ゴンちゃんお風呂


 夜。部屋に戻って少しして、森に戻ってきた。今回の目的は、ゴンちゃんのお風呂。一度は入ってみたいなって。


「というわけで、ゴンちゃんの前に来たよ」


『最近ゴンちゃんの出番多くない?』

『ゴンちゃんの威圧感にも慣れてきた気がする』

『なにせリタちゃんがぺちぺち叩くからw』


 一番気付いてもらいやすいかなって。なので、また叩く。


『ぺちぺち』

『ぺちぺち助かる』


 ゴンちゃんはゆっくりと目を開けて、そして大きく息を吐いた。ちょっとした突風だ。ぶふーって。飛ばされちゃいそう。


「守護者殿か。今回は早いな。どうした?」

「お風呂!」

「う、うむ……。そうか」


『ゴンちゃんが戸惑う珍しい光景』

『リタちゃんの圧よw』

『すっかりお風呂の虜になっちゃって……』


 お風呂、気持ちいいから。師匠も気にせず入ったら良かったのにね。

 ゴンちゃんが爪で大きめの穴を作って、お湯を入れてくれる。それじゃ、服を脱いで……。


『リタちゃん。光球の向き変えよう?』


「ん……。ごめん、真美。ゴンちゃんの方に向けておく」


『おのれ推定真美ちゃん!』

『たまにはええやんけ! 子供やぞ!』

『死ね』

『ストレートすぎて草なんだ』

『ありがとうございます!』


 変態さんが多いね。

 光球はゴンちゃんの方に向けておく。ゴンちゃんは少しだけ珍しそうに光球を見てる。じっと。じーっと。


『なんか怖いんですけどw』

『うおぉ……。威圧感ががが』

『や、やんのかこら! うけてたつぞこら!』

『お互いに手を出せないからこその強がりである』


 服を脱いで、お湯の中にどぼんと。ほどよい深さと、気持ちいい水温。あったかぬくぬく。


「んふー……」


『リタちゃんの気持ちよさそうな声だけが聞こえる』

『ちょっとぐらい見たいなあ!』

『きもい』

『さーせんwww』


 温泉と比べるとちょっと物足りない気もするけど、これはこれで悪くない、かな?

 そういえば、お風呂に使う入浴剤、だっけ。そういうのもあるって聞いたことがある。機会があれば、それも試してみたいな。

 ゆっくり十分ほど入って、お風呂から出る。魔法で水を飛ばして、ちゃんと服を着てから光球を戻す。そしてお楽しみの、フルーツ牛乳だ。キャップを開けて、と……。


『リタちゃんリタちゃん』


「ん?」


『お風呂上がりの牛乳は、由緒正しい飲み方があるのだ』

『左手を腰に当て、右手で牛乳をぐいっと! それがお風呂上がりの飲み方だ!』


 んー……。同意するコメントもあれば、否定するコメントもある。でも半々ぐらい、だね。それなら一度は試してみよう。

 左手を腰に当てて、右手でぐいーっと。ごくごくっと。少し火照った体に冷たいジュースはなんだか美味しく感じられるね。


「んー……。美味しい」


『ぷはーってやってほしかったw』

『ふっつーに飲み終わったなw』

『まあしゃーないw』


 まだちょっと物足りなかった、のかな? でもこれ以上はいいや。私はこれで満足。


「ゴンちゃん、ありがとう」

「うむ。またいつでも来るといい」


 ゴンちゃんが目を閉じるのと同時に、お湯はすぐに蒸発して、穴はあっという間に塞がった。また入りに来るから、穴ぐらいはそのままでもいいと思うんだけどね。


「ゴンちゃん、またね」

「うむ」


 ゴンちゃんに手を振って、バルザス家の屋敷に転移した。あとは、寝るだけ。明日は剣聖さんに会えるかな?




 翌日。朝食はシンプルに、白いパンと何かの果実を煮たもの。日本のジャムみたいになってる。少し酸味の強い果物のジャムだけど、悪くはない、かな?

 ご飯の後は、いよいよギルドだ。ジュードさんにギルドに行くことを伝えると、詳しい場所を教えてくれた。馬車で案内しようかと聞かれたけど、それは断っておいた。ちょっと悪目立ちしそうだから。


 王都の貴族街の外側は、平民街と呼ばれてるらしい。貴族以外の住人が住んでるみたいだね。他にも、スラム街というのもあるらしいけど……。そこは、私には関係ない、と思う。

 ギルドは平民街の方にあった。貴族もたまに依頼を出すみたいだけど、その時はメイドさんとかを代わりに向かわせる、らしい。

 さて。それじゃ、王都のギルドだ。ギルドまでの道も、とても長い道がしっかりと舗装されていた。これはギルドの内部も全然違ったりするのかも……。なんて、思ったんだけどね。


 ギルドはやっぱり他のギルドと似通った造りだった。ただ、今まで見たギルドより単純に広い。受付の人も十人ぐらいいるし、大きな酒場も併設されてる。酒場は冒険者さんだけじゃなくて、一般の人も使ってるみたい。

 それはともかく、受付だ。一般の人用が四人、冒険者用が六人、かな? 今までのどこのギルドよりも受付の人が多いけど、やっぱりそれだけ人が多いってことなのかも。


『でっかい建物』

『やっぱ王都ともなると全然違うな』

『日本でいうところの東京だと思えば、多少はね』


 そっか。王都だから、日本でいう東京なんだね。東京はいつも人が多いし、そう思うとこの規模も納得できるかも。

 私が受付の方に歩いて行くと、何人かが怪訝そうに眉をひそめていた。今日は帽子を被ってるだけだから、子供が来てる、とまた思われてるのかもしれない。

 今度こそ、テンプレというのがあったりするかな?

 冒険者用の受付の列に並ぶと、視線がさらに多くなった。ただ、不快な視線はあんまりない。少しだけ意外かな?


『まだ朝早いのに人多過ぎでは?』

『何人並んでるんだよこれ……』

『みんな依頼を受けようとしてるのかな?』


 んー……。そう、なのかな? よく見てみると、並んでる人のほとんどが依頼票を持ってる。もしかしたら、私への視線はまっすぐに受付に向かったから、というのもあるのかも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る