王城へ

「ん。泥棒」

「ふむ……。ということは、あなたがバルザス公爵が雇っている魔女殿ですか。お目にかかれて光栄です。ところで、その者が……?」

「ん」


 つんつんお前を中断して、立ち上がる。カイザさんの顔を見えるようにしてあげると、カイザさんが突然叫び始めた。


「伯爵! 貴様! 俺にこんなことをして、どういうつもりだ! 貴様! 不敬だぞ! 貴様!」

「鳴き声が貴様になった」

「なきご……」


 伯爵さんが一瞬だけきょとんとした後、小さく肩を震わせる。それを見てカイザさんがまた何か叫び始めたけど、伯爵さんは咳払いをしてカイザさんを睨み付けた。


「どうも、カイザ殿。あなたはすでに王家から追放されたので平民であり、そして今は犯罪者です。奴隷でもあったはずですが、不敬なのはどちらでしょうな?」

「俺は! この国の第二王子だ!」

「だった、でしょうが。実に不愉快だ。心配せずとも、これからあなたを王城へとお連れしますよ」

「そうか! 父上なら分かってくださる!」

「ええ……」


『伯爵さん渾身のどん引きw』

『まさか喜ぶとは思わないわなw』

『是非とも続き見たいんだけど、リタちゃんこの後どうするの?』


 んー……。正直、この後についてはどうでもいいんだけど……。でも、私もこの人がどうなるかは興味がある。それに、ミレーユさんも呼びに行かないとね。


「伯爵さん」

「ああ、はい。これはお見苦しいところを。バルザス公爵には今すぐこちらからも使いを出しますが、もちろん私からも報酬を……」

「そっちには私から報告する。あとで私も王城に入れるかな? 見届けたい」

「ふむ……」


 伯爵さんは何かを考えるように手を組んで、そしてすぐに頷いた。


「魔女殿も当事者となりますので、問題ないでしょう。では、馬車の用意を……」

「んーん。飛べるから、いい」

「ほう。飛行魔法も可能とは……。では、王城でお会いしましょう」


 ということで、私はバルザス家に移動だ。一度外に出て、誰も見ていないことを確認してから自分の部屋に転移した。




 転移した先ではメグさんが呆然として突っ立っていた。


「なにしてるの?」

「はっ!? 魔女様!? いえ、今、一瞬でお姿が消えて……。あれ、でも、戻って……」

「あ」


『あ』

『あーあ』

『やっちまいましたねクォレハ……』


 ちょっと急いじゃったから、目の前で転移を使っちゃった。それだけ私がメグさんに慣れてしまったっていうのもあるけど。話していて、わりと楽しいから。

 でも、いい機会かな。メグさんがミレーユさんのメイドさんになるなら、遅かれ早かれ気付かれることだと思うし。守護者のことは話せないけど、転移ぐらいいいと思う。


「まさか……今のは……」

「ん。転移魔法。内緒だよ?」

「は……、はい! かしこまりました!」


 この様子なら問題ないと思う。もしかしたらジュードさんに報告しちゃうかもしれないけど、そこはあとで確認すればいいかな。ジュードさんに話してしまったら王様にも伝わりそうだけど、その時はすぐに逃げよう。


「ジュードさんに報告してくる。メグさんはどうする?」

「同行させていただきます」

「ん」


 メグさんを伴って、部屋から出る。でもこの時間ならさすがに寝てると思う。

 その予想は当たっていたみたいで、執務室に向かうと待機していた別のメイドさんがすぐにジュードさんを呼びに行ってくれた。

 少しだけ待たされて、食堂に集合。私がカイザさんを捕まえたことを報告すると、ジュードさんは少しだけ目を瞠って、そして獰猛な笑みを浮かべた。


「感謝致します、魔女殿。ふ、ふふ……」


 ちょっと、こわい。


『この人たちからすれば、娘が出て行った原因だもんなあ』

『この怒りは残当』

『こっちからすれば、関係ないのにちょっと怖いがw』


 少し落ち着いてほしいね。

 でもすぐに私が見ていることを思い出したみたいで、咳払いをして真面目な顔になった。それでも、どこか苛立ちを感じるのは、仕方ないのかも。


「伯爵さんは報告のために王城に向かった」

「ふむ。では私も向かうとしましょう。少々問題のある時間ではありますが、関わった者を考えると早い方がいい」


 ん……? これって、私のことかな。小声で聞いてみると、視聴者さんはすぐに否定してきた。


『多分違うぞ』

『リタちゃんは仕事しただけだしなー』

『カイザがやっぱり問題ってことでは』


 ああ、それもそっか。私は、早めに終わらせられるなら何でもいいんだけど。

 そこからすぐに王城に移動することになった。バルザス家のなんだか豪華な馬車にみんなで乗り込む。みんなと言っても、四人だけだ。

 私とジュードさん、それにジュードさんの護衛とメグさん。

 メグさんについては、私が連れて行きたいと言うと、不思議そうにしていたけど了承してくれた。多分私が気に入ってると思ったんだと思う。間違いではないけど。


 貴族の馬車は、なんだか大きなクッションを使った椅子になっていた。装飾もたくさんだ。クッションは馬車の揺れの前には少し無力だったけど。

 そうしてたどり着いた王城は、とっても大きなお城だった。魔法学園のものよりもさらに大きい。


「おー……。おっきい……」


『遠くからでも見えてたけど、マジででかいなこれ』

『ついにお城か。楽しみ』


 私も楽しみ。

 すでに伯爵さんがたどり着いてるみたいで、なんだか中がとても騒がしい。私たちは中に入って、準備ができるまではお城の中の部屋で待つことになった。

 お城の中だけど、すごく掃除が行き届いてるみたいで、床も壁もぴかぴかだ。装飾品もなんだかとても高級そうに見える。見えるだけで、詳しくは分からないけど。美術品はあまり興味がないから。


『すっげえマジのお城だ!』

『魔法学園とちょっと似てるけど、こっちの方が規模感は大きいかな』

『なんかすっげえわくわくするw』

『わかるw』


 視聴者さんが楽しんでくれてるみたいだし、それでいいかな。

 お城のメイドさんに案内されたのは、狭くはないけど広くもない、本当に待つことだけが目的の部屋みたい。


「ジュードさん、この後はどうなるの? さいばん? みたいなことするの?」


 ソファに座って一息入れてるジュードさんに聞いてみると、いや、と首を振って、


「おそらくは、夜の間に処罰するはずだ。元とはいえ、カイザは王族だった。これ以上、王家の信用を落とすわけにもいかない」

「んー……。ジュードさんは、それでいいの?」

「しっかりと処罰をしていただければ問題ない」


 つまりは、この後次第ってことだね。どんな話になるのか、ちょっと楽しみ。面倒でもあるけどね。

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