精霊様と例のお菓子

 食べ終わって、一息ついたところで、


「真美。真美。温泉、行かない?」


 そう聞いてみた。もちろんこれは、あのテレビ番組のことだ。真美もそれはすぐに察してくれたみたいで、少し考えてる。


「認識阻害は……大丈夫? さすがに全国に顔を見せるのは恥ずかしいよ」

「ん。しっかりかける。平気」

「それなら、いいかな……。でも、宿泊だよね? ちょっとお母さんと相談するから、待ってもらってもいい?」

「ん」


 テレビの人はこっちの予定を優先してくれるみたいだし、大丈夫だと思う。もしだめになっても、その時は私のお金で泊まりに行ったらいいし。あの依頼のおかげで、日本のお金にはあまり困らなくなったから。


『てことは、マジでテレビにリタちゃんが出る?』

『盛り上がってまいりました!』

『温泉回が楽しみ!』


 何を楽しみにしてるのかはよく分からない。私は勝手に楽しませてもらうつもりだから。


「それじゃ、そろそろ戻る」


 私が言うと、真美は頷いて手を振ってくれた。


「うん。気をつけてね、リタちゃん」

「ばいばーい!」


 真美とちいちゃんに手を振って、まずは森へと転移した。




「精霊様。いる?」


 世界樹の側で精霊様を呼ぶ。するといつも通り、すぐに精霊様は出てきてくれた。いつもの優しい笑顔で私を見てる。


「おかえりなさい、リタ」

「ん。これ、お土産。手、出して」

「え? はい」


 精霊様の手に、あのチョコを直接、いくつか置いた。小さな黒いたくさんのもの。


「なんでしょうか、これ」

「鹿のうんち」

「え?」

「鹿のうんち」

「え……。ええ……」


 おー……。精霊様が戸惑ってる。精霊様の目の前で一粒持って、口に運ぶ。甘くて美味しい。また精霊様を見てみると、今度は唖然とした様子だった。


『精霊様www』

『愛し子がいきなりうんち食べたらな……』

『そりゃそんな顔にもなるわw』


 さすがにちゃんと言わないとだめだね。あまり引き延ばすと怒られそう。


「鹿のうんちに見せかけたチョコ、だって」

「ええ……」


 あ、今度は戸惑ってる。その気持ちは、とても分かる。


「どうしてそれの見た目をチョコで再現したんですか……」

「ん。不思議」


『面白いから、じゃないかなw』 

『やっぱインパクトはすごいからなw』


 それはそうかもしれない。私も奈良では一番印象に残ったかもしれないし。


「これは……。美味しいですね……」

「ん」


 鹿のうんちを思い出してしまうとちょっと抵抗感があるかもしれないけど、食べてみると普通に美味しいチョコ菓子だ。だからこそ許されてるような気もするけど。

 精霊様に食べてもらったところで、私はそろそろ王都に移動だ。早く捕まえられたらいいな。




 バルザス家の屋敷に戻って、自分の部屋に向かう。部屋の前にはメグさんが立っていた。私を見つけると、笑顔で頭を下げてくる。

 もしかして、ここでずっと待ってくれてたのかな?


『多分そうかも?』

『今はリタちゃんのためのメイドさんらしいからなあ』

『急に戻ってくるかもしれないし、ずっと待機ぐらいは普通にしてそう』


 夜まで出かけるって言ったのにね。もしかしたらお昼は別のことをしてたのかもしれないけど。

 部屋に入って椅子に座って、一息。今のうちに探知魔法を王都全域に広げておこう。誰にも気付かれないように、ゆっくりと。


「魔女様。お飲み物はいかがですか?」

「ジュース」

「かしこまりました」


 メグさんが用意してくれたジュースをちびちび飲みながら、魔法を広げて、完成。これでこの王都で使われた魔法は全て把握できる。細かい魔道具もたくさん使われてるけど、情報の取捨選択なんていつものことだから。


「あの、魔女様。また夜にお出かけになるのですよね?」

「んーん。ずっとここにいる。魔法でもう監視してる」

「魔法で!? すごい、ミレーユでもそんなことできなかったのに……」

「ん……?」


 最後の方、小声だけどしっかり聞き取れてしまった。ミレーユさんを呼び捨てだ。でも、嫌いな人だから、みたいな雰囲気じゃなくて、親しい人相手のような感じだね。

 ちょっと不思議だったけど、でもミレーユさんだし……。


「ミレーユさんなら、メイドさんと友達になっていても驚かない」


『確かにw』

『冒険者になってるぐらいだからなw』

『気が合うメイドさんなら普通に友達になりそうな人ではある』


 私の小声に、視聴者さんが反応してくれる。やっぱりそうだよね。ミレーユさんだし。

 でも、一応聞いておこう。

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