大きいお風呂
三人で自動ドアをくぐった先は、とても広いホールだった。二階や三階を利用しない人はここに出てくるみたいで、のんびりとしてる人も多い。あと、売店もある。
「ここの施設のフルーツ牛乳とコーヒー牛乳、すごく美味しいから楽しみにしててね」
「ん」
ホールの奥にはカウンターがあって、ここで受付をするみたい。入浴だけなら八百円、宿泊もするなら三千円。
「これは、高いの? 安いの?」
『安い……のか?』
『正直、わからん』
『銭湯としては多分安いけど、宿泊はどうだろう?』
『まず環境がわからんから何とも言えん』
それもそうだね。宿みたいな個室と、大部屋でみんなで寝るのが同じ値段とは思えないし。
真美がまとめて支払いもしてくれたので、一緒に中に入っていく。カウンターの左側のドアを通ると、また広い部屋に出た。右側にエレベーター、左側にエスカレーターがあって、真正面がお風呂場に続いてるみたい。脱衣所もそこだって。
「リタちゃん」
「ん。音も消した方がいい?」
「うん。今回は一般の人もいるからね。一度配信は止めてもらった方がいいかな」
「ん」
『そんな殺生な!?』
『そうなるだろうとは思ってたけどちくしょう!』
『感想だけよろしく!』
魔法を解除して、配信の光球と黒板を消す。そうすると、周りの人がため息を漏らしたのが分かった。安堵のため息、かな? 周囲を見てみると、やっぱり見られてるみたい。
うん。もっと早く切っておいた方がよかったかも。
真美とちいちゃんの三人で脱衣所に入って、そしてお風呂へ。結界は、ちょっと不安だけど消しておいた。一応、別の守護の魔法は使ったけど。命に関わる攻撃がされたら自動的で防ぐ、という魔法だけど、安定して発動しない魔法だから過信はできない。ちょっとだけどきどきしてる。
お風呂場はとっても広くて、たくさんの浴槽があった。あと、部屋みたいなのもある。
「ちい、ほらこっち。リタちゃんも、まずは体、洗おう?」
「ん」
とりあえず真美に従っておこう。広すぎてよく分からないから。
「ちい! じっとしなさい!」
「やー!」
「こら!」
賑やかな姉妹の声を聞きながら、体を洗う。やり方は、真美と一緒に入った時と一緒でいいよね。ささっと洗って……、さてどうしよう。
「真美。真美。どれに入ればいいの?」
「はい、頭流すよー。え、あ。えっと……どこでもいいよ。あとで探しに行くから。リタちゃんは髪で目立つし」
「ん……」
そっか。髪か。ローブを脱いだのに視線が多いのが不思議だったけど、髪で目立ってたんだね。
「あ、でも水風呂もあるから気をつけてね!」
「水風呂?」
「冷たいお風呂!」
「ええ……」
あったかいから気持ちいいと思ってたんだけど……。日本人の考えることはよく分からない。
それじゃ……。どこに行こう?
お風呂場は、出入り口の右側の壁側に洗い場があって、真ん中に大きなお風呂、出入り口の反対側に少し小さめのお風呂がいくつか並んでる。大きいお風呂が冷たいとは思えないから、とりあえずはこっちかな?
「ん……。あったかい」
お風呂に入って、一息。うん……。気持ちいい。
「んふー……」
やっぱり、お風呂はいいね……。森でも作れないかな? さすがに難しいかな……。いやでも、大きな穴を作って、そこにお湯を入れたら大丈夫、かな……? 精霊様に相談してみよう、かな?
端っこの方でのんびりとしていたら、誰かが近づいて来た。真美とちいちゃんじゃない。隣側を見ると、おばあさん、かな? 初老の女性だ。
「あら。外人さんね? この島にも外人さんが来るようになったのね」
外人……。外国の人のこと、だったよね。私はそう見えるみたい。ローブを着てなかったらそんなものなのかも。
「日本語は? 分かる?」
「ん。わかる」
「まあ! 日本語上手なのねえ。すごいわあ」
すごく撫でられてる……。えっと……。どうしたらいいのこれ。
私がちょっと戸惑っていたら、真美とちいちゃんが来てくれた。真美は少し驚いてるみたい。
「高畠(たかはた)さん、こんばんは」
真美がおばあさんに声をかけると、おばあさんは頬に手を当ててにっこりと笑った。
「あら、こんばんは、真美ちゃん。真美ちゃんのお友達?」
「はい、そうです。かわいい子でしょ?」
「ええ、ええ。とってもかわいいわ。お人形さんみたい」
おばあさんはにこにこ笑いながら、まだ頭を撫でてくる。ただ、不愉快でもない。なんだか優しいなで方で、悪くないかなって。
「せっかくだしもう少しお話ししたかったけれど、お友達と一緒なら邪魔しちゃ悪いわね。ゆっくりしていってね?」
おばあさんはそう言うと、離れていった。なんというか、不思議な人だった。
「ごめんね、リタちゃん。大丈夫だった?」
「ん。いい人、だったと思う」
「あは。そっか。うん、あの人はすごくいい人だよ」
やっぱり知り合いなんだね。この島の人なのかな。
真美が隣に座って、ちいちゃんはその向こう側に。ちいちゃんが口をお湯につけてぷくぷくと泡を出して、真美に叱られてる。ちょっと、楽しい。
「よし、リタちゃん!」
「ん?」
「ここのお風呂は、足下からたくさん泡が出てくるお風呂と、ジェットバスっていうのがあるよ。あと、打たせ湯っていって、高い場所からお湯が落ちてくるものかな。他は定番のサウナと水風呂! どれから入りたい?」
「えっと……」
正直、イメージができない。から、とりあえず全部試したい。そう言うと、真美は楽しそうに笑いながら頷いてくれた。
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