メグの事情
「ミレーユさんとはどういう関係なの?」
そう聞くと、メグさんは一瞬だけきょとんとした後、はっとしたように我に返った。今度は蒼白になってしまってる。
「も、もしかして聞こえてしまいましたか!? 申し訳ありません、その、えっと……」
「ん。別に私はミレーユさんの家族じゃないから、気にしない。それで?」
「は、はい。ありがとうございます。えっと、ミレーユ様とは、学園で良くしていただいて……。友達、でした。いろいろとご迷惑をおかけしてしまいましたけど……。私のせいで、冒険者になってしまったようなものですし……」
「ん……?」
改めて詳しく話を聞いてみると。このメグさんが、王子様の真実の愛の相手らしい。
『マジかよwww』
『この人ヒロインちゃんかw』
『ヒロインちゃんどうなってるんかなと思ったら、まさかのメイドw』
私が経緯を知ってることを言うと、それはもう、すごい勢いで話し始めた。
「あのクソヤロウ……、失礼、第二王子はいつからか急に私に話しかけるようになってきたんですよ。あのタマナシ……、失礼、馬鹿王子は何を勘違いしたのかいきなり婚約破棄とか言い始めて、私と婚約するとかアホなこと言い始めて、本当にあのゴミクズ……、失礼、クソ王子には苦労したというかなんというか……」
「…………」
こわい。
『これはあかんやつ』
『実はこの子から言い寄っていたのではとかちょっと疑ってすまんでした……』
『取り繕おうとして失敗しすぎっていうか、もはや取り繕う気もなくなってるのではw』
ミレーユさんもかなり怒ってると思ったけど、この人はもっと怒ってる気がする。
でも、話を聞いてみると、それもちょっと納得かなって。
ミレーユさんのおかげで最終的に誤解は解けたけど、それでもやっぱり、いろいろあったらしい。学園では例の王子がまだしつこく言い寄ってきて、そのせいで誰とも会話する機会を作れず、親しくしていたミレーユさんとも話せなくなって不満だったらしい。
誤解が解けた後も、王子をたぶらかしたのではという疑いがずっとつきまとって、勉学に集中できる環境じゃなくなってしまったみたい。せめてミレーユさんが残っていれば違ったかもしれないけど、ミレーユさんは自主退学して国を出ちゃったからね。
当然ながら就職もうまくいかず、路頭に迷いそうになってしまった、らしい。
「そこで助けてくれたのが、バルザス家の皆様でした。最初の頃にミレーユ様が機会を設けてくださって、騒動の謝罪はしていたのですが、その時も巻き込まれただけなのだから気にすることはないと許してくれていたんです。私の就職の件も予想していたみたいで、ここでメイドとして雇っていただけることになりました」
ちなみに。待遇はかなり良いみたいで、他にやりたい仕事が見つかればその勉強を支援してくれることになってるのだとか。太っ腹だね。
「何かしたい仕事があるの?」
「正直、貴族社会が怖くなったので、今はもうあまり希望はないですね……」
『そらなあ』
『貴族の、しかも王族や公爵家が関わる騒動に巻き込まれたってことだもんな』
『ミレーユさんもそうだったけど、この子も不憫すぎるだろ』
『いやミレーユは今の生活絶対楽しんでるだろあれw』
『言うなwww』
ミレーユさんは、うん……。第二王子に怒ってるのは間違いないけど、ちょうどいいとも思ってたかもしれない。多分、貴族として生活していても、そのうち飛び出したんじゃないかな。なんとなく、そんな気がする。
メグさんは、第二王子のせいで生活がめちゃくちゃになったと思うから、すごく怒っても仕方ないかなと思う。メグさんの言い方だと、以前まではやりたい仕事があったみたいだし。でも貴族の怖い面を見て、嫌になったのかな。
かわいそうだとは思うけど、そういう面を知らないまま働くよりは良かったかもしれない。そう思った方がきっといい。
「せっかくメイドとして働いているので、いつかはミレーユ様の元で働けたらな、とはこっそり思っているんです。どうせあの子のことだから、私生活はずぼらでしょう?」
「いや、そんなことは……」
ない、と言いかけて、言葉が止まってしまった。いや、その、人に見られる部屋は片付いてるけど、私室の方はなかなかすごかったからね……。
『これは有能メイドになりそうな予感』
『むしろ今すぐ行くべきでは?w』
『早くするんだ、手遅れになっても知らんぞ!』
「わりと手遅れだと思うよ」
『ちょw リタちゃんwww』
さすがにあの部屋はだめだと思うから。
だから、メグさんをまっすぐに見つめて、言った。
「メグさん。がんばってね」
「え? あ、はい。ありがとうございま……、待って! そういうことですか!? つまり、そういうことなんですか!?」
「のーこめんと」
「のーこめんとの意味は分かりませんが、察しましたよ……! あの子は、もう……!」
うん。本当にミレーユさんと仲が良かったんだね。でないとミレーユさんのあの一面は知らないと思うから。だから、メグさんには是非ともがんばってほしい。
それに、ミレーユさんはSランクだ。メイドの一人ぐらい、雇ってもいいと思う。お金は余裕あるだろうし。
「ありがとうございます、魔女様! 私、がんばります! がんばって一人前のメイドになって、あの子の性根をたたき直します!」
「あ、うん……。がんばってね」
今になってちょっと余計なことを言っちゃった気がするけど……。まあ、いいか。
その後ものんびりお菓子を食べながらお話をしつつ、警戒を続けていく。
でも、その日は結局、妙な魔力反応を感じることはなかった。
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