バルザス公爵
ナイフ。そうだった、それがあった。バルザス家の紋章入りのナイフなら、きっと大丈夫。
「大丈夫、だよね? さらに疑われたりしない?」
『リタちゃん……w』
『微妙に疑心暗鬼になりつつあるw』
『気持ちは分かるけどw』
でも試さないと進まないのも事実、だね。アイテムボックスからナイフを取り出すと、門番さんたちの警戒度が明らかに上がった気がする。武器を取り出したから当たり前かな。
でもナイフの紋章を見ると、門番さんは明らかに目の色を変えた。
「それは、まさか……!」
「ん。ミレーユさんからもらった。確認してほしい」
「は……! お預かり致します……!」
態度が一気に変わった。これが正解だったかな。
門番さんはじっくりとナイフを確認して、次に手に持ってる槍の先端をナイフに近づけた。すると槍がほのかに光る。真贋を確認する方法もちゃんとあったみたい。
門番さんは姿勢を正すと、先ほどとは打って変わって恭しく頭を下げてナイフを返してきた。
「ありがとうございます。間違いなく、ミレーユ様のナイフです」
「ん」
「紹介状をご当主様に届けて参ります。少々お待ちください」
門番さんの一人が急いで屋敷へと走っていく。とりあえずは一安心だ。
『でもこれ、最初からご当主様に確認してくれたら良かったのにと思っちまった』
『なんか警戒しすぎのような気もするよなあ』
『ぺろっ……これは事件のかほり!』
『何をなめたんですかねえ』
どうなんだろうね。視聴者さんは警戒しすぎって言ってるけど、もしかするとこれがこの国の標準かもしれないし……。国によって文化が違うっていうのはよくあることらしいから、今のところは気にしないでおきたい。
何かあるのかなと気にして、その何かに巻き込まれたくないだけだけど。
程なくしてさっきの門番さんが戻ってきて、私は屋敷内に案内された。
バルザス公爵家のお屋敷はとても大きい二階建ての建物だった。入ってすぐの部屋も廊下も、とても広くて大きい。なんだか豪華な調度品とかもたくさん飾られてる。すごい。
屋敷のメイドさんに案内されたのは、お屋敷のうちの一室。応接室、らしい。真ん中に机があって、その両側にふかふかのソファが置かれていた。
「そちらのソファにどうぞ」
「ん」
メイドさんに促されて、ソファに座る。見た目通りにふかふかだ。すごく座り心地がいい。
「このソファ、いいな……。どこで買えるかな?」
『ソファなら日本でも買えるぞ?』
『日本のソファも柔らかいぞ!』
『むしろ日本で買おうぜ!』
「ん……。そうだね。日本のソファも確認する」
別にこっちの世界と日本、両方で買ってもいいとは思うけど、視聴者さんが勧めてくれるからまずは日本で考えよう。
私がソファに座っていると、ドアがノックされてメイドさんが次々に入ってきた。机に置かれていくのは、美味しそうなお菓子やジュース。どれも高級そうだ。
「食べていいの?」
「少々お待ちください。まずはこちらで毒味を……」
「必要ない。毒は効かないから」
「ええ……」
『ものすごく困惑しておられるw』
『気持ちは分かるよメイドさん……』
『てかクッキーで毒味って意味あるの?』
『しらね』
お菓子はクッキーと、あとはチョコレート、かな? とりあえずチョコレートを食べてみる。四角形のチョコレートで、日本で見たものより黒っぽい気がする。とりあえず一口。
「んー……。にがい……」
『苦いタイプのチョコか』
『砂糖とかそのあたりが少なめなんかな?』
『クッキーで甘くなった口を整えるためのチョコ、とか?』
そういう使い道なのかな。試しにクッキーを食べてみると、これはほんのりと甘かった。ただこれぐらいなら、苦いチョコレートはいらない気がする。
ジュースも飲んでみる。こっちはちょっと赤っぽい色のジュースだ。味は……。
「ちょっと酸っぱいけど、甘みも感じる、かな? 悪くない、と思う」
『ジュースはわりと高評価』
『それで? リタちゃん的にお菓子とジュースの総合評価は?』
「微妙」
『厳しいw』
私は甘いジュースの方が好きだから。お菓子も、日本のクッキーと比べると甘さが足りないかな? バタークッキーが食べたくなっちゃった。あとで食べよう。
でも、慣れるとこのクッキーも悪くないと思う。甘さ控えめだから食べやすい。
もぐもぐとクッキーを食べていたら、ドアがノックされた。そうして入ってきたのは、真っ赤なドレスに身を包んだ女の人。どことなくミレーユさんの面影がある人で、三十歳ぐらいに見える。もうちょっと上かも。
そしてもう一人、華美な服装の男の人。三十代後半ぐらい、かな? 視線は鋭く私を見てる。睨まれてる、というわけではないみたい。
クッキーを飲み込んでから立ち上がろうとして、
「ああ、座ったままで構わない。楽にしてほしい」
そう言われたから、言われた通りにそのままで。
二人は私の対面に座ると、柔和な笑顔を浮かべた。
「紹介状を読ませてもらった。ようこそ、隠遁の魔女殿。バルザス家当主、ジュード・バルザスだ」
「その妻、フレア・バルザスです」
「ん。隠遁の魔女。よろしく」
二人としっかりと握手をする。フレアさんの手は柔らかかったけど、ジュードさんの手はちょっとかたかった。多分、剣か何かを持ってる人だ。
自己紹介をした後は、二人ともなんだかちょっとそわそわしていた。視線でお互いに合図を送ってる、みたい。何かを聞きたそうにしてる気がする。
私が首を傾げると、意を決したようにジュードさんが口を開いた。
「あー、その……。ミレーユは、どうだろうか? 元気にしているだろうか」
「ミレーユさんのこと、気になるんだね」
「これでもあの子の父親だからな」
ん……。そっか。両親なら気になるものなんだよね。それが普通だよね。うん。
「とても元気。私も良くしてもらった」
「ああ、そうか……。安心した」
そう言ったジュードさんは、本当に安心してるみたいだった。
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