おっきな像
「あなたは、りた、ですか?」
「ん……? 日本語、できるの?」
「ちょっとだけ」
『おー!』
『日本語ができるなら安心やな!』
何が安心かは分からないけど、少しぐらい話してもいいかな、とは思えてきた。
「ん。リタ、です」
「おー! あなたは、わがくにでも、わだいに、なっています!」
「そうなの?」
『せやで』
『日本ほど騒ぎにはなってないけど、それでも話題にはなったっぽい』
『まあ本物かイタズラかの話題が多かったみたいだけど』
日本でも、最初はそういう感じだったらしいね。海外には一度も行ってないし、やっぱり本物かどうか分からないっていうのは大きいのかも。この世界には魔法がないみたいだし。
でも、あまり興味はないかな。海外の人にどう思われても、私には関係がないから。行く予定は今のところないし。
「リタ、ぜひとも、ぼくのくににも、きてほしい、です」
「それは、やだ。言葉が通じないのは不便」
「ぼくが、つうやくで、どうこうします!」
「それはそれで面倒だからね?」
いちいち誰かを間に挟まないと会話できないのは不便すぎるよ。それに、通訳の人が間違えたら、ケンカになっちゃうかもしれないし。
それに、何よりも。それを認めたら海外の偉い人が何か言ってきそうで、それもまた面倒だ。
「だから、やだ」
簡単に説明すると、金髪の人は残念そうにため息をついた。
「それなら、しかたありません。なら、おもいでに、まほうを、おねがいできますか?」
「ん。それぐらいなら、いいよ。シャボン玉でいい?」
「もちろんです」
それじゃ、いつものシャボン玉を。杖で地面を叩くと、周囲にシャボン玉が浮かび上がった。ついでに形も変えていく。せっかくの奈良だし、鹿の形にしてみよう。テレビで見ただけだけど。
『犬猫じゃなくて鹿の形は驚いたw』
『すげえな、なんとなくだけど鹿って分かる』
鹿の形のシャボン玉に、目の前の男の人だけじゃなく、周囲の人も騒ぎ始めた。写真をたくさん撮ってる。喜んでくれたのなら、ちょっとだけ嬉しい。
「おー! ありがとうございます、りた!」
「ん。それじゃ、元気でね」
金髪の人に手を振って、その場を離れた。それじゃ、改めて入っていこう。大きな門を通っていく。あ、なんだかでっかい像がある。すごい。
「おっきい」
『金剛力士像やな』
『日本最大級の木彫像、だったはず』
「かっこいい」
『せやろせやろ!』
『なんかちょっと嬉しいw』
宗教とか歴史的背景とかはよく分からないけど、すごくかっこいいと思う。なんだか強そうだね。迫力もある、気がする。
門を通って道を歩いて行く。次の大きな門は通れないみたいで、隅にある通路から中に入っていく。とても広い。あと通路の真ん中って言えばいいのかな。不思議な物がある。なんだろうこれ。
『八角燈籠』
『ものすごーく、古いやつ』
「ふーん……」
歴史的価値がある、みたいな感じかな?
そしてそのまままっすぐ、大きな建物に入った。大仏殿っていうらしい。その中に、それはあった。
「おー……」
さっきの、金剛力士像、だっけ? それよりもずっと大きい。見上げるほどに大きな像だ。これを昔の人が造ったなんて、本当にすごい。
『これが有名な奈良の大仏です』
『リタちゃんには分からないだろうけどw』
『観光客が多い一番の理由、かもしれない』
これだけ大きい像なら、見に来る価値はあるのかもしれないね。うん。私もなんだかすごいなと思った。
大仏殿を抜けて、のんびりと歩いてたくさんのお店の並ぶ通りに出た。お土産を買うお店がたくさんあるみたい。そしてその道に、いっぱいいた。
鹿だ。鹿がいっぱいいる。我が物顔でうろうろしてる。すごい。
「鹿って、誰かに飼われてるの?」
『一応野生だよ』
『餌付けはされまくってるけどな!』
『なお鹿せんべい以外はあげないように』
鹿せんべい。鹿のためのおやつ、かな? ちょっと私も食べてみたくなるけど、さすがにそれはだめな気がする。なんとなく。
周囲を見てみると、鹿せんべいらしきものを直接あげてる人が何人かいた。すごいね、人間の手から直接食べるんだ。野生とは思えない。ちょっとかわいい。私もやってみたい。
近くのお店に行くと、店員さんが私を見て口をあんぐりと開けた。
「え、あ……。リタ? 魔女の?」
「ん。鹿せんべいほしい」
「食べちゃだめだよ?」
「食べないよ?」
『草』
『真っ先に注意されてるw』
『みんな考えることは同じなんやなってw』
待って。つまりみんなも私が食べるって思ったってこと? みんな私のことをどう思ってるの?
鹿せんべいを買って外に出ると、鹿がこっちに集まってきた。見て分かるのかな?
とりあえず鹿せんべいを一枚取り出して、差し出してみる。すると鹿がぱくりと食べた。もぐもぐと食べて、また食べて。その間に他の鹿も寄ってきてる。いっぱいだ。
「たくさん来た」
『いやすごいなこれ』
『日常風景です、と言いたいところだけど、これは多すぎるw』
『何故かリタちゃんのところにばっかり寄ってきてるなw』
不思議だね。本当にたくさん集まってきた。鹿せんべいを一匹ずつに渡してるけど、全然足りない。とりあえず追加で購入して、またあげていく。
もぐもぐ食べる鹿。なんだかとても美味しそうに見える。ちょっと、食べてみたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます