怪しい人
次は、子供たちの方に話を聞いてみたけど……。やっぱり、特別な話はしてないみたい。魔法を見せてくれた、と嬉しそうに教えてくれた。
「あなたも魔法使いだよね? 魔法見せて! 魔法!」
そう言ってきたのは、見た目は私と同い年に見える女の子と男の子。すごくわくわくした目で私を見てる。気が付けば、周囲の視線も私に集中してる。アリシアさんも何故か私を見てる。
んー……。どうしよう。師匠はどんな魔法をこの子たちに見せたのかな。
とりあえず、子供に見せる危険のない魔法といえば、やっぱりこれ、だよね。
使ったのは、ちいちゃんにも見せてあげたシャボン玉の魔法。色とりどりのシャボン玉が部屋の中をふわふわと浮かび始める。
「わあ!」
「すごい! きれい!」
「賢者様の魔法とおんなじだ!」
喜んでもらえて、私も嬉し……、まって。
「賢者様と同じ?」
「うん! 賢者様もこの魔法を見せてくれた!」
この魔法は、私がちいちゃんに見せるためにその場で作った魔法だ。だから、私は師匠がこの魔法を使っているのを見たことがないし、私も見せたことがない。そのはず、だったんだけど。
『子供に見せる危なくない魔法、の発想がおんなじだったんだろうな』
『ほーん。やっぱ師弟なんやなって』
『似たもの師弟』
ん……。おんなじことを考えたってことだね。ちょっと、嬉しい。
『嬉しそうw』
『リタちゃんほんま師匠大好きだからなあw』
『おそろいで嬉しいってなんか微笑ましい』
『いやお前らなんでこの子の薄い表情で分かるんだよ……』
でも、このままで終わるのも、ちょっと寂しいかな? シャボン玉にもうちょっと魔法をかけよう。こう、かな……。
「わ! すごいすごい!」
「おさかなになった!」
「つのうしー!」
それぞれのシャボン玉に術式を加えて、形を変えてみる。子供たちの反応は上々だね。喜んでもらえて、私も少し嬉しい。
そう思ってたんだけど。
『リタちゃんリタちゃん』
「ん。真美?」
『ちいが、ちいはまだ見てないのにって拗ねてる』
「あ……」
『あw』
『そういえば俺たちも初見ってことは、やっぱちいちゃんも見てないのかw』
今作ったからね……。ちいちゃんにも見せてあげるから、今回は我慢してほしい。ちいちゃんに見せる時は、他にも何か魔法を考えておこう。
今は、それよりも。少しだけ気になってることがある。
私のシャボン玉で騒ぐ子供たち。ティゼさんたちも微笑ましそうにその様子を見守ってるし、それはアリシアさんも同じ。みんなが楽しそうな部屋の片隅に、その人はいた。
部屋の隅で椅子に座って、シチューを飲むその人。そのシチューはティゼさんに渡されていたから、不審者ということはないはず。ただ、不思議なほどに他の人から注目されてない。
若い男の人だ。年はミレーユさんと同じか少し上ぐらいかな? ぼさぼさの赤い髪で、灰色の外套を身にまとってる。その外套に魔法がかけられてるみたい。認識阻害、というよりは認識をずらす魔法かな? 自分から話しかけない限りは見つかりにくくなると思う。
その人に近づいても、反応しない。少しずつシチューを飲んでるだけ。周りの人も、やっぱり反応しない。子供たちがシャボン玉に夢中になってるからかもしれないけど。
『なんだこいつ』
『見るからに不審者』
『たたき出す?』
それは、話をしてから、かな。
「少し、いい?」
私が話しかけると、その人は弾かれたように顔を上げた。大きく目を瞠って、私を見つめてる。声をかけられるなんて思ってもみなかったみたい。
「お、俺か……?」
「ん」
「なんで……?」
「そのなんでは、魔道具の外套を着てるのになんで見つかったかってこと?」
男の人が絶句した。とても分かりやすい反応だ。
アリシアさんもこっちに気付いたみたい。最初は怪訝そうにしてたけど、男の人に気付いたのか少しだけ目を細めていた。警戒するように。
そして、ゼスさんたちも気が付いた。すぐに立ち上がって、こっちに歩いてくる。ゼスさんもティゼさんも、二人とも笑顔だ。
「カイザ君、そんなところにいたのかい?」
「あなたはすぐに隅っこに行きますね」
二人はこの人のことを知ってるみたい。
「この人、だれ?」
「少し前から滞在している旅人さんですよ。旅の間に手に入れたという金銭を寄付していただいたので、とても助かっています」
「ふーん……」
旅の間の金銭、ね……。
「冒険者か何かなの?」
「そ、そんなところだ」
「そっか」
なんというか……。とっても分かりやすい。少し呆れてしまうぐらいに。
いつの間にかアリシアさんは、ゼスさんを連れて少し離れて話してる。アリシアさんもやっぱり気付いたみたい。
「ま、まだ何かあるのか?」
分かりやすいほどに警戒してくるカイザさんに、私は首を振って言った。
「んーん。賢者の話を聞いて回ってるから、何か知らないかなって」
「お、俺は何も知らない!」
「ん。わかった。邪魔してごめん」
そう言って、離れる。するとカイザさんはあからさまに安堵のため息をついた。
んー……。あまり首を突っ込みたくなかったんだけどなあ……。
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