貴族のご飯
特にすることもないのでお部屋の中でのんびりまったり。暇だし日本に行きたいところだけど、ジュードさんたちは私がこの部屋にいると思ってるだろうから、呼びに来られると困る。
もちろん呼びに来たら分かるようにしておけばいいけど、あっちでご飯を食べてる時はご飯を優先したいから。
「貴族よりご飯だから」
『急にどうしたリタちゃん』
『貴族との関係よりご飯が優先されるなんてみんな知ってる』
『食欲の魔女の二つ名の方が良かったのでは?』
さすがにそんな二つ名は嫌だよ。
視聴者さんと雑談をしながら過ごしていると、ドアがノックされた。
「はい」
「魔女様。夕食のご用意ができました」
「ごはん!」
晩ご飯。貴族の晩ご飯! とても楽しみ!
『見るからにうきうきしてるw』
『表情薄いのにそれだけはなんでかすぐ分かるなあw』
『雰囲気がもう、うきうき』
どんな雰囲気なのかな。そんなに分かりやすい……?
ドアを開けると、メイドさんが待っていた。そのままメイドさんの先導に従って、一階へ。案内されたのは、とても広い部屋で長いテーブルのある部屋だ。
席についていたのは、ジュードさんとフレアさん。ジュードさんは一番奥に座っていて、フレアさんはその手前の左側。私の席は、フレアさんの向かい側みたい。メイドさんが椅子を引いてくれた。
「この食卓に私たち以外が座るのは久しぶりですね」
「そうなの?」
「ああ。子供たちは皆、それぞれの道を進んでいるからな……」
ジュードさんが言うには、子供は四人いるらしい。長女のミレーユさんと次女のエリーゼさん。そして今は王宮で仕事をしている長男と、騎士学校に通う次男、だって。
長男さんはいずれはジュードさんの仕事を継ぐらしいけど、今はまだその基礎の基礎を王宮で仕事をしながら覚えているのだとか。
貴族もなんだか大変そう。なんとなく、日本の漫画のイメージで贅沢をしてる人たちだと思ってたよ。
『ふんぞり返ってる貴族もいそうだけどなー』
『バルザス家はミレーユさんからして真面目だったし』
『多分しっかりと貴族の責任を果たすタイプ』
ミレーユさんの家族だと思うと、なんとなくイメージ通りだと思ってしまう。
それはともかく、ご飯だ。王都の楽しみの一つだったから、早く食べたい。
テーブルに並んでいるのは、量は少ないけど手間はかかってそうな料理が多い。お肉は食べやすいようにスライスされた上で、茶色っぽいソースがかかってる。パンは柔らかそうな白いパン。サラダはざっくり切られたようなものじゃなくて、しっかり細かく切られてる。あとは、大きなお鍋にスープがたっぷり。ごろごろとしたお肉とか野菜が入ってるみたい。
これが、この国での貴族の食事、なのかな。街の食堂より手間はかかってるけど、全然違うってわけでもないみたい。
「それでは」
ジュードさんとフレアさんが手を組んで何かに祈ってる。私は、いつものでいいかな。手を合わせていただきます。
とりあえずお肉から。ソースと一緒に口に入れる。んー……。すごく柔らかいお肉。ソースは少し甘酸っぱいソースで、この柔らかいお肉によく合ってる。
サラダにも似たようなソースがかかってるけど、少しだけ酸味が強い、かな? お肉とは別で調整してるのかも。お野菜は新鮮さがよく分かるぐらいにシャキシャキしてる。
スープは少しとろみのあるスープで、こっちは少し濃いめの味。ジュードさんたちを見てみると、パンをスープに浸して食べてるみたい。試してみたけど、悪くない。美味しい。
食堂とあまり変わらない、と思ったけど、食材にお金をかけてるというのはよく分かる。ちょっとだけ貴族らしいかな?
『これはこれで美味しそう』
『リタちゃんも美味しそうに食べてる』
『これは、初めての日本の敗北か……!?』
「いや、日本のご飯の方が美味しいけど」
『ア、ハイ』
『ですよねー』
『でも見た目はかなり美味しそうだけど』
うん。美味しいのは間違いない。ミレーユさんと一緒に食べたあのお肉ほどじゃないけど、それ以外だと一番美味しいと思うよ。でもやっぱり日本のご飯が一番かな。
でも、美味しいのは間違いなくて。晩ご飯はすぐに食べ終えてしまった。少し物足りないと思ってしまうけど、一先ずは満足。
「魔女殿。明日からはどうされますか?」
夕食後にジュードさんにそう聞かれた。多分、どこにいるかをある程度は把握しておきたいんだと思う。
「明日はギルドに行ってみる。深緑の剣聖に会ってみたい」
「あら……。余計なことを言ってしまいましたか?」
「んーん。会ってみたい、それだけ」
ミレーユさん以外のSランクは初めてだからね。ギルドで会えるかは分からないけど、とりあえず聞いてみたい。
ただ、それを聞いたジュードさんは少しだけ険しい表情になっていた。
「何かあったりする?」
私がそう聞くと、ジュードさんははっと我に返って、いや、と首を振った。
「魔女殿とは直接関係はない。ただ……」
「ただ?」
「剣聖は、現在はソレイド公爵家に滞在しているらしい。バルザス家とは、少しばかり確執がある家だ」
ジュードさんが言うには、バルザス家は代々宰相を担うことが多い家らしい。対してソレイド家は武門の家系なんだとか。どちらも王様をしっかりと補佐をしているから国としては安定してるみたいだけど、意見の食い違いがとても多い、らしい。
それに加えて、ソレイド家は最近、少し様子がおかしい気がする、というのがジュードさんの意見。何も証拠はないらしいけど。
うん。これ、妙なことに巻き込まれる気がする。気のせいだよね?
『フラグがビンビンに立ってますな』
『立った! フラグが立った!』
『マジで言うなら、面倒なら適当なところで逃げるべし』
んー……。まあ、しばらくは様子見、ということで。剣聖さんに会ってから考える。
「何か巻き込まれそうになったら逃げるよ」
はっきりとそう言うと、ジュードさんは笑顔で、そうしてくださいと頷いた。
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