孤児院のシチュー

「リタが……気に入ってたみたいだから。連れていけば、またもふもふついでに会いに来てくれるかなって……」

「ええ……」


『これもリタちゃんが理由だったんかいw』

『そういえば真っ先に反応してたのはリタちゃんだったもんなw』

『この人、変な人だけどもしかしてある意味めちゃくちゃ扱いやすいのでは?』

『リタちゃんを理由にしたら何でもやってくれそう』


 わりと冗談になってなさそうだよ。私もちょっと、そんな気がしてきてしまったから。


「もしかして、そんなに興味なかった?」

「んー……。触れるなら、触る」

「そっか。それなら、連れて行く」


 もふもふのために会いに行こうとはさすがに思えないけど、どこかでまた会った時にもふもふできたら嬉しい、かもしれない。多分。


「管理はしっかりとするようにの。本当に。頼むから」

「任せて」

「…………」


 ものすごく、うさんくさそうにアリシアさんを見てる。気持ちは、ちょっとだけ分かる、かな。

 報告も無事に終わったから、孤児院に向かおう。これ以上ここにいると、ギルドマスターさんの気苦労が増えそうだから。そろそろいい時間だと思うし。


「それじゃ、また」

「頼むからもう来るな」


 アリシアさんの挨拶にギルドマスターさんはとっても疲れたような声でそう答えた。




 改めて、孤児院だ。ギルドを出て、門の外の孤児院へ。門の外は他の家の明かりもないし暗いかなと思っていたけど、門の側には明かりになる魔道具が設置されていて、わりと明るかった。

 長い柱の先端に球体があって、そこが明るく光ってる。街灯みたいな感じだね。ちなみに街の中だと等間隔で設置されてるから、歩くのには困らなかったりする。日本ほど明るくはないけど。

 アリシアさんが孤児院の扉を叩くと、ティゼさんがすぐに出てきてくれた。


「お待ちしていました。どうぞ」


 ティゼさんに案内されて、孤児院の中へ。孤児院の一階は大きな部屋になっていて、食堂を兼ねてるらしい。二階とかに子供達の寝室があるらしいよ。

 部屋には大きなテーブルがいくつか並んでいて、たくさんの子供が座っていた。三十人ぐらい、かな? 下は三歳とか四歳に見える子から、上は真美ぐらいの年齢の子まで。みんなが、私たちを、というより私を興味深そうに見てる。


『なんか、予想以上に多いな』

『二人でやってるのにこんなに子供おるんか』

『でっかい鍋があるw』


 テーブルは三つ。それぞれ十人ぐらい座っていて、テーブルごとに大きなお鍋が置かれてる。あれにシチューが入ってるのかな?


「リタ。こっち」


 アリシアさんと一緒に、二つ空いてる椅子に座る。何故かアリシアさんの隣だけど、いいかな。一応、あっちからしたらお客様みたいなものかもしれないし。


「ねえねえ。君、ここに住むの?」


 そう話しかけてきたのは、隣の男の子。見た目は私と同い年ぐらい。活発そうな印象を受ける元気な子だね。


「んーん。私は冒険者だから」

「冒険者! すごい! もしかしてアリシアさんの弟子だったりするの!?」

「え……。んー……。仲間、みたいな感じ」


 仲間でいいよね? 親戚が一番近いだろうけど、それを言うとややこしくなりそうだし。

 アリシアさんの顔を見てみると、少しだけ嬉しそうだった。

 改めて、ご飯。それぞれのテーブルの年長者さんが配るみたいで、背の高い年上の人がお皿にシチューを入れて配っていく。私の分もその子が入れてくれた。

 シチューは、白っぽいスープにたくさんの具材が入っているというシンプルなもの。これは……牛乳かな? 牛乳をあっためてスープの代わりにしたのかも。


『マジで牛乳のみかw』

『なんか師匠さんらしさがある料理だなあw』

『牛乳だけだとさすがに微妙そうなんだが』

『調味料もあるだろうし、少しぐらいは整えてるだろうけど』


 食べてみないと分からないってやつだね。早速食べよう。

 でも、その前に。手を合わせて、いただきます。

 このいただきます、孤児院では定着してるみたいで、みんながやっていた。師匠が滞在していたっていうのは間違いないかも。

 とりあえず、シチュー。スプーンで食べてみる。んー……。少し味付けはされてるけど、やっぱり温めた牛乳が近いかもしれない。悪くはない、というよりこの王都で食べた中では美味しい方だけど、なんとなく物足りない。


「微妙そうな師匠の顔が目に浮かぶ」


『やっぱりかw』

『バターとか生クリームがなかったら、やっぱり物足りないよなあ』

『牛乳だけの作り方もあるらしいけど、あいつが知ってるとは思えないしな』


 師匠だからね。もちろん不味いわけじゃない、というより美味しい方だと思うけど、日本のものを食べたいと思ってしまった。クリームシチューって言うんだっけ。食べたい。


『冬の寒い時期が一番美味しいと思うけど、でもまた作ってあげるね』

『推定真美さんの行動力よ』

『真美ちゃんの料理なら謎の安心感があるw』


 真美なら安心だ。期待しよう。

 隣では、アリシアさんが二杯目をもらっていた。そんなに食べると子供たちの分がなくなるよ。どうせなら、みんながたくさん食べるべきだと思う。

 私は、とりあえず食べ終わったから、みんなに師匠の話でも聞いて回ってみようかな。




 子供たちの前に、とりあえずティゼさんとゼスさんに話を聞いてみる。最初に来た時は子供たちに聞いてほしいって言われたけど、最初に会ったのはこの二人だろうから。


「賢者様は、牛乳が使いたいって理由で最初はここに来たんだよ」


 そう教えてくれたのは、ゼスさん。ティゼさんが頷いて、


「そもそもとして、孤児院だっていうことすら知らなかったみたいです。かなり驚いていたみたいですから」


 それは、当然だと思う。私も孤児院っていうのがあることは知ってたけど、まさか王都の外側にあるとは思わなかったから。

 師匠はここに二泊したんだって。子供たちと遊んで、夜はこのシチューを試作していたらしい。二回ほど作って満足したらしいけど。

 ティゼさんは満足したから、と思ってるみたいだけど……。


「多分、諦めただけだよね」


『それなw』

『長居できる環境ならもう少し続けたんだろうけど、孤児院だしなあ』

『旅の目的とは違っただろうし』


 料理の修業が目的とは思えないしね。

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