馬車に乗っていた人たち
私はまだよく分からないけど、報酬をもらった方がいいなら、とりあえずもらっておこう。この人たちも、そこまでお金に困ってるわけじゃないみたいだし。
「じゃあ、もらう。金額は任せる」
「かしこまりました」
丁寧に頭を下げる兵士さん。ため息をつきたくなるのを堪えながら、兵士さんたちに治癒魔法をかけた。ついでに、彼らが守っていた馬車にも。淡い光が兵士さんたちを覆って、そしてそれが消えるとみんなの傷は治っていた。
『治癒魔法ええなあ』
『この魔法だけでも使えるようになりたい』
『絶対に無理だから諦めろ』
治癒魔法は教えるのも難しいからね。この世界でも、治癒魔法が得意な人はかなり優遇される、というのを師匠から聞いた覚えがある。師匠は精霊たちから聞いただけらしいけど。
兵士さんは全員の様子を確認すると、私に頭を下げてから馬車の中に入っていった。
これは、待っておいた方がいいのかな?
「もう無視して先に行こうかな……」
『気持ちは分かるけどもうちょっと待とう?』
『この人たちも王都に行くのでは?』
『そうだとするとまた会う可能性もあるぞ』
それは、ちょっと気まずくなりそう。仕方ないから、もうちょっと待とうかな。
他の兵士さんたちが出発準備をするのを見守っていると、馬車の中からさっきの兵士さんと、そしてもう二人、青年と女の子が出てきた。動きやすい、けれどとても高級そうな服を着ている子供たち。青年は真美よりも年上ぐらい、女の子はエリーゼさんと同じぐらいに見える。二人は私を見て、青年は警戒を、女の子は笑顔を浮かべた。
「あなたが助けてくれたのですね! ありがとうございます、魔女様!」
「ん……」
『照れてる』
『照れ照れリタちゃん』
『ストレートにお礼を言われるのって恥ずかしいよね』
好意を感じられるぐらいの笑顔だから、余計にね。ちょっと恥ずかしい。
青年と女の子は姿勢を正すと、しっかりとした声で言った。
「お初にお目にかかります。マルナイム王国が第三王子、マーク・マルナイムと申します」
「第四王女、シャーリー・マルナイムです」
「あー……」
『王族だあああ!』
『テンプレきたあああ!』
『助けた相手が貴族、それも王族! 定番ですね!』
『まあ助けてはないけど!』
王族だとは思わなかったけど……。でも、どうせ王都に行ったらいつか会ってた可能性もあるし、ちょうどいいかも。師匠のことが聞けるかもしれないし。
「私は……、隠遁の魔女」
そう名乗ると、シャーリーがぱっと顔を輝かせた。
「あなたがあの……! お噂は王都にまで届いています! こうしてお目にかかれて光栄です!」
「ええ……」
それは普通なら私が言わないといけないセリフだと思うんだけど……。王族がただの冒険者に光栄なんて言うとは思わなかった。
次に話し始めたのは、マークだ。
「冒険者なのでしたら、護衛をお願いしてもいいでしょうか。もちろん、Sランクの魔女殿に見合う報酬を支払わせていただきます」
護衛、だって。でも王都はもう目と鼻の先だ。夕方にはたどり着くと思う。お金がもったいないと思うんだけど……。
ふと、マークが隣のシャーリーを見た。まっすぐに私を見つめてる女の子。なんだろう、ちいちゃんみたいに瞳が輝いてる。
これは、あれかな。護衛というよりも、この子の話し相手になってほしい、ということかな。
「どうしよう」
小声でそう聞くと、すぐにコメントが聞こえてきた。
『同行しようぜ』
『王子王女とはいえ、王族との繋がりがあれば、王様に会うのも簡単になるかも』
そっか。王様と会うなら、ここで繋がりを持っておくのもいいかもしれない。
でも、Sランクの護衛って結構高いよね。この子たちがそれだけのお金を勝手に使うと、怒られたりしないかな。王族ならそんなお金は気にならない、とか?
んー……。よし。
「さっきので魔力を少し使いすぎた。護衛は面倒だけど、休ませてくれると嬉しい」
私がそう言うと、シャーリーは嬉しそうに何度も頷いて、そしてマークはすぐに察しがついたのか苦笑して小さく頭を下げた。
王族の馬車は、なんだかとても豪華な馬車……、とは思うけど、乗り心地はあまりよくないかも。とても激しく揺れてる。結界がなかったらお尻が痛くなってたかもしれない。
私の向かい側にはマークとシャーリーが座っていて、私の隣はメイドさんが座っていた。このメイドさんは護衛も兼ねてるらしい。服で見えないけど、ナイフを持ってるみたい。
警戒されてるみたいだけど、不快にはならない、かな。むしろ初対面の私を無条件で信頼する方がおかしい。つまりとても楽しそうに話しかけてくるシャーリーはおかしい。
「あなたの噂を聞いてから、是非とも会ってみたかったんです! ドラゴンですら討伐したと王都でも話題でした……!」
「そうなの?」
「はい!」
みんなの反応からある程度は避けられないとは思ってたけど、もう王都にまで伝わってるんだね。他にも話題ぐらいあると思うんだけど。
「それに、精霊の森の調査も隠遁の魔女様が協力したと……!」
「んー」
なんだか、シャーリーの勢いがすごい。正直、ちょっとだけ反応に困る。
『なんかエリーゼちゃんみたいやな』
『王女がファンってすごいなw』
『リタちゃん、ファンは大事にせなあかんよ?』
『で、ライブはいつですか』
しないよ。歌って踊って、のやつだよね。絶対にしない。
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