても甘くて美味しい。こっちのチョコは、ちょっと苦めのチョコだったから。


「わ……。すごく甘いですね、これ……」

「甘さが疲れた体に染み渡りますわ……!」


 気に入ってもらえて、私も嬉しい。


「お城の方はもう終わったの?」

「そうですわね。あとは盗品の買い取りなどを行った者など、そのあたりも調べる必要はありますが……。少なくとも、わたくしたちに関しては終わりですわね」

「思うと、長かったですね……。もう終わったと思っていただけに、余計に疲れました……」

「まったくですわ……。でも、今回で本当に終わりです。わたくしは気ままな冒険者生活に戻りますわ」

「あ、ミレーユ様、さっきの話ですけど……」

「わたくしと共に来るのでしょう? 構いませんわよ。正直、助かりますわ」


 話を聞いてみると、メグさんはすでにミレーユさんとしっかり話をしたみたい。一緒にあの街に行って、ミレーユさん専属のメイドさんになるんだって。

 ミレーユさんは、メイドというよりも友達として側にいてほしそうだったけど……。余計なことは言わなくてもいいかな。メグさんが考えることだと思うから。


「お父様からリタさんに伝言を預かっていますわ。この部屋は自由に使っていいそうです。この国に来た時の拠点にしてください、とのことですわ」

「ん……。じゃあ、もう少しだけ、使わせてもらう」


 お城に行くのは、もうちょっと後にした方が良さそうだから。時間が空けば行こうと思うけど……。ミレーユさんが戻るタイミング次第かな。


「ミレーユさん、いつ頃戻るの? 連れてきたから、ちゃんと送る」

「あら、そうですか? それは、その……。メグも一緒でも?」

「ん」

「ではメグの準備次第、ですわね。メグ、準備はどれぐらいかかりますの?」

「一日あれば十分です」

「では、明日の朝にお願いしますわ」

「明日の朝だね。分かった」


『ついにメグちゃん、ミレーユさんと一緒に行くのか』

『メグさんの反応が気になるなあw』


 それは、そうだね。ミレーユさんは気付いてないのかな。あのお部屋、見られることになると思うんだけど。


「ミレーユさん」

「はい?」

「お部屋、いいの?」

「え……?」


 不意に固まるミレーユさん。ぴくりと動くメグさんの眉。すっとメグさんが目を細め、ミレーユさんを見つめ始めた。


「ミレーユ様……?」

「そ、そうですわね! わたくしは一度、先に戻りましょうか! いえ! 何もないのですけどね! ほら、メグもわたくしがいると緊張して……」

「ミレーユ」

「ごめんなさいですわ!? あ、いえ! りりりリタさんお願いですわ一度わたくしを先に!」


 んー……。そう、だね。ミレーユさんを先に戻してあげるのもいいとは思う。でも。


「普段からお片付けしないミレーユさんが悪いと思う。明日、一緒に送るね」

「そんな!?」

「はい、それでお願いします」


 ミレーユさんがそれはもう分かりやすいほどに絶望した顔になって、その反対にメグさんはとっても楽しそうな笑顔だった。これは私でも分かる。怒ってる時の笑顔だ。


「ミレーユ、私に言ったからね。わたくし一人でも家事ぐらい余裕ですわーって」

「はひ」

「楽しみだなあ……」


『これはひどいwww』

『ミレーユ様、おいたわしやwww』

『とってもかわいそうwww』

『お前らw』


 今後はメグさんが片付けをしたりするんだろうけど、危険な道具とかがあると手出しできないと思う。だからやっぱり、ミレーユさんもお片付けはしないとね。だから、頑張ってほしい。


「ああ……。わたくしは、どうして片付けを後回しにしてしまったの……」


 テーブルに突っ伏すミレーユさん。それはミレーユさんしか分からないことだと思うよ。

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