とても大きなゴブリン

 見張りのゴブリンをばくっとして、洞窟に入った。


「あわ、あわわわ……」

「黒いものが……ひいいぃぃ……」


『かわいそうに……』

『これ別の意味でこの人たちのトラウマにならない?』

『ゴブリンとはいえ、一瞬で正体不明の何かに食われてるわけだからな……』


 周囲も汚さないから、すぷらったが苦手な視聴者さんも安心、だよね?

 洞窟の中をどんどん進む。入り組んでいて迷いやすそうだけど、探知の魔法で全体像は把握してるから問題はない。剣士さんたちが迷子にならないようにだけ気をつける。

 そうして歩いていたら、ゴブリンが襲ってきた。変な鳴き声を上げながら走ってきたから、全部ばくっとしておく。ゴブリンって一匹でも漏らすと面倒なことになるらしいから、全部倒さないといけないらしい。恨みを持って近くの村をまた襲うんだって。


 森の中で静かに暮らしておけばいいのに、どうして人里を襲うことをするのかな。そんなことをしなかったら、強い冒険者が派遣されてくることもないと思うのに。

 しばらく歩いてたどり着いたのは、小さな部屋。多分牢屋とか、そういった目的で使われてる部屋だ。部屋の前に見張りもいたし。ばくっとしたけど。

 その部屋の隅に、少年と少女が一人ずつ。二人とも私よりも少し大きいぐらい、かな? ぼろぼろの衣服だ。何をされたのかは、考えないでおこう。


「この子たち、もしかして先に来てたっていう……」

「生きてるのか……?」

「ん。生きてるみたい」


 近づいて、確認してみる。うん。ぎりぎり生きてる。とりあえず回復魔法をかけてあげると、すぐに息が整った。連れて帰れば、まず死ぬことはないと思う。


『ほんとにぎりぎりやないか……』

『でも無事で良かった』

『正直、人の死体を見ることになりそうだと覚悟してたから』


 あー……。そう、だね。考えてなかったから、気をつけないと。


「この子たち、背負える?」

「もちろん」


 剣士さんと魔法使いさんがそれぞれ背負ってくれた。魔法使いさんも結構力があるんだね。魔力で強化してるだけかもしれないけど。

 この洞窟の出入り口は一つしかないみたいだし、先にこの子達を外に出そうかな、と考えていたら、狭い部屋の中に大きなゴブリンが入ってきた。

 とても、とっても大きなゴブリン。三メートルぐらいの背丈があるかも。


「ゴブリンキング……!」


 剣士さんが息をのんだのが分かった。これがゴブリンキングなんだ。


『でかすぎて笑えない』

『はえー。でっかいゴブリンですねー (鼻ほじ)』

『リタちゃんがどうやって倒すかしか興味ねーやw』


 ばくっとすればいいかな。あ、でも、ゴブリンキングは倒した証明がいるかも。えっと……。


「討伐の証拠って何かいる?」

「え? ゴブリン系統なら、耳を切り落として持って帰ればいいけど……」

「耳」


 んー……。どうしよう。ばくっとすると、耳も一緒にばくっとしそう。他の手段を考えないとだめかな。んー……。


「あの、魔女様」

「なに?」

「痛くない、のですよね?」

「ん」


 ゴブリンキングが手に持った棍棒を何度も振ってきてるけど、痛くもなんともない。衝撃すらもない。ついでに音すらも聞こえない。大きなゴブリンが棍棒を振り回してるだけ。


「みみ……みみ……。すぱっと」


 ばくっはだめみたいだからすぱっといこう。ゴブリンの足下からいつもの口の代わりに黒い刃を射出、耳を切り落としてからばくっとした。これでよし。耳はアイテムボックスに入れておく。


「あの……魔女様……」

「ん?」

「今のはなにを?」

「すぱっとした」

「すぱっと」


『すぱっと』

『ばくっの次はすぱっか……』

『リタちゃんのオリジナルの魔法、容赦なさすぎない?』


 気のせいだよ。多分。




 洞窟を出て、最後にまたゴブリンが住み着かないように爆破して、崩落させて。色々と片付けてから、街に戻った。討伐依頼は初めてだったけど、うまくできたかな。

 ギルドで報告すると、ギルドマスターさんには理解できないものを見るような目で見られてしまった。ちょっと失礼だと思う。ギルドマスターさんだけじゃなくて、他の人からも同じような目で見られてるけど。


「まさか、その日のうちに行って帰ってくるとは……」

「耳も確認したよね?」

「ああ、もちろんだ。負傷者も連れて帰ってきてもらってるし、疑うことはしない」


 洞窟で助けた二人もギルドまで運んだけど、今は他の人、というよりパーティメンバーさんたちの手で病院に運ばれた。去り際に何度もお礼を言われて、ちょっとだけ、よかったなって。


「いや、しかし。灼炎の魔女まで推薦してきたほどだからある程度予想はしていたが、まさかこれほどとはなあ……。なあ、隠遁の魔女。ここに正式に所属しないか?」

「んーん。だめ」

「だよなあ……」


 多分ミレーユさんみたいなことをしてほしいんだろうけど、私は精霊の森から移住するつもりはない。私のお家は、あそこだけだから。


「それじゃ、私はこれで」

「ああ……。助かったよ。また機会があればよろしく頼む」

「ん」


 ギルドマスターさんに手を振って、ギルドを出る。もう夕方だけど、宿は今からでも大丈夫かな? 帰ってくる時に剣士さんたちにオススメを聞いておいたんだけど。


「ゴブリン退治、やったよ。どうだった?」


 最後に視聴者さんにそう聞いてみると、


『イメージと違いすぎるわw』

『テンプレどこ……? ここ……?』

『戦いも何もなかったな!』


 んー……。みんなが想像していたものとは違ったみたい。でも私はなんだか新鮮で、ちょっとだけ楽しかったよ。

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