封蝋された紹介状の効果
シャーリーの話を聞いて適当に返事をしていたら、マークと目が合った。シャーリーには見えないように、小さく頭を下げてくる。ふと隣を見れば、メイドさんもどこか申し訳なさそうな様子だ。
『すぐ近くなのに護衛とかいらんだろと思ったけど』
『これあれだよな。王女様の話し相手に雇った感じだよな』
『はえー。妹想いのお兄ちゃんですね』
『なお護衛費用は血税である』
『クソじゃねえか!』
私としては、どちらでもいいけど。
のんびり馬車に揺られながら、シャーリーの話に相づちを打つ。なんだか事実確認をされてる気分。シャーリーからこういう話がありますが本当ですか、みたいに聞かれて、私がそれに答えるという感じ。何が嬉しいのか、答えるたびにシャーリーは嬉しそう。
そうして話をしながらも馬車は進んで、お昼を過ぎた頃に王都にたどり着いた。
王都はとても大きな壁に囲まれているみたいで、壁は他の都市にあるものよりもずっと高い。あと、壁から魔力も感じられる。何かの魔法をかけてるみたい。
んー……。
「壁をこえて入ってきた侵入者を感知する結界、かな?」
「まあ……!」
「分かるのですか!?」
私のつぶやきに、シャーリーとマークが反応した。メイドさんも目を丸くしてるから、間違いないみたい。
『なあリタちゃん、その魔力ってはっきり分かるもんなん?』
『わりと国防で大事な秘密なのでは?』
え、あれ? そうなのかな。シャーリーとマークを見てみると、シャーリーは目をきらきらとさせていて、マークは頭を抱えていた。うん。内緒だったのかもしれない。
「ん。誰にも言わない」
「はい……。お願いします……」
マークが小さな声でそう言った。ちょっとだけ、ごめんなさい。
王都の門は、さすが王族の馬車なためか、たくさんの馬車や人が並んでいたけど素通りすることができた。特権ってやつだね。すごい。私はさすがにギルドカードとかを調べられたけど。
そうして門をくぐった先は、どこの道も石畳でしっかりと舗装された、とても綺麗な街だった。ところどころに木や花が植えられていて、景観も悪くない。道もとても広くて、馬車が余裕を持って行き交うことができるほど。
もちろんこれだけ大きな街だから、ちょっと暗くて危ない道もあるだろうけど、少なくても街に入った直後に見える場所にはないね。
『でっかくてきれいな街』
『魔法学園がある街もすごいと思ったけど、この街の方がやっぱすげえな』
『さすが王都』
この国の中心部なだけはあると思う。
街の中央にはお城があるみたいで、ここからでもそのお城は見ることができる。ただ、まだまだかなり遠い場所だ。かすかにしか見えないから。
「隠遁の魔女様。報酬の支払いは今ここでの方がよろしいでしょうか? それとも、ギルドを通しますか?」
「んー……。一応、ギルドで。あとで何か言われたくないし」
「かしこまりました」
メイドさんの問いかけにそう答えて、私は馬車を降りた。さすがにこのままお城に行こうとは思えないから。まずはミレーユさんのお家に行かないとね。紹介状も書いてもらったことだし。
「魔女様、お城にも来てくださいね!」
「ん」
シャーリーに手を振ってから少し離れると、馬車が走り始めた。護衛の兵士さんたちがみんな頭を下げて通っていく。とても律儀というか、しっかりした兵士さんたちだと思う。
兵士さんがみんな通り過ぎてから、一息。楽できたような、逆に疲れたような、そんな感じです。
「それじゃ、ミレーユさんの実家を探そう」
『おー』
『いや、リタちゃん。どうせならさっきの王子王女に聞けばよかったのでは?』
『普通にお屋敷まで案内してくれたのでは』
「あ……」
そう、だね。うん。私も、そんな気がする。何故か最初からとても懐いてくれてるシャーリーなら、喜んで案内してくれたと思う。でも。
「そういうことは降りる前に言ってほしい」
『さーせんwww』
『気付いてて言わないようにしてたのかとw』
正直、早く離れることしか考えてなかったよ。
まあ、今更だね。もう馬車が行ってしまったし、今から追いかけるのも面倒だ。とりあえず、門の兵士さんにでも聞けば教えてくれるかも。だから、まずは門に行こう。
王都は中央にお城、その周辺が貴族のお屋敷が建ち並ぶ貴族街になってるみたい。ミレーユさんの実家、バルザス公爵家のお屋敷もその貴族街にあるみたいだった。
というわけで。私は今、そのバルザス公爵家のお屋敷の前にいます。とても広いお庭があるお屋敷で、お庭の前の門で足止めされてるところ。門番さんが二人いて、その二人に通せんぼされてるってことだね。
「申し訳ありませんが、魔女殿であろうとお通しするわけにはいきません」
「お引き取り願います」
こんな感じで。
『これぞまさに門前払い』
『言ってる場合かw』
『紹介状持ってること伝えたら?』
あ、そうだね。いきなりお家の人に会わせてほしいってギルドカードを出して言ったのが悪かったかもしれない。
アイテムボックスにギルドカードをしまって、次に紹介状を出す。門番さんがアイテムボックスにとても警戒してるのが分かるから、すぐに閉じておこう。
はい、と紹介状を渡すと、門番さんの表情はさらに険しくなった。
「現在、この封蝋を使っているのは、遠方にいるお嬢様だけのはずですが……」
「お嬢様は絶対に使わないと言って、ここを出て行かれています。それをどこで?」
うん。なにそれ聞いてない。ミレーユさん、紹介状が逆効果になってるよ!?
『これは草』
『笑ってる場合かwww』
『お前も笑ってるやんけw』
『多分ミレーユさんも、出て行く時は使うつもりはなかったんやろうなあ……』
『リタちゃん、あれだ。ナイフは?』
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