わたあめ

 三人でエレベーターに乗って、二階へ。エレベーターから出ると、少し広い部屋に出た。向かい側にエスカレーターがあるのも見えるけど、でも他には自動販売機とテーブルぐらいしかない。お店は、なさそうかな?


「自動販売機だけ?」


 真美に聞いてみると、真美は悪戯っぽく笑った。


「二階はこの中間地点を除くと、二つのエリアに分かれてるよ。南側は普通のレストランとお土産が買えるお店。北側がこの施設の目玉」


 真美に言われて周囲を確認すると、確かに両端に自動ドアがあった。南側は他でも見るレストランみたいな部屋に繋がってるみたいだけど、北側はなんだか全然違う雰囲気だ。ちょっと、暗いかな?


「あっちはすごくたのしい!」

「楽しいの?」

「うん!」


 ちいちゃんがすごくわくわくしてる。どんな場所なんだろう?

 真美たちと一緒に北側の自動ドアを抜けると、とても不思議な部屋に出た。少し薄暗い部屋だけど、でもちゃんと見える程度の暗さだ。夜をイメージしてる、のかも?

 そして部屋にはたくさんの屋台が並んでる。一目で食べ物と分かるものもあるし、遊ぶための屋台もあるみたい。そんな屋台が等間隔に並んでいて、たくさんの人が見て回っていた。


『なにこれすげえ』

『ただのお店があるだけだろうと思ったら、まさかのお祭り風とは』

『でもいいなこれ、楽しそう』


 お祭り……。テレビで見たことがある。夏とかによくあるらしいね。二階はそのお祭りを再現してるらしい。


「わたあめ! わたあめたべたい!」

「こーら。それはおやつでしょ? せめて焼きそばとか……」

「あれ! わたあめ! わたあめ!」

「リタちゃんを味方に引き込もうとするのはずるいかなあ!?」


 ちいちゃんに手を引かれて向かった先は、なんだか不思議な機械を置いてる屋台。大きなお鍋みたいな機械で、中心に缶みたいなものがある。多分食べ物だと思うけど、想像できない。


「わたあめってなに? 美味しいの?」


『お菓子大好きなリタちゃんなら絶対に気に入る』

『見れば分かる!』

『反応が楽しみw』


 んー……。お菓子、ということしか分からなかった。


「真美。食べてみたい」

「もう……。仕方ないなあ……」


 そう言いながらも、真美はちょっとだけ楽しそうだ。


『これ絶対リタちゃんの反応を見たがってるぞw』

『わかるぞ真美ちゃん……俺も見たい……』

『そちも悪よのうw』


「リタちゃんちょっとその視聴者さんに呪いをかけてもらえる?」

「ま、真美?」


『あかん目が笑ってない笑顔だ!』

『さーせんした!』


 まったく、なんて言いながら真美はお店の人に声をかけてくれた。お金を渡して、お店の人が何かの粉を中央の缶みたいなものに入れる。するとすぐに、機械の中で白い線がたくさん出てきた。


「君、リタちゃんだね。見ておいてね」


 店主さんにそう声をかけられたけど、どういうことかな?

 店主さんは割り箸を取り出すと、それを機械の内側にゆっくり入れる。そしてお鍋の中でぐるぐる回すと、割り箸にたくさんの白い線がまとわりついてきた。すごくたくさんあるみたいで、あっという間に大きな白い塊になった。塊、というか集まりというか。すごくふわふわしてそう。

 店主さんはそれをちいちゃんに渡すと、にやりと笑って私に割り箸を差し出してきた。


「やってみるかい?」

「ん!」


 やってみたい!

 ちょっと背が届かないから、店主さんに小さい足場を用意してもらった。私のためというより、子供向けにもともと用意してあるものらしい。子供だって言われた気がするけど、今はあまり気にならない。早くやりたい。


 店主さんがさっきと同じ粉を入れると、またすぐに白い線が出てきた。

 店主さんのやり方を思い出しながら、割り箸を入れて、ぐるぐる回して……。わ、すごい、あっという間に大きくなってる。変な形になりそうだから、もうちょっと引いて……、いや奥に入れるべきかな。んー……。


「できた」


『おお、わりと球形』

『よくできました』

『初めてにしては上出来じゃね?』


 ん。結構うまくできたと思う。店主さんもすごいと褒めてくれた。


「真美。真美。できた」

「あはは。ほら、食べて食べて。わたあめは時間が経つと食感が悪くなっちゃうから」

「ん」


 それじゃあ、遠慮なく。ぱくりと一口。

 おー……。甘い。すごく甘い。そして見た目通りにふわふわだ。なにこれすごく美味しい。


「ふわふわしてる……」

「ふわふわー!」


 ちいちゃんが食べたがるのもよく分かるね。これ、すごく美味しい。味はちょっと単調かなと思うけど、食感であまり気にならない。

 それに、見た目は大きいけど、実際の量はそこまででもないみたい。口の中であっという間に溶けてしまうから。うん……。これは、すごくいいものだ。


「リタちゃんを見てたら私も食べたくなったんだけど……。おじさん、私もください」

「まいどあり!」


『真美ちゃんwww』

『気持ちは分かるし羨ましい!』

『なんで! 出前に! わたあめがないんだ!』

『そんな出前があってたまるかwww』


 わたあめの出前、ないんだね。すごく美味しいから売れそうなのに。

 そう言うと、店主さんは真美のわたあめを作りながら苦笑いした。


「さっき、この子が食感が悪くなるって言っただろう? あれ、本当にすぐに悪くなるんだ。それに、持ち運びも不便だし、かさばるのに安い。出前は誰も運んでくれないよ」

「すぐ悪くなるの?」

「ああ。水分に弱くてね。でも最近はコンビニで小さい袋に入ったものも売ってるけど」


 はい、と店主さんがわたあめを真美に渡した。


「うん……。美味しい。でもねリタちゃん。コンビニのわたあめと屋台のわたあめを比べると、やっぱり屋台の方が食感はいいよ」

「ふうん……」


 でも、コンビニのわたあめも少し気になるかも。

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