フランクフルトと焼きそば

 わたあめを少しずつ食べながら、他の屋台も見て回る。食べるものは私が決めていいって真美に言われたけど……。正直、どれがいいのか分からない。


「だからちいちゃんが食べたいものでいいよ」

「いいの!?」

「ん」


 ちいちゃんが選ぶものなら、きっとはずれはないと思うから。

 ちいちゃんはとっても嬉しそうに周囲を見回してる。わたあめが例外なだけで、一応我慢はしていたみたい。

 すぐにお目当てを見つけたみたいで、私の手を握って引っ張ってきた。


「あれ! あれおいしい!」

「ん」


 ちいちゃんに手を引かれてついていく。すぐ後ろに真美も来てくれていて、困ったような笑顔だった。


「ごめんね、リタちゃん」

「んーん。私もお祭りの食べ物って分からないし」


 それに、ちいちゃんの嬉しそうな笑顔を見てるだけでも、なんだか私も嬉しくなるから。

 ちいちゃんが選んだのは、フランクフルト、というもの。大きなソーセージを鉄板で焼いて、ケチャップやマスタードをかけたもの、なのかな? とりあえずそう見えるけど。


「これ、真美がたまに小さいもので作ってくれてるような……?」

「あはは……。あれは小さいソーセージだから」


 真美が作ってくれるのは、小さいソーセージをフライパンで炒めたもの。お手軽なおやつとして出してくれたことがある。あれも美味しかった。

 お祭り用は、串に刺した大きいソーセージを使うみたい。豪快だね。


『お祭りのフランクフルトはそれはそれで美味しいぞ』

『なんでか家で自分で作った時より美味しく感じるよね』

『お祭りの雰囲気は最高の調味料なのさ!』


 ケチャップとマスタードは自分でかけるみたいで、焼いたソーセージをそのまま手渡された。側のテーブルにケチャップとマスタードのボトルが置いてある。


「おねえちゃん! ちい、ケチャップたくさん!」

「はいはい」


 ちいちゃんは真美にかけてもらうみたい。私は、さすがに自分でやろうかな。こういうのって、たくさんかけた方がいいのかな? とりあえず、やってみよう。


「り、リタちゃん……?」

「ん?」

「マスタード、かけすぎじゃない……?」

「ん……?」


『だぱぁ』

『端から端まで三往復するのは草なんだ』

『これケチャップかかるんか?w』


 かけすぎ、らしい。んー……。よし。


「じゃあ、ケチャップでバランスを取る」

「ええ……」


『違う、そうじゃないwww』

『ケチャップも三往復するのはたまげたなあ……』

『すっげえ奇跡的なバランスでのってるな、これw』


 油断したらこぼれて落ちちゃいそう。食べるまでは魔法で固定しておこう。それじゃあ、いただきます。


「ん。ケチャップとマスタードの味しかしない」


『そりゃそうだwww』

『当たり前すぎて何も言えねえwww』


 多分美味しいと思う。でも、うん。どうしよう。

 ちょっと困ってたら、真美にフランクフルトを奪われた。何をするのかなと思ったら、自分のフランクフルトにぺたぺたとケチャップとマスタードをうつしてくれてる。すごくやりにくそうだったから、真美の分も魔法で軽く固定。


「これぐらい、かな? はい、はんぶんこ」

「ん……。ありがと」

「いえいえ」


『真美ちゃんがすごくお母さんっぽい』

『真美ちゃんママー!』

『これが……ママ味……』

『ママあじ』

『み』

『あじ』

『これだからあじ派は』

『やんのかみ派』


 なんだかくだらない言い争いをしてるみたいだけど、楽しそうだから放置しよう。

 改めて、フランクフルトを食べる。んー……。フライパンの時よりも、なんだか香ばしい気がする。独特な香りもあって、食欲がそそられる。これは、美味しい。

 その次に選んだのは、焼きそば。焼きそばも真美に何度か作ってもらったことがあるけど、これも全然違う味に感じた。真美には悪いけど、屋台の方が美味しいと思う。


「屋台の焼きそば、美味しい……」

「うん。これを再現してみたいんだけどね……。やっぱり、鉄板とフライパンじゃ全然違うみたいで。難しいよ」

「そうなんだ」


 鉄板、すごい。焼いている時もなんだかいい香りがした。でも、なんとなく覚えがあるような香りだったんだよね。んー……。


「お好み焼きの時のソースの香りに似てるかも……?」

「あー……。ソースが焦げる匂いって独特だからね。嫌いな人もいるみたいだけど、私は好き」

「ん。お腹が減っちゃう匂い」


『わかる』

『フランクフルトと焼きそばの屋台は前を通るだけでも腹が減る』

『どっちも出前であるけど、香りだけは現地が一番』


 この香りもセットで美味しい、のかな?

 焼きそばを食べたところでちいちゃんも満足したみたい。今度は少し眠たそうにしてる。


「ちい。眠たい?」

「むー……」

「ふふ。ほら、おいで」


 真美がちいちゃんを抱っこすると、ちいちゃんはすぐに眠ってしまった。寝てるのに真美にきゅっとしがみついてる。かわいい。


「リタちゃん、ごめんね。そろそろ帰ろっか」

「ん」


 ちいちゃんも寝ちゃったしね。私も満足したから、帰ろう。

 だから。私たちが帰り始めたからって露骨に残念そうにされても、私は知らない。

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