カイザの言い分

 三十分ぐらい、かな? それぐらい待たされて、メイドさんが迎えに来た。今はメイドさん以外にお城の人はここを見てないみたい。ちょうどいいね。


「メグさん」

「はい?」

「ちょっと出かけてくる」

「はい!?」


 とても驚いてる。私もさすがに急だとは思うけど、今しかないと思うから。


「ジュードさんに何か聞かれたら、すぐに戻るからって伝えておいて」

「えっと……。はい。かしこまりました」


 まだまだ困惑してたみたいだけど、頷いてくれた。さすがはメグさんだ。


『おかわいそうに』

『てかリタちゃん、どこ行くつもり?』

『ばっかお前、ミレーユちゃんのとこだろ間違いなく』


 ん。そうだね。ミレーユさんのところで間違いない。

 カイザさんは本物の第二王子だし、やっぱり処罰の場にはミレーユさんが必要だと思うから。処罰に納得するかどうかは、誰よりもミレーユさんとメグさんが大事だと思う。

 もちろん盗みの被害の家もあるだろうけど、孤児院の人はそのお金に手をつけてなかったから、そっちはお金で解決できると思う。多分だけどね。


 というわけで、メグさんしか見ていないことを確認して、転移。転移先はミレーユさんの宿の前。中に入ると、宿の人がとても驚いていた。でも、私だと分かるとすぐに通してくれた。覚えてくれたらしい。

 階段を上がって、ミレーユさんの部屋へ。ドアをノックすると、すぐにミレーユさんの声が聞こえてきた。


「ふぁい……。どなたです……?」

「ん。リタ。カイザさんを捕まえた」

「え? えー……。ああ、なるほど。処罰の場に私を連れて行くべきだと、リタさんは判断してくれたのですわね」

「ん」


『すげえ、会話らしい会話がなかったのにだいたい察したっぽい』

『これが天災か……!』

『誤字のはずなのにあながち間違いではなさそうなのがw』


 少し待ってくださいまし、という声の後、十分ほどばたばたと音が聞こえて、そして出てきたミレーユさんはいつもの服装のミレーユさんだった。


「お待たせ致しました。お願いしますわ」

「ん」


 ミレーユさんの手を握って、再び転移。今度の転移場所は、お城で案内された部屋。幸いなことに、部屋の中には誰もいなかった。片付けのメイドさんとかも入ってなくて、一安心だ。


「あれ? どこに行けばいいのかな?」


『そりゃもちろん……、あれ?』

『部屋を出てすぐ転移したから行き先が分からねえw』

『どうすんだよこれw』


 いや、うん。本当にどうしよう。

 そっとミレーユさんを見ると、なんだか少し呆れたような表情だった。


「仕方ないですわね……。この時間ですし、謁見の間は使わないでしょう。おそらくは、会議室ですわね。こちらですわ」


 そう言って、ミレーユさんが先導してくれる。私もそれについて歩く。

 ミレーユさんの歩みに迷いはない。お城の中をしっかりと把握してるらしい。


「お城の中、詳しいの?」

「そうですわね。第二王子の婚約者でしたから。彼の補佐のためにも、城の内部はしっかりと把握しておりましたわ」


 もっとも、無駄になりましたけど、とミレーユさんはどこか寂しそうに言った。


「ん……。ごめん」

「ふふ。気にしていませんわ」


 まったく気にしてない、ということもないのかもしれない。ちょっとだけ、悲しそうだったから。

 そのまま黙って歩いて、そうしてすぐにある部屋にたどり着いた。一応、開ける前に中の状況を確認しておこう。中の声を拾って、ミレーユさんと、あとついでに配信にも聞こえるようにしよう。


「なんでもありですわね……」

「えっへん」

「褒めてるわけではありませんわ。いえ、助かりますけれど」


『正直、リタちゃんなら何をしても驚かない自信がある』

『なにせリタちゃんだし』


 どういう意味かなそれは。

 さてと……。えっと……。


「皆の者、待たせたな。そして、カイザよ。またお前の顔を見ることになるとは思わなかったぞ」

「お久しぶりです、父上」

「見たくなかったがな」


 この聞き覚えのない、ちょっと低い声が王様の声なのかな。振り返ってミレーユさんの顔を見ると、陛下ですわと頷いた。王様もちょうど今来たところみたい。


「まさか、ここ最近の盗みの犯人がお前とはな……。なんと、嘆かわしい」

「お言葉ですが、父上。私は何も悪いことはしておりません!」

「はあ……?」


 これは、王様だけじゃなくて、ジュードさんたちの声もある。みんな呆れてるみたい。

 そこから、カイザさんの演説が始まった。


「私は! 自分の間違いに気が付きました! 確かにメグを婚約者にするための、ミレーユに対して婚約破棄をしたのは失礼だったと!」

「あー……。よし。続けろ」


『これ絶対王様諦めてるだろw』

『すでに王様の声からやる気のなさが伝わってくるw』


 すごいね。私でも分かるほどだよ。カイザさんには伝わってないみたいだけど。


「しかし! すでに私は宣言してしまった! 故に、まずは汚名を返上しなければならないと考えました!」

「ふむ。それで?」

「故に! 私は私腹を肥やす貴族から! 富の再分配を行うことにしたのです!」

「なるほどわからん」


『なるほどわからん』

『やべえマジで意味不明だぞこいつ』

『なあんでその発想から盗みになるんですかねえ?』


 なんというか、んー……。なんだろう。もう、うん。すごい。


「この善行を完遂させ! 改めてミレーユに婚約を申し込み! メグを側室として迎え入れようと考えております!」

「ちょっとあいつ殺してきますわ」

「ミレーユさん落ち着いて!」


『ミレーユさん、キレた!』

『なんかどっかで見たことある光景だなあ』

『そうだな。例えばメシを台無しにされてキレたリタちゃんを止めるミレーユさんとかな』

『それだw』


 あの時の私ってこんな感じだったんだね。ちょっと気をつけようかと思う。

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