王都での食べ歩き

「それじゃあ、隠遁の魔女に、正式に協力要請。報酬は、今回受け取るはずだった報酬の全てを隠遁の魔女に譲る。どう?」

「んー……。アリシアさんでも捕まえられるんじゃないの?」

「多分、無理」


 そう言って、アリシアさんは少しだけ目を伏せた。


「相手が目の前、もしくは近くにいれば捕縛は難しくないけど、相手は姿を全く見せない。多分、何かしらの魔法か魔道具を使ってる。そして私は、そういった感知は不得手」

「じゃあどうして依頼を受けたの?」

「こんな面倒な相手だと思わなかったから……」


 アリシアさんが言う通り、アリシアさんの目の前か、もしくは気配が察知できる場所で見つけられたら、多分本当に一瞬で捕まえられるんだと思う。

 でも今回は、そもそもとしてどこに現れていたかは本当に分からないみたいで、気付けばどこかで盗みが入ってるのだとか。だから、魔法か魔道具の魔力を感知できる人が欲しいってことだね。


 んー……。正直、あまり乗り気になれないというのが本音だけど……。でも同時に、放置も嫌だなって。だって、そのうちバルザス家にも入りそうだし、さすがに友達の実家が狙われたら無視もできない。

 でも、捕まえに行くのも面倒。あまりソレイド家に関わろうとは思えないから。


「少し、考えさせてほしい」


 私がそう言うと、アリシアさんは頷いてくれた。




 改めて依頼を受ける気にもなれなくて、のんびり王都を見て回ることにした。観光はまだだったから、ちょうどいいかなって。

 見て回るのは、平民街の方。貴族街の方は、あまり楽しくなさそうだから。貴族街にもお買い物ができるお店があるみたいだけど、どちらかと言うとお店にあまり人はいなくて、だいたいはお店の人が貴族の屋敷に出向いてるみたいなんだよね。だから、楽しくなさそう。

 平民街の方は、他の街にもあるような、露店がたくさん並んでる区画があった。もちろん食べ物のお店もたくさんある。ここを見て回りたい。


「美味しいもの、あるかな?」


『めちゃくちゃうきうきしてるw』

『ぶっちゃけギルドよりも楽しそうだよなw』

『リタちゃんだからなあw』


 ギルドは、今回は暇つぶしみたいなものだったから。あの依頼を聞いて、行かなければよかった、とちょっと思っちゃったけど。

 あ、串焼き肉がある。しかも、他の街よりもちょっとお高め。場所で高いのか、素材が違うのか、どっちだろう? 食べてみれば分かるかな?


「一つ」

「あいよ!」


 お店の人から串焼き肉を一本もらって、早速食べてみる。味付けはとてもシンプルに塩だけど、でもお肉は結構柔らかい。高いだけはあるね。


『なあなあリタちゃん、聞いていい?』


「ん?」


『アリシアさんと敵対したら余裕はないみたいな言い方してたけど、ぶっちゃけどうなん?』


 んー……。どう、と聞かれると少し困るけど……。


「負けないけど、勝てない」


『え』

『つまり、どういうこと?』

『くわしく』


「お互いに決定打がない、みたいな感じ」


 アリシアさんもハイエルフだから膨大な魔力を持ってるだろうけど、多分その魔力のほとんどを身体能力の補強に使ってると思う。スピードも相応にあるだろうから、多分私の魔法だと捉えられない。

 そしてアリシアさんは私に攻撃はできても、結界は破れないと思う。感じた限りでは、魔力量は私の方がずっと多いから。


 周囲の被害を気にせずに魔法を使えば、また話は変わってくると思うけど……。いや、どうだろう? アリシアさんも何か奥の手があるだろうし、見た感じだけじゃ分からない。

 そういうのを説明すると、視聴者さんはみんな驚いてるみたいだった。


『マジかよ』

『リタちゃん人類最強じゃなかったん?』

『魔法使いとしては最強、だったと思う』


 魔法使いとしては最強、なら精霊様からお墨付きをもらってるね。ただ、私は魔法に特化しすぎてるから、アリシアさんみたいな近接特化な人が相手だと、ちょっと分からないというのが実際のところかな。

 戦ってみたいかと聞かれたら、面倒だから嫌だと答えるけど。別に私は世界最強になりたいわけじゃないから。


「それに、多分だけど……。あの人と戦うことになっても、あの人は私相手に本気を出さないと思う。私に負い目を感じてるみたいだから」


『それはそう』

『責任を感じすぎかなとは思う』

『リタちゃんの存在すら知らなかったみたいなのにな』


 多分、里では私のことは存在してないという扱いなんだと思う。いや、別にいいけどね。アリシアさんはいい人みたいだから、あの人とだけは接点があってもいいと思うけど。

 それよりも、お買い物だ。他にも美味しいもの、あるかな?

 あ、スープが売ってる。木のお皿に入れてくれるみたい。その場で食べてお皿は返さないといけないみたいだけど……。とりあえず、食べてみよう。


「ください」

「はいよ」


 お金を渡して、スープをもらう。んー……。ちょっと、味が濃いような……。


「お嬢ちゃん、この国ではパンと一緒に食べるのが普通だよ」

「ん……」


 スープを売ってるおばさんが指し示したのは、お隣でパンを売ってる男の人。笑顔で手を振ってる。多分これ、夫婦か何か、かな? 最初からセットで売ればいいのに。


『スープだけでいいっていう人とか、スープなら家にあるっていう人とかいるんじゃね?』

『最初からセットで売るとそれはそれで怒る人がいそう』


 めんどくさいね。

 バルザス家で食べたご飯も同じようなスープとパンがあったし、この街では定番のご飯なのかも。パンを浸して食べると、味がほどよくなった、気がした。悪くはないかな。

 そうしてのんびりと食べ歩きしながら露店を見て回っていたら、その人がいた。


「あ」

「あ」


 アリシアさんだった。少し前に別れたところだったのに、何やってるのこの人。

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