クリームシチュー


 橋本さんとの話の後、真美の家に戻ると、真美がすでに料理を始めていた。えっと……。まだ学校の時間だったはずなんだけど。


「真美。学校は?」

「あ、おかえりリタちゃん。学校は大丈夫。これでも成績優秀だから」

「そうなんだ」


『成績優秀なら早退してもいいってことなん?』

『どんな学校だよそれw』

『真美ちゃんサボりはよくないと思います』


 そんなコメントを見て、真美は何とも言えない笑顔で視線を逸らした。だめなことみたい。じっと真美を見つめると、真美は苦笑を浮かべた。


「今回だけだから。リタちゃんが早く戻らないといけないから、急いだだけだよ」

「ん……。それなら、いいけど」

「うん。もうしないよ。多分。きっと」


『これは絶対またやるやつですね』

『これはもうダメかもわからんね』

『一度楽を覚えたやつは戻ってこれんぞ』


「いや、さすがにそこまでじゃないからね!?」


 多分だけど。私が早く帰るからっていう理由は本当のことだと思う。ちょっと迷惑かけちゃった気がする。やっぱりあっちの依頼、早く終わらせないといけないかな。


「真美。真美。ありがとう」

「え? あ、えっと……。どういたしまして」


 そう頷いてくれた真美は、どこか恥ずかしそうだった。


『これはてえてえやな?』

『きっとてえてえ』

『お前らなんでもかんでもてえてえ言えばいいってわけじゃないぞw』


 せっかくだから、私もちょっと手伝ってみる。手伝うと言っても、野菜を切るだけだけど。それも魔法でさくっと終わらせられるから、とても楽なものだ。

 野菜を切った後は見守るだけ。私よりも真美が作る方がきっと美味しいから。

 待ってる間にちいちゃんも帰ってきた。せっかくなので、ちいちゃんの魔法の訓練を見守る。前見た時とほとんど変わってないように思えるけど、普通はこういうものだ。

 むしろ、変化を感じられないその訓練をずっと継続できていることがすごいと思う。ちいちゃんはすごい。間違いない。


「ちいちゃんはえらいね」

「えへへー」


 撫でてあげると、ちいちゃんは嬉しそうにはにかんだ。かわいい。


『あああかわええんじゃあ!』

『まずいぞ錯乱兵だ! 衛生兵! 衛生兵!』

『錯www乱www兵www』

『やべえ今回の衛生兵は煽ることしかできねえぞ!』


 何をしてるんだろうね。

 そうしてのんびりと待っていたら、真美が料理を持って部屋に入ってきた。

 少し大きめの器には、クリームシチューというものがたっぷり入ってる。お野菜やお肉が入っていて、とっても美味しそう。香りも孤児院で食べたものとは全然違う。


「たくさん食べてね」

「ん」


 それじゃ、手を合わせて。いただきます。

 スプーンで早速一口、食べてみる。

 んー……。すごくとろみがあるシチューだ。真美が言うには、バターや生クリームとかも使ってるらしい。少しだけ甘みを感じる、不思議な味だね。しっかりと煮込んだからか、野菜もお肉もとても柔らかくなっていて、食べやすい。

 牛乳だけのあのシチューとは全然違う。いや、本当に。まず、牛乳の匂いがそんなにしないから。


「ご飯と一緒に食べても美味しいよ」


 とのことだったので、ご飯ももらった。ご飯にちょっとかけて、一緒に食べてみる。シチューにとろみがあるからか、ご飯にしっかりと絡まって、とても美味しい。


「ん……。すごく美味しい」

「そう? よかった」


 うん。ご飯も美味しい。いいね、これ。


『やべえ、めちゃくちゃ食いたくなってきた』

『レトルトのクリームシチューでも買ってこようかな』

『母ちゃんの得意料理だったなあ』

『泣くからやめろ』


 気付けばお皿が空になっていたので、真美にお代わりを入れてもらう。ご飯と一緒に食べるのもいいけど、そのままで食べるのもやっぱり美味しい。


「冬に食べるともっと美味しいんだけどね。体がぽかぽかするから」

「ん……。冬も食べたい」

「もちろん。作ってあげる」

「楽しみ」


『さらっと冬も食べに来る約束してる……』

『俺も真美ちゃんの手料理を食べてみたいです!』

『むしろ美少女の美味しい手料理が食べてみたいです』

『おまわりさん、こいつらです』


 もぐもぐ……。おいしい……。これ、とても好き。

 気付けば五回もお代わりしてしまって、さすがに真美に呆れられてしまった。


「いっぱい食べてくれるのは嬉しいけど、さすがにびっくりしたよ」

「ん。カレーの次に好き」

「びっくりするぐらいの高評価だね!?」


『つまり全ての料理の中で二番目に好きってことでは?』

『マジかよクリームシチューすげえw』

『でも確かに美味しいからな!』


 ん。とても満足した。また食べたい。

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