ミレーユさんへ報告


 朝食の席でジュードさんに夕方まで出かけることを伝えてから、転移してきた先は精霊の森の側の街。ミレーユさんに会いにきた。


「ミレーユさんに、カイザって人のことを伝えておきたい」


『え、伝えるの?』

『ミレーユさんの気苦労を増やすだけのような気もする』

『やめておいた方がいいのでは?』


 んー……。確かにミレーユさんにとっては面白くない話だとは思うけど、でも伝えないのも不誠実だと思うから。少なくとも私はミレーユさんの事情を知っていて、こうしてすぐに伝える手段があるわけだし。

 それに、何かするにしても、ミレーユさんの意向は聞いておきたい。仕返しの方法はミレーユさんが決めるべきだと思う。


 とりあえずまだ早朝だし、ミレーユさんの宿に行ってみよう。そこにいなかったらギルドかな? それでも見つからなかったら探知しようと思う。

 アイテムボックスからあめ玉を取り出して口に入れて、のんびり歩く。んー……。メロン味。美味しい。


『さらっと飴を食べてるw』

『あまりにも早すぎる開封、俺でなきゃ見逃しちゃうね』

『わりと普通に見えてたがw』


 別に見られたからってこの程度で声をかけられるとは思えないし、気にもしてないよ。

 宿に入ると、カウンターのところでお姉さんがあくびをしていた。私に気が付いて、慌てて姿勢を正してる。


「い、いらっしゃい」

「ミレーユさん、いる?」

「自室にいるよ。どうぞ」


 私のことを覚えていてくれたみたいで、すぐに通してくれた。

 階段を上って、ミレーユさんの私室へ。ノックすると、すぐにのんびりとした声が聞こえてきた。


「はーい……。どなたですの……?」

「ん。リタ」

「リタさん!?」


 部屋の中からどたばたと、慌てたように立ち上がって、そして何かにぶつけて転んで、そしてまた立ち上がったような音が聞こえてきた。


「ふぎゃって聞こえた」


『言うなw』

『確かに聞こえたけどw』

『めちゃくちゃ慌ててるなw』


 急がなくてもいいんだけどね。そう思っている間に、ドアが勢いよく開かれた。少しだけ髪がはねてるミレーユさんが、息を切らして立っていた。


「お、おはようございます、リタさん。どうされましたの?」

「ん。ちょっと王都のことで報告があって。今、少しだけいい?」

「ええ、もちろんですわ。あー……。でも、来客用の部屋で待っていてもらっても? 準備をしてから行きますわ」

「ん」


 私が頷くと、ミレーユさんはすぐに部屋に戻ってしまった。部屋からは断続的に物音が聞こえてきてる。これは、邪魔しない方がいいよね。

 ミレーユさんが指定した部屋に入って、椅子に座る。前も来た部屋だけど、やっぱり綺麗な部屋だ。掃除も行き届いてる。ここの掃除はミレーユさんがしてるのかな?


「ここの掃除って誰がしてるのかな」


『急にどうしたリタちゃん』

『ミレーユさんでは? 魔法使いの部屋なんて何があるか分からないし、宿の人もやりたくないだろ』

『いや、でも公爵家のご令嬢が掃除するっていうのはあまり想像できない』

『でも、ミレーユさんだし』

『そこだよなあ』


 ミレーユさんにちょっと失礼だと思うよ。

 そうして待っていると、すぐにドアがノックされて、ミレーユさんが入ってきた。さっきまでと違って、しっかりと服装も髪型も整ってる。すごい。


「お待たせしました、リタさん。王都で何かあったのでしょうか?」

「ん」

「詳しく聞きましょう」


 ミレーユさんが私の対面に座る。私がアイテムボックスからジュースとクッキーを取り出すと、ミレーユさんはすみませんと頭を下げてきた。

 二人でジュースを飲んで、一息。それじゃ、そろそろ。


「王都でジュードさんたちに会ったよ。いい人たちだった」

「あら、そうですの? そう言ってもらえると嬉しいですわ」


 嬉しそうに、どこか安堵した様子で、ミレーユさんが微笑んだ。少し心配してたみたい。ミレーユさんのご両親なんだし、何かあったとしても気にしないんだけどね。


「あとは、深緑の剣聖と会ったよ」

「な……! 剣聖様と!? それはまた……、驚きましたわ」

「いい人だった。あと、とても強い」

「リタさんの基準で強いと聞くと、わたくしでは想像が難しいですわね……」


 多分、ミレーユさんだと勝てないと思う。魔法使いと剣士で考えるのがまずおかしいんだけど。

 でも、せっかくだから話そうと思ったから話しただけで、今はあまり関係ない。重要なのは、ここからだから。


「ミレーユさん」

「なんですの?」

「カイザって人に会った」


 ミレーユさんが大きく目を見開いた。すごく驚いてるみたい。

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