飽きたのでグミをもぐもぐ
ちなみにミレーユさんを止めることは結局できなくて、ミレーユさんは会議室の扉を勢いよく開いて入っていった。
「誰だ……、ミレーユ!?」
「ミレーユ!? お前どうしてここに!?」
「おお! ミレーユ!」
王様、ジュードさん、そしてカイザさんの反応。ミレーユさんはカイザさんを冷たく睨み付けて、そして王様へと跪いた。
「申し訳ありません、偶然依頼で王都を訪れていたのですが、隠遁の魔女からカイザの話を聞き、はせ参じました。先触れのない無礼をお許しください。この者の話を聞いていると、我慢ができず……」
「良い。許す。正直気持ちはとても分かる」
王様とミレーユさんが目を合わせて、そろって小さくため息をついた。
王様は中年ぐらいの男の人。多分だけど、ジュードさんたちと同じぐらいだと思う。短い赤髪に、なんだか豪華な服装だ。頭には王冠がある。本当に王冠って被るんだね。
「ふむ。であるなら、あなたが隠遁の魔女殿か。バルザス公爵から話は聞いている」
「ん……。よろしくお願い、します」
「うむ。少々見苦しいものを見せてしまうが、なに、すぐに終わる。少し待っていてほしい」
時間をかけるつもりがないって言ってるようなものだね。王様にとって、カイザさんはもうその程度の人なのかもしれない。私も好きじゃないけど。
「それでは陛下、私もあまり時間を使うつもりはありません。とりあえずこの馬鹿、燃やしていいでしょうか?」
「うむ。いや待とうかミレーユ。説教などもはや無意味である故、やるつもりはないが……。せめて、こいつを手助けした愚か者も捕まえておきたい」
「なるほど」
手助けって何だろうと思ったけど、奴隷になったカイザさんを助けた誰かがいるらしい。
犯罪をした上での奴隷は、決められた年月働かないと解放はされないはずなんだって。どれだけお金を積んでも変わらないらしい。それなのにここにいるということは、カイザさんを逃がした人がいるということ。
「そしてそれは、カイザが使っていた魔道具の持ち主だろう」
そう王様が言った直後、部屋のドアがノックされた。そうして入ってきたのは、知らない人たちと知ってる人、アリシアさんだ。
知らない人は、中年ぐらいの男の人と若い男の人。多分家族かな。アリシアさんがいるなら、この人たちがソレイド家なのかも。
若い男の人は、真っ白な顔色でアリシアさんの前を歩いていた。アリシアさんはその人をじっと見つめてる。逃げ出さないように、だと思う。
「失礼致します、陛下。ようやく愚息めが口を割りましたので、ご報告にと参りました」
「うむ。こちらもカイザを捕らえたところだ。使っている魔道具はお前の家の物だな?」
「間違いなく」
その後の話をまとめると、ソレイド公爵の息子はカイザさんの側近みたいな立場だったみたい。奴隷になってしまったカイザさんを助けるために、家宝とも言える魔道具を持ち出し、カイザさんを救出、そしてカイザさんに魔道具を貸し出したらしい。
カイザさんが汚名返上すれば、自分も第二王子の側近に返り咲けるから、みたいな理由だったみたい。そんなにいい立場なのかな。
カイザさんの理由は、すでに語られてる通り、だね。
それらの話を全て聞き終えたみんなの反応は、
「まさか、ここまで愚かだったとは……」
「我が息子ながら情けない……」
「呆れて言葉も出ないとはこのことだな」
父親たちの反応はこんな感じ。ミレーユさんとメグさんは、ただただ黙ってカイザさんを睨み付けてる。放っておくとミレーユさんが燃やしちゃいそうで、ちょっと怖い。
『てかマジでカイザが馬鹿すぎない?』
『教育係とかどうなってんだよw』
『さすがにここまでいくと教育係が悪い気がしてくるな』
そうなのかもしれないけど、私としては正直、早く終わらせてほしい。私の目的は、王様に師匠のことを聞くだけだったんだから。
「ミレーユさん」
「はい。どうかしました?」
「この後は何かある?」
「そうですわね……」
いつの間にか大人たちで相談が始まってる。カイザさんが盗みを働いた家への賠償とか、カイザさんたちへの罰とか、そんな話だ。今回は奴隷落ちよりもさらに厳しい罰になりそうな声が聞こえてくる。
ちなみにカイザさんは何度も叫んでその話し合いに介入しようとしてるけど、お仲間さんはもう諦めたのか項垂れて黙り込んでる。自業自得ではあるんだろうけど。
「もうないですわね。わたくしも話し合いに参加してきますわ。リタさんはどうされますか?」
「んー……。隅で待ってる。呪いをかけるのもいいよ」
「考えておきますわ」
あ、これ、今までと違って本当に候補に入れてる気がする。もちろん私は大歓迎だけど。
そういうわけで、みんなが話し合いをしている中、私は部屋の隅でのんびり待つ。アイテムボックスからお菓子を取り出して、ついでにジュースも。お菓子はなんだかとっても長いヒモみたいなグミ。
グミをもぐもぐしながら話し合いを眺める。内容はあまり興味ないから聞いてない。結果だけでいいから。
『途中で飽きたけど惰性で見続けるアニメを見てる時のワイみたいやな』
『リタちゃんとテメエみてえな小汚いおっさんを一緒にすんな』
『そうやな、ごめん』
『素直に謝るなよ悪かったよ言い過ぎたよ……』
『なんだこいつら』
深夜のせいか、普段とはなんだか違う人も多い、気がする。気がするだけでいつも通りかも。
もぐもぐしていると、アリシアさんが近づいてきた。アリシアさんは私のグミに興味があるみたいで、じっとグミを見てる。
「リタ。なにそれ?」
「グミ。食べる?」
「食べる」
「ん」
グミをちぎって、アリシアさんに渡す。アリシアさんはグミを口に入れると、少しだけ困惑してるみたいに首を傾げた。
「美味しいけど、これ……。食べ物?」
「食べ物。飲み込んでも大丈夫」
『そっか、異世界にグミなんてないわな』
『グミの歴史って地球でも百年かそこらだからな』
『何も知らなかったらやわらかいゴムだと思われそうw』
私も初めて投げ菓子でもらった時は、ちょっとびっくりした。不思議な食感だったから。
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