わんことにゃんこのシャボン玉
「本人かどうかは分からないけど、ミレーユさんの元婚約者、だよね?」
「ええ、そうですわ……。またその名前を聞くことになるなんて、思ってもいませんでした」
ミレーユさんの顔はとても苦いものになってる。やっぱり、あまり聞いて楽しいものではないんだと思う。ミレーユさんからすれば、奴隷として今も働かされてると思ってただろうから。
自称カイザの話をとりあえず伝える。おそらく貴族の屋敷に盗みに入ってることと、そのお金を寄付するというよく分からないことをしている話。あと、何故か持ってる魔道具もだね。
一通り話すと、ミレーユさんは頭を抱えてしまった。
「あの馬鹿、何をやっているんですの……。脱走した上に、盗みを働いて……。意味が分かりませんわ……」
「ん……。知りたくなかった? ごめん」
「ああ、いえ。構いませんわ。リタさんは気にしないでください」
ミレーユさんはそう言ってくれるけど、その表情は少し暗い。やっぱり、話さない方が良かったかも。
私のその考えを察したのか、ミレーユさんはすぐに苦笑して言った。
「本当に気にしないでくださいね。いえ、むしろ、教えていただいてありがとうございます、ですわ。知っているのと知らないのとでは違いますから」
それに、とミレーユさんが続ける。
「もう少し、復讐をしても許されるということでしょう……?」
「ん……」
『こわいwww』
『これが、目が笑ってない笑顔かw』
ミレーユさんが何かをするなら、できるだけ協力するつもりだよ。呪いをかけるなら、それもいいと思うし。
「リタさん。お願いがありますわ」
「ん。呪い? 今すぐかける?」
「そ、それは今のところはいいですわ……」
『ミレーユさんが微妙に引いてるw』
『リタちゃんちょっと気が早いんじゃないかなw』
『本人かどうかまだ分からないって言ってるのはリタちゃんだろうにw』
それは、そうなんだけど。でもみんなの反応を見てると、同一人物で間違いないと思えてくる。
「お願いというのは、単純ですわ。捕まえたら、わたくしも呼んでほしいのです。直接話を聞きたいですわ」
「ん……。それぐらいなら、いいけど」
転移を使えばすぐだから、ミレーユさんが望むのなら迎えに来てあげるのは問題ない。でも、ミレーユさんはいいのかな。当然だけど、直接会うことになるだろうけど……。
少し心配したけど、それは意味のないものだった。
「ふふふ……。今度こそ念入りに叩き潰してあげますわ……」
「…………」
『こわいこわいこわいこわい』
『やべえこの人目がガチだw』
んー……。この様子なら、心配なさそうだね。
最後にミレーユさんに迎えに来ることを約束して、私は日本に転移した。
真美の家で待っていたのは、ちいちゃんだった。
「おはよう、ちいちゃん」
「むう……」
じっと、ちいちゃんに見つめられてる。何かをお願いするみたいに。何をお願いされてるかは、さすがに私も分かってるけど。
シャボン玉の魔法を使って、さらに追加でシャボン玉の形を変えていく。今回は何にしようかな。
「ちいちゃん、見たい動物はいる?」
「わんこ! にゃんこ!」
「わんことにゃんこだね」
シャボン玉の形を犬や猫に寄せていく。するとちいちゃんは分かりやすいほどに喜んでくれた。私も一安心だ。
『シャボン玉にはしゃぐ幼女』
『かわええのう、かわええのう』
『おまわりさん、おれたちです』
『自ら出頭するのかw』
動物のシャボン玉にはしゃぐちいちゃんは確かにかわいいと思うよ。
「リタちゃん。いらっしゃい」
嬉しそうなちいちゃんを眺めていたら、真美が声をかけてきた。何かを作ってるみたいで、お皿にはパンが載ってる。何のパンかな。
じっとそれを見ていたら、真美は笑いながら教えてくれた
「今からピザトーストを作るよ。ピザは覚えてる?」
「ん」
「それを家庭で簡単に作ったもの、かな。すごくお手軽だからたまに作ってる。リタちゃんも食べるよね? 焼いてくるから待っててね」
真美はそう言うと、すぐに部屋を出て行ってしまった。もう用意はしてくれてたってことかな。とても楽しみだ。
『ピザトースト、いいよね』
『自分の好きなトッピングで、好きな量をかけられて、焼きたてを食べられる』
『お店のピザではなかなか味わえないよな、あれは』
みんなもピザトーストは好きみたい。とても気になる。
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