追放の先
「リタはこの後どうするの? 今回はリタのお手柄だから、多分王様ともすぐに謁見できるようになるはず」
「王様からお話を聞いてから考える。どうして?」
「うん。よければ、ずっととは言わないから、少しだけ一緒に旅をしてみたいと思って」
「一緒に……」
アリシアさんと一緒に旅。それはそれで楽しそうではあるけど……。あのもふもふでのんびり旅というのも悪くないと思うけど……。でも、地球には行きづらくなりそう。そう思うと、一人の方がいいかも。
「ごめん」
私がそう言うと、アリシアさんは少しだけ眉尻を下げて、そっか、と頷いた。ちょっとだけ悪いことをしちゃった気がする。
二人でグミを食べながら話し合いを見守っていると、少しだけ変化が出てきた。主に、カイザさんに。なんだか顔色が蒼白になっていってる。処罰が決まりそうなのかも。
「それは反対ですわ!」
そう思っていたら、突然ミレーユさんが叫んだ。ジュードさんたちがとても驚いていて、カイザさんまでも目を丸くしてミレーユさんを見てる。
『なんだなんだ?』
『リタちゃん、そろそろ会話拾おうぜ』
そうだね。私もちょっと気になってきた。アリシアさんにも聞こえるように、魔法で声を拾おう。
「ミレーユ、お前、やはり私のことを……!」
カイザさんの声だ。アリシアさんがちょっとだけ驚いて私に視線を投げてきたから頷いてあげる。それで察したのか、アリシアさんも会話に集中し始めた。
「別にあなたのことはどうでもいいです! どうせなら、わたくしがぶっ殺したいですわ! 今から燃やしてもよろしくてよ!」
「ひっ……」
「み、ミレーユ! 落ち着け! な!?」
「ミレーユ様、気持ちは分かりますというか私も同じ気持ちですが、落ち着きましょう!」
ジュードさんとメグさんがミレーユさんをなだめてる。それでもミレーユさんは怒ったまま。でもこれはどちらかと言うと、焦ってるような顔、だと思う。
そしてちらりと、私を見た。
「ん……?」
なんだろう。私が聞いてないことを確認しようとしてるような、そんな感じ。私が首を傾げると、安心したみたいに話し合いに戻ったし。
これは、なんだろうね。
『リタちゃんが関係することなんてあったか?』
『捕まえただけだろうからなあ』
『カイザがリタちゃんの方が怪しいとか言ってるかも?』
『公爵が正式に雇ってる魔女に疑いなんてさすがにかけないだろ、とは思うけど』
冤罪、だっけ。そういうのがかけられそうなのかな。その場合は、んー……。次の国に行けばいいかも。
「落ち着け、ミレーユ。何故反対する? 死罪ではやりすぎだと思うのか?」
死罪、なんだね。妥当なのか重たいのかは、ちょっと分からない。
『さすがに重すぎね?』
『一度目のやらかし、刑罰からの脱走、そして貴族の屋敷への繰り返しの窃盗、かな』
『誰も殺してはいないし、重いと思う』
『いや、一番やばいのは思想と妄言だと思う。仮にも元王子だし、脱走した経緯もあるから、また何か知らない場所でやらかして王家と国の信用を落とすことがあるかもしれない』
『ま、ぶっちゃけ異世界の国のことだからな。俺らにゃわからん』
それもそうだね。私も国が決めることに口出しするつもりはない。
そう、思ってた。
「死罪に反対はいたしません! 方法がだめだと言っているのです!」
「ふむ……。残酷すぎたか?」
「ですが、王家、そして国家の信用を著しく損ねた罪はあまりにも重いでしょう。死罪の中でも最も重い追放刑が妥当だと思われますが」
「そういうことではないのです、ソレイド公爵! 追放刑の追放先が問題なのです!」
「精霊の森に送るだけだろう?」
ん……? 今、どこって言った?
『おや……?』
『今、精霊の森って言ったよな?』
さすがに、聞き捨てならない。カイザさんがどうなっても気にしないけど、森が関わるなら無視はできない。
「ねえ、ミレーユさん」
私が歩きながらミレーユさんに声をかけると、ミレーユさんはびくりと体を震わせて、振り返った。何故か、ちょっと顔が青い。
「り、リタさん……。聞いて、いましたか?」
「ん。追放刑について、詳しく」
そう言うと、ミレーユさんが小さく喉を鳴らして頷いた。
ミレーユさんが言うには。死罪の中でもいくつか種類があって、その一番重たいのが追放刑らしい。死罪の追放刑は、国から追い出す追放とは違って、兵士の監視のもと、精霊の森に送られるのだとか。つまりは、森の野生の魔獣に食べてもらおう、ということだね。
野生の魔獣に食い殺される、というのは、確かにとても残酷だと思う。最も重い刑罰だと考えると、そういうのもあるのか、なんて思ったりもする。
『ひぇっ……』
『こわいこわいこわいこわい』
『日本だとマジで考えられないよなこの辺りは』
視聴者さんには、ちょっとショックが大きすぎる内容だったみたいだけど。
私は刑罰の内容については口を出すつもりはないよ。私からすれば、犯罪者も命知らずな冒険者も変わらないから。森に入った以上は自己責任だ。
それに、実際にそれが行われることはほとんどないらしいし。十年に一度あるかないか、ぐらいだって。
それはいい。刑罰についてはいい。勝手にすればいい。精霊たちが気にしてないなら、私も気にしない。でも。それでも。
「この人を、追放刑? 精霊の森に? カイザさんを? 送るの?」
「そ、そういうことになりますわね」
「は?」
自分が思っていたよりも、低い声が出てしまった。どうやら私は、このカイザという男が心底嫌いになってるみたい。森に入ってほしくない、と思うぐらいには。
『あ、これマジでやばいやつ』
『リタちゃんキレかけてね?』
『そりゃ実家のお庭に不審者入れるとか言われたらキレるやろw』
さすがにその例えは極端な気もするけど、近いと思う。
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