大きいもふもふ


 洞窟にはフェンリルの仲間なのか、たくさんの狼が棲み着いていた。私の魔法で火球を浮かせて明るくしてるけど、普段は真っ暗のはず。よくこんなところで生活できるよね。


『精霊の森みたいな魔境より暗いだけの場所の方が住みやすいと思う』

『よくあんな森に住んでるよね!』


 何も言えないけど、そこまで言うことないと思う。

 襲ってくる狼は、全て倒していく。私がいつもの魔法でばくっとしたり、アリシアさんが一瞬で距離を詰めて切り伏せたり。特に困ることなく進めてる。

 予想通り、アリシアさんは身体能力特化で、それもスピード特化だね。気が付いた時には敵の目の前だ。あの速さについて行ける人はそうそういないと思う。


『瞬間移動に見える』

『移動だけで技名がありそうw』


 私の魔法も、もちろん見せてある。ばくっの方だけど。

 何故かすごく奇妙なものを見るような目で見られてしまった。納得いかない。


「リタは私のスピードがすごいって言ってくれるけど」

「ん」

「リタのその魔法の方が、その……。怖い」

「ん……」


『怖いwww』

『足下から不意打ちで何も分からない間にばくっ』

『剣聖ですらどん引きさせるとかさすがやな!w』


 ばくっとしてるだけなのに。

 時々現れる狼を倒しながら、鉱山の奥へ。ちなみに倒した狼は一応回収してる。とりあえず、食べてみようかなって。あまり美味しそうじゃないけど。

 そうして、かなり深くまで進んだところで、広い部屋にたどり着いた。普段は物置とか、そういうことに使ってる部屋なのかも。その中央に、その魔獣はいた。

 真っ黒な体毛に覆われた、大きな狼。私たちを警戒した目で見つめてきてる。これがフェンリルなんだね。とても大きいもふもふだ。


「でも、ごわごわしてそう」

「急になに?」

「ん。もふもふしてみたかっただけ」

「そ、そうなんだ……」


 ん。アリシアさんに正気を疑うような目で見られるのは、ちょっと納得がいかないよ。

 大きいもふもふは低くうなり始めた。ぐるぐると。


『ヒェッ……』

『大型犬がうなってると、さすがに怖い』

『大型犬言うなw』


 確かに、ここまで来る間の狼たちを思うと、威圧感は大きいもふもふの方が上だと思う。でも。


「かわいい」

「え?」


『え?』

『え?』

『こんなところで剣聖と気持ちが一つになるとはこのりはくの略!』


 そこまで言うほどのことかな? アリシアさんも、すごく変な人を見る目で見てくるし。

 とりあえず、触ってみたい。なんだかふわふわしてそう。日本の犬ほどではないと思うけど、あのサイズだ。ちょっともふもふしてみたい。

 歩いて近づいていくと、うなり声が大きくなる。今にも襲いかかってきそう。だから、とりあえず魔法で縛っておく。

 杖で地面を叩いて、術式を発動。影から伸びた真っ黒な蔓が大きいもふもふを拘束していく。もちろん抵抗されるけど、あれぐらいじゃびくともしないと思う。


『なんかでてきたー!』

『新魔法? 新魔法ですか!?』

『ばくっ、すぱっ、ときて、次はなんぞ?』


「何にしよう……。えっと……。ぎゅっ……?」


 正直、今作った魔法だしかなり適当なものだから、これからも使うかは分からないけど……。どうせなら、もっとちゃんと考えたい。

 大きいもふもふも抵抗するのを諦めたのか、おとなしくなった。とりあえず、体に触ってみる。あまり期待はしてなかったけど、予想に反してなんだかもふもふだった。さらさらかな? 手触りがとてもいい。


「リタ」

「ん。アリシアさん。もふもふ。触る?」

「是非」


 アリシアさんも大きいもふもふに触り始めて、おー、と感嘆のため息を漏らした。二人で、もふもふ、もふもふ。


「リタ。依頼、失敗でもいい?」

「ん?」

「この子が欲しい」


『なんて?』

『まさかのお持ち帰りwww』

『ええんかそれでw』


 私もちょっと驚いた。私としては、依頼についてはそこまでこだわってないから、別にいいけど……。でも、このもふもふ、さわり心地はいいけどそれだけだ。強いかと聞かれたら、私たちからすれば弱い方だし。

 私の驚きが伝わったのか、アリシアさんが説明してくれた。


「このサイズなら、私も乗れる」

「ん」

「移動中、このもふもふを堪能しながらのんびりできる」

「ん……」

「だから欲しい」

「なるほど」


『なるほどじゃないが。なるほどじゃないが!?』

『それで納得するんかいw』

『移動式もふもふベッドと思えばまだ……、いや理解できねえわやっぱ』


 私は、別にいいと思うけどね。もしもこの子が暴れたとしても、アリシアさんならすぐに処分できるだろうし。逃げたとしても、やっぱりすぐに捕まえられるだろうし。


「でも、リタが捕まえたし、リタが欲しいのなら諦める」

「んーん。別にいい。それより、どうやって言うこと聞かせるの?」

「むりやり?」

「むりやり……?」


『まって』

『なんかとても嫌な予感がするのですが』

『すぷらったですか!?』


 アリシアさんに頼まれて、魔法を解除する。もふもふは大きく飛び退くと、明らかに私を警戒し始めた。ただ勝てないことは察したみたいで、どちらかと言うと怯えてるかも。

 そのもふもふにアリシアさんが近づいていく。そして、気が付けばもふもふは地面に叩きつけられていた。何かを地面に打ち付ける轟音は、まあそういうこと、だよね。


「リタ、先に出ていてほしい。上下関係を叩き込むから」

「ん」


『マジで物理的にかよw』

『動じることなく頷くリタちゃんも大概だけどな!』

『猛獣に同情することになるとはおもわんかったよ……』


 手っ取り早い方法ではあると思うよ。

 それじゃ、私は外でのんびり待とう。あと、群れのボスが急にいなくなると下がどうなるか分からないから、他のウルフはちゃんと逃がさないようにしないとね。

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