公爵さんとのお話

『ミレーユさんの話から予想はできてたけど、マジでいいご両親だな』

『貴族社会だと、女の子は政略結婚の道具としか思ってなさそうなイメージ』

『さすがにそれは偏見すぎる……と思いたい』


 私も貴族社会のことなんてほとんど分からない。この両親が普通なのか、それとも珍しい方なのか、ちょっと分からない。あまり興味もないけど。


「隠遁の魔女殿。話をする前にもう一つ、確認しておきたいのだが」

「ん?」

「この国でのミレーユのことについて、だいたいのことは話したと手紙にあったのだが……。事実かな?」

「婚約破棄とその仕返しについてなら、聞いた」

「ほう……」


 ジュードさんも、そしてフレアさんも、さらにはメイドさんたちも、みんなが驚いてるみたい。もしかしたらミレーユさんは、こんなことはほとんど人には話してないのかも。

 でも、それも当然なのかな。この国ではどうなのかは分からないけど、ほとんどの漫画で貴族の婚約破棄は恥みたいな書き方だったから。


「やっぱり、婚約破棄の事実は隠してるの?」


 そう聞いてみると、ジュードさんはなんとも言えない顔になった。


「隠してるとも言えるし、隠してないとも言える。聞かれれば答えるが、聞かれなければ話さない、という程度だな。ミレーユも、君に話した時に口止めはしなかったのではないかな?」

「ん」


 言われてみれば、そうだ。ミレーユさんからは、誰にも言わないでほしい、なんて言われてない。そもそもとして、誰かに話すような内容じゃないだけだけど。


『ジュードさん、異世界の人なら不特定多数が聞いてたりするんだぜ』

『しかも一人や二人じゃなくて万単位なw』

『知らぬが仏ってやつだな。だまってよ』


 配信のことを言うつもりはないし、ミレーユさんも知らないし、さすがに言わないよ。多分言ったら、ミレーユさんがすごく恥ずかしがると思う。


「隠しているわけではないが、あの子が自分から話すことはそうそうないからな……。君はよほど、あの子に信頼されているらしい」

「ん……」


 そうだったら、嬉しい。私もミレーユさんのことは信頼してるから。


「それでは改めて。君は王都に滞在した賢者殿について調べているのだったな」

「ん」

「あの者については私も知っているが……。国王陛下に直接伺った方がいいだろう。陛下のご命令で、言えないことも多い」

「言えないこと?」

「そうだ。ミレーユ、つまり我が国出身のSランク、灼炎の魔女の紹介だ。陛下も喜んで会ってくださるよ。それは間違いない」


 それじゃあ、あとは王様に直接聞こう。ジュードさんに話をお願いしても、困らせてしまうだけになりそうだから。


「だが、陛下もお忙しい方だ。この後すぐに使いの者を送るが、時間を取れるのは少し先だろう」

「ん……」


『まあそれはしゃーない』

『むしろ一国の王様がいきなり会うってなる方がやばいと思うw』

『守護者のことを言えばすぐに会ってもらえそうだけどw』


 それは、まだ避けたい。最終手段ということで。


「じゃあ、待つ。宿でも取るよ」

「ああ、いや。ミレーユの友人を放り出すようなことはしないさ。是非とも当家に滞在してほしい」


 それは、少し予想外だった。私としては嬉しいけど、いいのかな?


『泊まろうぜリタちゃん』

『貴族のご飯が食べられるよ!』

『多分今回の機会を逃したらもう食べられないぞ!』


 貴族のご飯。それはとても気になる。是非とも、食べてみたい。むしろお金を払ってもいいから泊まりたい。ご飯が食べたい。


「お世話になります」


 そう言って頭を下げると、ジュードさんは笑いながら頷いた。




 この屋敷の二階にある客室を使うことになった。王様と会えるまで、というよりこの王都に滞在してる間は自由に使っても構わない、だって。なんだかすごく優遇されてる気がする。

 ジュードさんはすぐに執務室に戻ってしまって、客室まではフレアさんが案内してくれた。その時に、とても気になる話を聞くことになった。


「Sランクの魔女様が訪ねてきたと聞いて、最初は剣聖に関わることかと思いました」

「剣聖?」

「はい。現在この国に滞在しているSランク冒険者、深緑の剣聖です。てっきり彼女を探していると思ってしまって……。まさかミレーユのご友人だとは思いもしませんでした」


 この国にもう一人、Sランクの冒険者が滞在してるらしい。もしかしたら会うこともあるかも。

 案内された部屋は、応接室ほどではないけど、すごく豪華な部屋だった。大きなベッドに高級そうなテーブルと椅子が並んでる。棚もたくさんあって、中にある物は自由に使ってもいいらしい。

 夕食の時間にまたお呼びします、とフレアさんたちは出て行った。

 さて……。暇になった。


「貴族のご飯、楽しみ」


 黒い板を出してそう言うと、たくさんのコメントが流れていく。


『どんな料理なんかな』

『高級フレンチみたいなものが出てきたりしてw』

『さすがにないと思う』

『てか黒板出して大丈夫なん? 監視とかない?』


 どこかに隠れてる人がいないかってことだよね。それなら大丈夫。魔法でも軽く調べたけど、隠れてる人はいなかった。あとついでに結界も張っておいたから、この部屋は外からは見えなくなってるはず。

 この後に監視の人が来たら驚くかもしれないし報告もするだろうけど……。その時は、その時。魔女だっていうのは伝えてるから、結界を張ったと正直に言おう。


『俺としては剣聖っていうのが気になる』

『しんりょくのwwwけんせいwww』

『翻訳がどうなってるかわからんけど、深い緑の深緑かな?』

『どんな人なのかいまいちわからんな』


「ん。ミレーユさんみたいな二つ名なら戦い方がなんとなく分かるけど、深緑はよく分からない。フレアさんが彼女って言ってたから、女の人だと思うけど」


『そういえば彼女って言ってたな!』

『女剣士……? ええやん!』

『ぐへへの展開ですね!』

『リタちゃんの目の前で変なこと言うな』


 Sランクだからすごく強いと思うけど、どんな人なのかな。せっかくなら、会ってみたいね。王様と会うまでは暇だし、明日はギルドにでも行ってみようかな。

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