自由すぎる変な人

 さらに少し待つと、私の番になった。受付の人は、若い女の人。私を見て、怪訝そうに眉をひそめてる。


「お嬢ちゃん、お仕事の依頼に来たのかなあ? もしそうなら、あっちの列よ? 分かる?」


 ちょっとだけいらっとした。


『少し不機嫌になったのが雰囲気でも分かるw』

『落ち着けリタちゃん! その人は悪気があったわけじゃない! 多分!』

『そうか? わりとバカにするような言い方だった気がするけど』


 私もそう感じた。忙しい時に子供の相手なんてしたくない、みたいな雰囲気だ。それに、それを感じたのは私だけじゃないみたいで、隣の受付の男性や側の冒険者さんは、少し咎めるような視線を受付の女性に投げてる。

 こういう時は、ギルドカードだね。とりあえず今はCランクのカードだけでいいかな。視線が多いし。

 Cランクのギルドカードを取り出すと、受付の女性は大きく目を見開いて焦り始めた。やっぱり私が冒険者だとは思ってなかったみたい。


「えっと……」


 女性が何かを言おうとしたのと、同時に。

 ざわりと、ギルドの中の人がざわめいた。


『おん?』

『なんか、みんなの視線が……』

『入り口の方やね』


 そう、だね。なんとなく、察しがつくけど。

 振り返って、入ってきた人を確認する。人が多くて分かりにくいけど、明るい金髪の人が入ってきたみたい。その誰かが歩くと、みんなが一歩引いて道を作る。そしてその人は、まっすぐに私の目の前までやってきた。


 明るい金の髪の少女。動きやすさを重視した簡素な鎧に、腰には剣。そして、髪で耳は分からないけど、同じ私なら直感で分かる。

 この人は、ハイエルフだ。多分だけど、相手も私がそうだと気付いてるはず。

 じっと見つめ合う。じいっと。


「あ、あの! アリシア様! 依頼を受けにきたのでは!?」

「気が変わった」


 声をかけたギルドの人には目もくれず、アリシアと呼ばれた人の視線はまっすぐに私に固定されたまま。じっと。じいっと。私も見つめる。じい……。


『なんだこれ』

『もう少し、こう、視線で会話せずにさ……』

『誰か! 読心術ができる方はいらっしゃいませんか!』


 そんな人がいたら怖いよ。

 アリシアさんは小さく頷くと、私へと手招きした。


「こっち」


 そして奥にある階段へと向かっていく。ギルドの人には何も言わずに。


「私が言うのもなんだけど、自由な人だね」


『ほんまにリタちゃんが言えることじゃないなw』

『むしろ一番自由な人が何をおっしゃっているので?』

『ネタですか?』


 ちょっと言ってみたかっただけだよ。

 アリシアさんの後を追って、階段を上がっていって。そうして向かった先は、三階の支部長室。その部屋のドアを、ためらいなく開け放った。ノックもなにもない。ある意味すごい。


『ごめんこの人リタちゃんより自由やわ』

『リタちゃんですらノックをする常識ぐらいはあったのに……』

『リタちゃん以上か』


 私ですら、私以上、というのはどういう意味かな。小一時間問い詰めたい。

 私も中に入ると、奥の椅子に座っていたおじいさんが目を剥いて固まっていた。おじいさんの目の前のデスクには、何枚かのパン。朝ご飯かな?

 アリシアさんはおじいさんの元へと向かうと、そのパンを一切れ食べた。断りもなく。


「おい。わしのパンを食べるでない」

「食べた」

「事後承諾をするな」


 うん……。すっごく、自由な人、だね。


「人のご飯を奪うのは良くないと思う。少なくとも私は嫌い」

「…………。ごめん」


 なんというか……。変な人だ。




 おじいさん、ギルドマスターさんの目の前で、私たちは向かい合って座っていた。テーブルを挟んで、ソファに向かい合って座る。ギルドマスターさんはパンを食べながら、少し疲れてるような顔だ。


『無理もない』

『おいたわしや』

『いきなり変な人が乱入しまくってるからなw』

『で、この女の人だれだよ。いやここまでの勝手が許されてる時点で察しはつくけど』


 そうだね。私も、そうだろうと思う。どこかぼんやりしたアリシアさんをまっすぐに見て、言った。


「あなたは、深緑の剣聖?」

「うん」

「ハイエルフだよね」

「うん」

「ちゃんと自己紹介してほしい」

「アリシア。ハイエルフ。冒険者としてはSランク。二つ名と称号は、深緑の剣聖。年は五百から先は数えてない」


『ごひゃく!?』

『やべえ人が出てきた!』

『てかやっぱこの人が剣聖さんか。かわいい』

『それな』


 視聴者さんから見ると、かわいい人らしい。私から見ても綺麗な人だと思う。凜としていて、かっこいいとも思う。多分。


「あなたも、隠さず自己紹介してほしい」


 アリシアさんにそう言われたので、私も真面目に答えよう。


「リタ。ハイエルフ。Sランク。隠遁の魔女。年はないしょ」


 でも言いたくないことは言わない。不満そうに唇を尖らせても、私は知らない。

 私の名乗りを聞いたギルドマスターさんは目を見開いて、お腹をおさえて頭を抱えてしまった。


『おいたわしやギルドマスター……』

『ご飯取られるわ核弾頭レベルの爆弾が二発目の前にいるわ、踏んだり蹴ったりやな』

『強く生きて』


 しばらく王都に滞在することになりそうだから、挨拶にちょうどいいと思ったんだけどね。ギルドマスターさんはちょっと嫌だったみたい。

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