浴衣
最初に向かったのは、打たせ湯。天井近くからお湯が落ちてきてる。お風呂とはまたちょっと違うみたいだね。
お湯が落ちてきてる場所は三カ所。とりあえず真美の真似をして、頭から。
「んー……。真美。これで正しいの?」
「ごめん。実は知らない」
「え」
「いや、その……。こういうのがあるって知ってるだけだから……」
そっか。それなら仕方ない、かな?
「多分だけど、刺激を与えて血行を良くするとか、そんな感じなんだと思うけど……」
「ん」
首に当ててみたり、腕に当ててみたり……。うん。やっぱりよく分からない。
「たき!」
落ちてくるお湯にはしゃぐちいちゃんがかわいかったから、それでいっか。
次は、足下からたくさんの泡が出てくるお風呂。最初は沸騰してるのかなと思ったけど、そんなことはなかった。よく考えなくても当たり前なんだけど。
足下に網みたいなものがあって、そこから泡が出てるみたい。何かの効果があるのかもしれないけど、でも単純にちょっとだけ楽しそう。
「おー……。ぶくぶくしてる……」
「不思議なお風呂だよね」
「ん」
足の裏がちょっと気持ちいいかも。あと、泡が体を通っていく感覚が、ちょっとだけくすぐったい。でも、面白い。
その隣のジェットバスというのも似たようなもので、これは側面から勢いよく泡みたいなものが出てきてるみたい。足下か側面かの違いだけなのかな。ジェットバスというものの方が勢いは強いけど。足下からのものは泡が出てきてるだけだったし。
座れる場所に座ると、腰あたりに泡が当たって、くすぐったい。でも、なんだか気持ちいいかも。
「おー……」
「これは私も好きー……」
「んー……。きもちいい……」
なんだか不思議な感覚だね。でも、一番気持ちいいかもしれない。私は普通のお風呂の方が好きだけど、でも楽しい。
ちいちゃんは好きじゃないみたいで、足下の泡のお風呂で遊んでいた。
最後は、サウナと水風呂。冷たい水のお風呂とかどうしてあるのかなと思ったら、サウナとセットみたいなものらしい。サウナでしっかり温まって汗をかいてから、冷たい水に入ると不思議な感覚が味わえるのだとか。よく分からないけど。
「とりあえず試してみない?」
「ん」
真美と一緒に、サウナの中へ。ちいちゃんはお風呂でのんびりしてる。ちょっと疲れたのかも。
サウナは……、うん。すごくあつい。とてもあつい。すごく汗をかきそう。うん……。なにこれ?
「お風呂の意味は……?」
「いいからいいから」
真美に促されて、サウナの壁際の椅子に座る。このままじっと待つみたい。
んー……。本当に、なにこれ? もう結界使ってもいいかな? 何がいいのかよく分からないし……。でも、せっかく真美が連れてきてくれたのに、それをやるのはだめかな?
おとなしく座って、すごく体が火照ってきたところで、真美に手を引かれた。そのまま向かったのは、水風呂。今度はこれに入るみたい。本当に意味がわからな……、
「んー……?」
真美と一緒に水風呂に入ったら、なんだか不思議な感覚になった。なんだろう、言葉にするのが難しい。なんだかすごく気持ちがいい。
「どう? リタちゃん」
「ん……。なんだか、不思議な感じ。気持ちいい」
「そっか。安心した」
「ん?」
「子供は気持ち悪くなる子も多いらしいから、リタちゃんは大丈夫かなって不安だったんだ」
そうなったら、さすがに素直に逃げるから心配いらないんだけどね。でも、心配してくれたのはやっぱり嬉しい。私の体が子供のままなのは事実だし。
「真美。真美。もう一回」
「あはは。うん。いいよ」
その後も何度かサウナと水風呂を繰り返したけど、本当に気持ちが良かった。なんだかこう、ふわふわするみたいな、そんな気持ちよさ。真美はととのうって表現してたけど、不思議な感覚だったよ。
お風呂の後は、脱衣所に戻って体を拭いて、そうして服を着るんだけど……。
「なにこれ?」
「浴衣だよ」
「ゆかた」
なんだか不思議な服を真美に手渡された。浴衣、だって。服、なんだろうけど、どうやって着るの分からない。ちなみに、真美が持っていた大きな鞄の理由が、この浴衣を持ってくることだったらしい。
真美の見よう見まねで着ようと思ったけど、分からなかったから手伝ってもらった。なんだか、ちょっと不思議な服だ。帯とか、少し難しそう。真美はとても簡単そうに結んでくれたけど。
結びながら教えてくれたから、次からは一人でも大丈夫、と思う。
「うん。サイズぴったりで良かったよ、リタちゃん。私のお古だけど……」
「ん。気にしない。どう?」
「すごくかわいい! 似合ってる!」
「ん……」
それなら、精霊様にも見てもらいたいかも。あとで貸してほしいってお願いしてみようかな。
私だけじゃなくて、真美とちいちゃんも浴衣だった。周りを見ると、お風呂上がりの人は浴衣を着てる人が多いみたい。
「みんな浴衣を持ってるの?」
「え? ああ、違うよ。私は家から持ってきたけど、ほとんどの人はここのレンタルかな。持ってくるのは正直邪魔だからね」
邪魔なんだね……。でも確かに、大きい鞄のほとんどが浴衣だったって聞いたから、持ってくるのは邪魔かもしれない。
脱衣所を出たところで、一度真美に声をかけてから配信を再開した。ここならもう大丈夫かなって。
「ん」
『リタちゃんおかえり……って、え』
『浴衣だあああ!』
『ほかほか浴衣リタちゃん!』
なんだか、みんなとても嬉しそう。真美は苦笑いだ。日本人にとって、浴衣は特別、なのかな?
『リタちゃんは水色の浴衣か』
『ええやん、かわいい』
『真美ちゃんの紺色もなかなか……。大人っぽさが出てる』
『ちいちゃんのピンクは子供らしくてええな』
『お前らちょっと気持ち悪いぞ』
『うるせえ浴衣はロマンなんだよ』
うん。コメントはしばらく無視した方が良さそうだね。
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