つんつんおまえ


 朝に少しお昼寝をして、夕方に真美のお家でご飯を食べて、夜は警戒。それがここ数日の行動パターンになってる。まだ捕まえることはできてない。被害の報告もないみたいだから、まだ犯行もしてないみたいだけど。

 でも、そろそろやってほしいなと、ちょっと思ってる。


「正直、飽きてきた」

「あはは……。でしょうね……」


 椅子に座って足をぷらぷらさせながら、ただただ待つだけ。メグさんが話し相手になってくれてるけど、さすがにこう毎日だと話題も尽きてくる。ミレーユさんのことも話し尽くしたし。


『正直俺らも飽きてます』

『二人の話がつまらないわけじゃないけど、ちょっと物足りない』


 言いたいことはなんとなく分かるよ。私も、メグさんとの話は楽しくないわけじゃないけど、やっぱり飽きてきてるのも事実だし。

 ちなみにメグさんは、私が夜にずっと起きてるからか、いつも付き合ってくれてる。私が朝から夕方までいないから、その時に睡眠を取ってるみたい。不規則な生活をさせてちょっと申し訳ないから、早く捕まえたいところだね。


「魔女様、お夜食をお持ちしましょうか」

「ん」

「はい。では少々お待ちください」


 夜に起きてるからか、深夜になってからメグさんはいつも夜食を用意してくれる。ハムと卵を使ったサンドイッチだけど、結構美味しいからちょっと楽しみにしてる。


『シンプルなサンドイッチだけど、それがいい』

『食べやすいのもいいよね』

『コンビニでレタスハムサンドでも買ってくるかな』


 レタスの入ったサンドイッチも美味しそう。シャキシャキしてるのかな。

 メグが持ってきてくれたサンドイッチを一緒に食べる。結構美味しい。

 そうして食べていたら、ついに、その時がきた。


「ん……」


 いつもと明らかに違う魔力反応。あの魔道具の反応で間違いない。ようやく、だね。


『お? リタちゃんの視線がちょっと鋭くなった』

『ちょっとすぎて分からないんだがw』

『もしかして、きた?』


「きた」


 本当に、ようやくだ。早速捕まえに行こう。


「ちょっと行ってくる」


 私がそう言うと、メグさんはすぐに察してくれたらしい。すぐに立ち上がると、丁寧に頭を下げてきた。


「お気をつけて、魔女様」

「ん」


 メグさんに手を振って、魔力反応があった場所に転移。バルザス家のお屋敷と比べるとあまり大きくないけど、それでも他の民家と比べるととても大きい、そんな家からその魔力反応はあった。

 そして、私の目の前に、窓から侵入する人がいた。黒いローブの男。あの時、孤児院にいた人で間違いない。捕まえようと思えば今すぐ捕まえることもできるけど、現行犯で捕まえてほしいと言われてる。だから、もうちょっと待ってついて行こう。


 少し強めに隠蔽魔法を自分にかけて、男の後をついていく。窓は、割って鍵を開けたみたい。とても豪快だ。気付かれないのかな? その音もあの魔道具が消してるのかも。

 侵入した後は、ゆっくりと屋敷を見て回る。ただほとんどが、少し開けては閉じるを繰り返してる。何かを探してるみたい。


『なんというか、泥棒を真後ろから見守るって、不思議な気分』

『やつもまさか、真後ろから監視されてるとは思うまいw』

『普通は思うわけがないわなw』


 そうだろうね。それにしても、何を探してるのかな。


『そりゃま、金目の物だろ』

『宝物庫とかあれば一発なんだろうけど、さすがにそんなのはないだろうしな』

『見てるこっちが緊張してくるw』


 何度も言うけど、私は早くやってほしい。とりあえず今日で終わりそうだから、それだけは安心だ。

 さらにしばらくついて行くと、やがて男はめぼしいものを見つけたのか、とある部屋の中にするりと入っていった。少し大きめの扉の部屋だ。広間か何かかな。もちろん私も後を追う。

 ここは……食堂、かな? 大きなテーブルがあって、部屋の奥には綺麗な絵が飾られてる。どこかの風景を描いたものみたい。


『はえー。綺麗な絵ですねえ』

『てか、これを盗むつもりか? マジで?』

『はははそんなまさか』


 わりと大きいよね、あれ。私よりも大きい絵だよ。盗むのは大変だと思うけど……。

 そう思ってたら、男は椅子に乗って、その絵を取り外してしまった。本当にこの絵を盗むんだ……。お金になるのかな?

 まあ、私には関係のないことだね。これは間違いなく現行犯だ。ぎゅっ。


「おわ!?」


 男が影から出てきた縄に拘束されて、その場で倒れた。ついでにフードも剥ぎ取っておく。もうこの魔道具の術式を壊してしまった方が手っ取り早い気もするけど、これも大事な証拠になるかもしれない。


「うおおお! なんだこれ! くそ! はなせ!」

「悪役が言いそう」


『リタちゃんwww』

『いや間違いなく悪役なんだろうけどw』


 男の側に立つと、男は私を睨み付けてきた。うん。間違いなくカイザさんだ。


「お前! お前の仕業か! お前! こんなことをして、ただですむと思ってるのか! お前!」

「おまえって鳴き声なの?」

「お前!」


『草』

『大事なことなので三回……、いやたくさん言いました』

『途中にお前を挟まないと話せないのかこいつはw』


 おもしろい人だね。いろんな意味で。アイテムボックスから木の枝を取り出して、つんつんしてみる。カイザさんの顔をつんつん。


「お前! お前! ふざけるな! お前!」

「ちょっと楽しい……」


『リタちゃんが……Sに目覚めた……!?』

『いやまあ、今回はちょっと気持ちが分かるけどw』

『すげえな、つんつんされるたびにお前って言ってるぞ。マジで鳴き声なん?w』


 つんつんお前を何度か繰り返していたら、部屋の扉が開かれた。慌てたようにたくさんの人が入ってきて、そしてみんな、私たちを見て固まってしまう。最後に入ってきた、少しだけ太った人が側に来て、何とも言えない不思議な表情をしていた。


「これは、どういう状況ですかな……?」

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