討伐依頼

「それに、まだゴブリン退治とかもしたことないし」


『確かにw』

『スタンピード以外だと素材採取ばかりやってたな』


 私の小声に視聴者さんが反応してくれる。

 討伐系の依頼は、対象の魔獣が分からない時が多いから避けてるからね。でもそろそろ受けてみたいと思ってる。

 誰もやりたがらない依頼に討伐があるかは分からないけど。他の冒険者さんは討伐依頼の方をよく受けるみたいだから。報酬がいいらしいよ。


「それなら、頼みたい依頼がある」

「ん?」

「これだ」


 ギルドマスタ―さんが依頼書を出してくれた。えっと……。

 ゴブリン退治、だね。Aランク向けの依頼みたい。でも確か、ゴブリンってそんなに強くないから、普段はCランク向けの依頼のはずだけど。

 私が首を傾げていると、ギルドマスターさんが教えてくれた。

 今回はゴブリンの大規模な巣ができてしまっているらしい。洞窟を使った巣らしくて、ゴブリンの最上位種、ゴブリンキングがいる数百体規模の巣なんだとか。

 一度Cランクのパーティが向かって、たった一人が逃げ帰ってきて情報を持ち帰った、らしい。


『テンプレだ、と思ったけど、犠牲者が出てるとちょっと反応に困る』

『いくら弱くても多勢に無勢だったんだろうな……』


 近くの村でも行方不明者が出てるらしいから、次は多数のパーティで向かって早期に片付けるつもりだったみたいだけど……。問題は、やりたがらない冒険者ばかりなんだとか。いくら弱いゴブリンでも数が多すぎる上に洞窟内はゴブリンのテリトリーで危険、さらに報酬も安いから、だって。


 薄情、だとは思わない。冒険者さんも命がけだから、危険と報酬が釣り合ってなければ受けるはずもない。

 近く、国の援助を受けて報酬が増額されるか騎士団が派遣される予定らしいけど、それまでは誰も受けないだろうとのことだった。


「この国は人を大事にしてくれるからな。援助があるのは間違いないが、それでもまだ少し先の話だ。そしてその間でも、人は死ぬ」

「ん……」


 近くに小さな村があるらしくて、そこで犠牲者が出てるらしい。

 これが大きな村だったら依頼料も多く出せて対応しやすいらしいけど、小さい村だから今の依頼料が限界なんだとか。ゴブリンキングはそれを分かっているのかも、と予想してるみたい。


「説明終わり?」

「あ、ああ。その、やめておくか?」

「んーん。受けるよ」


 私が依頼書を受け取ると、ギルドマスターさんだけじゃなくて、周りの人も驚いてるみたいだった。そんなに割に合わない仕事なのかな。別にいいけど。


「だ、大丈夫か? 二つ名持ちの魔女が規格外っていうのは分かってるが、狭い洞窟内で戦うことになるんだぞ?」

「平気」

「そうは言っても……。ああ、そうだ! ならこいつらを連れていってくれ! 二人ともBランクだから詠唱の間を守ることぐらいはできるはずだ」


 ギルドマスターさんが指し示したのは、さっきの剣士さんと、魔法使いさん。二人とも慌てたように姿勢を正した。嫌、ではないみたい。なんだか期待のまなざしを向けられてる。ちょっとだけ恥ずかしい。


「この二人への依頼料は俺が出す。だめか?」

「大丈夫」


 見てもらうだけになりそうだけど、それでも良さそうだし。

 それじゃ、早速行こう。今日中に終わらせたいから。


「行くよ。今日中に行って帰ってくるから」

「え、待ってくださいどうやってですか!?」


 私が外に向かうと二人が慌てて追いかけてきた。魔法使いさんはいつの間にか剣士さんから離れて、むしろ私に距離が近くなってる。ちょっと困る。


「空を飛んで。手を出して。大急ぎで行くから」

「え……?」

「えっと……。こう、ですか?」


 困惑しながらも出された二人の手を掴んで、私は空を飛んだ。大急ぎだ。


「ぎゃああああ!」

「いやあああ!」


『これはひどいw』

『ひどいけど見てる分にはおもしろいw』

『ここには薄情者しかおらんのかw』

『草生やしてる時点でおまえも同類だよ!』




 たどり着いたのは小さな山。自分たちで掘ったのかは分からないけど、確かに洞窟がある。あと、見張りなのかゴブリンが三体ほど。

 森の中にある洞窟で視界が悪そうだけど、どうしようかな。


「手っ取り早いのは洞窟を爆発させたり水であふれさせたりとかだけど……」

「ひぇ……っ」


『ヒェ……』

『同行者まで怯えてるのは草なんだ』

『発想がガチすぎて怖いw』


 手加減する必要もないと思ったから。

 でも、魔法で軽く探知したんだけど、ゴブリン以外がいるみたい。もしかしたら先に来た冒険者さんがまだ生きてるのかも。

 というわけで。


「正面から歩いていきます」

「え」


『まって』

『真っ正面から行くの!?』

『まずいですよ!』

『何が?』

『ゴブリンさんの精神が!』


 勝手に折れればいいと思う。

 でも剣士さんと魔法使いさんは危ないから、ちゃんと魔法をかけてあげる。防御の魔法を使ってあげると、二人に薄い青色の膜が張り付いた。分かりやすいように可視化させてみたけど、ちょっと目立ちそう。


「あの、魔女様。これは?」

「ん。防御の魔法。ワイバーンの攻撃でも弾ける」

「な……!? そんな、俺たちにだなんて! 魔女様自身に使ってください!」

「ん? このローブの魔法がそれの上位互換。ドラゴンの攻撃でも平気」


「あ、はい」

『ア、ハイ』

『心配するだけ無駄なんだよなあ……』


 心配してくれるのはちょっぴり嬉しいけどね。

 それじゃ、行こう。

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