鹿の○○
料理を持ってこられた時に置いていかれた伝票を持って、入り口のカウンターへ。するとお店の人がすぐに来てくれた。いつもみたいにスマホで電子決済。とっても便利。
「あ、あの! 写真、いいですか!」
「ん」
写真はいつものことだから、と思ってたんだけど……。
お店の外に出て、みんなで並んで撮ることに。お店の建物を背にして、料理人さんも全員出てきて、さらには居合わせたお客さんも集まって、みんなで記念撮影。今までで一番の大人数かもしれない。
『こいつらwww』
『写真を撮りたい、分かる。料理人さんも出てくる、まあわかる。お客もみんな出てくる、これが分からんw』
『でもその場に居合わせたら同じことするんだろ?』
『それはそう』
みんな写真好きだよね。これで喜んでくれるのなら、写真ぐらいなら一緒に撮るよ。あまり時間がかかるようなら帰るけど。
お店の人やお客さんが手を振って、お店の中に戻っていく。私も満足したし、そろそろ次に……。
「リタちゃん!」
そう思っていたら、聞き覚えのある声で呼び止められた。ここまで案内してくれたおじさんだ。おじさんはビニール袋を持って、こっちに走ってくるところだった。
「間に合ってよかった……!」
「どうしたの?」
「是非これを。奈良に来たのなら食べてほしくて」
渡された袋の中を見てみる。入ってるのは、お菓子だね。お菓子。嬉しい。嬉しい、けど……。なんだろうこのお菓子。
「チョコのお菓子……? えっと……。鹿のうんち……?」
『ついにきたw』
『今回は巡り会わなかったかと思ったらw』
『おじさんファインプレーだ!』
奈良では有名なお菓子みたい。でもすごいお菓子だね。奈良と言えば鹿、とは聞いたけど、まさか、その……。うんちモチーフのお菓子があるとは思わなかった。
うん……。その、えっと……。
「さすがに私でもうんちばっかり言いたくないんだけど」
『草』
『そりゃそうだw』
『だがリタちゃん、そのお菓子を語る上では鹿のうんちは避けて通れないのだ……!』
どうしてそんなお菓子にしたの? よりにもよってうんちなの?
チョコ菓子とチョコのお団子があるみたい。どっちも、うんちモチーフ。なんというか……。すごいね。美味しそうだから困る。
試しにチョコ菓子の方を開けて、少し食べてみる。
「美味しい……」
いや、本当に、普通に美味しい。見た目は鹿のうんちなのに。
「気に入ってもらえたかな?」
「ん。精霊様と一緒に食べる。鹿のうんちあげるって言う」
「え」
『ちょwww』
『やめてさしあげろwww』
『どうしよう、止めるべきなのに精霊様の反応を見てみたいw』
私もちょっと見てみたい。これはやっぱり精霊様と一緒に食べるべきお菓子だ。後の楽しみだね。
「ありがとう、おじさん」
「いやいや。また是非とも奈良に来てね」
「ん」
おじさんに手を振って、その場から転移した。
転移した先は、橋本さんと会う時に使うホテルの部屋。すでに橋本さんは待ってくれていたみたいで、椅子に座って何かを飲んでいた。
「いらっしゃい。待っていたよ」
「ん」
橋本さんの向かい側に座る。テーブルの中央にはいつもと同じようにお菓子がある。今日のお菓子は、クッキーだね。美味しそう。
「今日もお守りの依頼?」
「いや、今日は別件なんだ。お菓子を食べながら聞いてほしい」
「ん」
言われた通りにお菓子に手を伸ばす。なんだかちょっぴり高そうなクッキーだ。食べてみると、ほんのりと優しい甘さが口の中に広がった。
『これは高級クッキー』
『誰でも知ってるメーカーだな』
有名なクッキーなのかな。
「実は、是非とも相談したいことがあってね」
「ん?」
「テレビ局から、ある番組に出てくれないかと問い合わせが来ているんだよ」
『ふぁ!?』
『テレビ番組だって!』
『いや、でもわざわざ首相が伝えてくるっておかしくない?』
そうなのかな。それに同意するコメントは結構多いみたいだけど。
「何かあるの?」
「何か、というよりも、リタさんへの連絡手段を私しか持っていない。だからどうしても国を通すことになる。ただ、リタさんは日本に来る時間は限られているからね。いつもは全て断っているけど……。今回の依頼は、リタさんも気になるだろうと思って、一応伝えておこうかと」
「ん?」
詳しい話を聞いてみると、温泉地への一泊二日の旅行番組、らしい。私の配信を見ていた偉い人が、お風呂が好きならということで企画してくれたみたい。
番組側からの同行者もいるけど、私の方でも連れていっていいらしいから、受けるなら真美に来てほしいかも。
「日程は、私にメールをしてくれたら、私の方から伝えさえてもらうよ。可能な限り希望に添えるようにするそうだ。断る場合も、私の方から伝えさせてもらう。どうかな?」
んー……。どうしよう。すごく興味がある。テレビでもそういう番組は見たことあるけど、楽しそうだったんだよね。ご飯も美味しそうだったし。
でも、行こうと思えばいつでも行けるかな……。
「視聴者さんはどう思う?」
『テレビ番組なら前もっての準備を全部してくれそう』
『悩まずにただ楽しめる、という点では大きいかも?』
『ただし日本中の人に見られるけどな!』
『ぶっちゃけ第三者から見たリタちゃんの様子を見てみたい』
んー……。賛成の人の方が多いのかな。じゃあ、やってみてもいいかも。
「詳しい話を知りたいのと、あとは真美に聞いてみる」
私がそう答えると、橋本さんは頷いて、
「分かった。ではもう少し詳しい内容を聞いておくよ。メールで送ってもいいかな?」
「ん」
「できるだけ急がせるよ」
温泉はちょっと楽しみ、かな?
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