フルーツ&コーヒー牛乳
エスカレーターで一階に戻って、向かう先は売店。買うのは、真美が美味しいって言ってたジュースだ。本当はお風呂上がりに飲むのが一番美味しいらしいけど、ちいちゃんも寝ちゃったから、そこは諦めよう。
「フルーツ牛乳とコーヒー牛乳が美味しいんだっけ」
「うん。あ、私とちいのもお願いできる? お金は後で渡すから」
「ん。お金はいい。ここに入る時のお金も渡してないし」
「いや、それこそ付き合ってもらってるから別に……」
「ん。だから、せめてジュースは出す」
「ええ……。えっと、ありがとう?」
それじゃ、ジュースを買おう。たくさん並んでる棚からジュースを探すと、すぐに見つけられた。なんだか大きなケースに入ってる。扉があるケースで、開けてみるとひんやりとしてる。手に取って見ると、しっかりと冷えていた。
これを持っていけばいいんだよね。何本いるかな。んー……。
「店員さん」
「は、はい!」
店員さんを呼ぶと、エプロン姿の女の人がすぐに来てくれた。ちょっとだけ緊張してるように見えるけど、光球が気になるのかな。
「これとこれ、たくさん欲しい」
「た、たくさんですか? 何本ぐらいでしょう?」
「んー……。じゃあ、控えめに、五十本ずつぐらいで」
「ごじゅっ……」
『なんて?』
『控えめ (計百本)』
『なんかやべーこと言ってるぞこの子』
だって、あまり大きくないみたいだし。これなら、毎日一本ずつとかでも飲めそうだしね。精霊様にもいいお土産になりそう。
店員さんや視聴者さんよりも慌てていたのが、何故か真美だった。
「まってまってリタちゃん! どうしていきなり大量買いしようとしてるの!?」
「ん? 美味しいって言ってたから」
「私は美味しいと思うけど! でもリタちゃんも美味しいと感じるかは分からないから!」
「大丈夫。真美が美味しいって言ったものにはずれはなかった。この世界では真美を一番信じてる」
「嬉しさよりもプレッシャーの方がずっと大きい!」
『草』
『そりゃそうだw』
『リタちゃんに信頼されてて羨ましいけど、確かにプレッシャーがすごそうw』
そこまで気にしなくてもいいんだけど。私も、真美と同じ味覚だとはさすがに思ってないし。ただ何度も来るのはちょっと面倒だから、ここは真美を信じようと思っただけで。
でも結果としては、さすがにいきなり百本は買えなかった。他のお客様に売る分がなくなってしまうから、だって。言われてみれば当然だね。
だから、とりあえず十本ずつ購入。美味しかったら、改めて注文しにくることになった。取り寄せしてくれるらしい。
「ん。じゃあ、また来る」
「はい。お待ちしていますね」
店員さんに手を振ってから、帰る。真美が分かりやすいほどに安心してたけど、そこまで気にしなくてもいいのにね。
真美の家に帰り着いて、早速ジュースを飲む。ちなみにちいちゃんはベッドに運ばれた。このまま寝るのかなと思ったけど、あとで歯磨きさせるみたい。虫歯予防は大事だね。
「どっちが美味しい?」
「どっちも美味しいよ」
フルーツ牛乳とコーヒー牛乳、どっちから飲もう。もちろんどっちも飲むつもりだけど……。んー……。
「じゃあ、フルーツ牛乳から」
アイテムボックスからフルーツ牛乳を取り出す。細長い瓶に入ってる牛乳で、紙キャップというものがついてる。視聴者さんが言うには、昔懐かしい形状とキャップらしい。
『牛乳キャップ、よく集めたなあ』
『友達と交換したり、メンコみたいにして遊んだりした覚えがある』
『レアなキャップ持ってるやつはヒーローだったなw』
『お前ら何歳だよ……』
今ではあまりない、のかな?
「私もあの店でしか見ないかなあ。紙キャップなんて、もうほとんど使われてないと思うよ」
「ふうん……」
今だとポリキャップというのが普通らしい。何度も開け閉めできるらしいから、そっちの方が便利だと思う。あのお店が紙キャップなのは、観光客向けの商品だからなんだって。
私としてはどっちでもいいけど。美味しければいいです。
とりあえず、一口飲んでみる。
んー……。フルーツジュースとはまたちょっと違う。フルーツがたくさん使われていてとても美味しくて、それでいて牛乳特有のなめらかさがある。美味しい。
コーヒー牛乳もちょっと似てる。コーヒーのほのかな苦みを牛乳で中和させた、のかな? とても甘くて、美味しい。
「たくさん買う」
「あはは。気に入ってもらってよかった」
また注文しに行かないとね。
「でも、どうして瓶にフルーツとかコーヒーとかしか書いてないの?」
「あー……。見た目で分かるから、というのが一つだけど……」
『ぶっちゃけ法律の問題。牛乳表記はできないんだ』
『昔いろいろあったのさ』
法律なら仕方ない、のかな?
「満足。そろそろ帰る」
「うん。今日は付き合ってくれてありがとう、リタちゃん。楽しかった」
「ん。私も楽しかった」
「また行こうね?」
「ん……」
『照れてるリタちゃんかわいい』
『照れ照れリタちゃん』
『てえてえ?』
余計なことは言わなくていいよ。
苦笑いする真美にフルーツ牛乳とコーヒー牛乳を二本ずつ渡して、私はすぐに森に転移した。
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