途中の街


 フードをしっかり被って、ミレーユさんと一緒に街を出る。ミレーユさんはやっぱり魔女として有名みたいで、街に入る列の人たちから見られていた。

 いや、ミレーユさんだけじゃなくて、私についても話してるみたい。灼炎の魔女の隣にいるのは誰だろう、みたいな声が聞こえてくる。


「皆さんあなたのことが気になるようですわよ? 隠遁の魔女様」

「なんでわざわざ言うの?」


 周囲の視線がなんだか強くなった気がする。こう、圧というか、そういうのが。ミレーユさんに向いていた視線も全て私の方に向けられてる。そんなに気になるのかな。


『隠遁の魔女って噂だけが一人歩きしてそうだからなあ』

『精霊の森の調査をやってるし、ドラゴンステーキも討伐してるし、実績だけならすごいのでは』

『顔を一切見せない、というのも大きいかも』

『ドラゴンステーキの討伐が特にでかいよな!』

『ドラゴンさんをステーキ呼ばわりするのはやめてさしげろw』


 そういうもの、なのかな。やっぱりフードは大事だね。

 アイテムボックスから箒を取り出して、浮かせてから乗る。その様子にミレーユさんは意味が分からないといったような視線を向けてくる。


「なに?」

「いえ……。以前から気になっていましたけれど、リタさんはどうして箒に乗っているのですか?」

「ん。師匠にそう教わったから」


 おお、ミレーユさんがすごい表情をしてる。いろいろと言いたいのを我慢してるのはよく分かる。その気持ちはちょっとだけ分かるけど、慣れればこれも楽しいよ。


「ちなみに、その、お師匠様からは何と……?」

「様式美」

「ようしきび」


 うん。これは理解を諦めた顔だ。どこか遠くを見るような目をしてる。


「きっと……わたくしには理解できない意図があるのでしょうね……」

「断言するけど絶対ないよ」

「…………」


『やめたげてよぉ!』

『ミレーユさんの! 賢者様像が! 崩れる!』

『あいつの素を知ってたら、たまに聞くあいつの評価はだいたい過大評価だからなw』


 もちろんすごいことをやってる時もあるけどね。

 ミレーユさんはこの話を聞かなかったことにするみたいで、こほんと咳払いをした。


「それでは、隠遁の魔女様。お気をつけて」

「ん。ミレーユさんも」


 箒に乗って、ふわりと浮かび上がる。こちらに向かって手を振るミレーユさんに手を振り返して、目的地に向けて飛び始めた。




 誰の視線もなくなったことを確認してから、魔法学園がある街の上空まで転移。そこからまた街道に沿って飛び始める。どうせだからミトさんの様子を見ようかなと思ったけど、邪魔をするのも悪いかなと思うからまた今度。


『ミトちゃん元気にしてるかなあ』

『俺はエリーゼちゃんが気になる』

『ドラゴンでトラウマになってないだろうか』


 あの三人なら大丈夫だと思う。多分だけどね。

 のんびりと飛んでいくと、小さな集落みたいなものが見えてきた。街というほどの規模ではないけど、少なくない人が暮らしているのが分かる程度の集落。ミレーユさんから聞いてるから立ち寄るつもりはないけど、思っていたよりも大きい集落だね。


 出発前にミレーユさんから聞いたけど、魔法学園から先はこんな集落が街道沿いに点在してるらしい。たまに集落にはなってなくて、大きい家が少しあるだけだったりするらしいけど。

 これが何の場所かと言えば、街から街に移動する時に泊まる場所らしい。大きい街道沿いならだいたいはあるんだって。


『つまりは宿場町みたいなもんか』

『まあ人通りが期待できるなら、こういう場所もあるだろうね』

『ここは行かないの?』


「ん。行かない。ギルドもないらしいし」


 ギルドを基準にするつもりはないけど、どうせだから何か依頼を受けるのもいいかなと思うから。その街らしい依頼があるかもしれないし。

 集落を二つ通り過ぎて、お昼前。ミレーユさんが話してくれていた街が見えてきた。魔法学園がある街ほどではないけど、それでもたくさんのお家がある街だ。

 小さいながらも街を囲む壁があって、門もちゃんとあった。兵士さんも立ってるから、ちゃんと門は通った方がいいかもしれない。後で何か言われたくないし。


 この街は入る人で並んでる、というようなこともないみたい。すぐに対応してもらえそうだね。

 私が兵士さんの前に降り立つと、兵士さんは口をあんぐりと開いて固まっていた。

 兵士さんは一人だけ。しかもこの兵士さんは若そうに見える。二十代前半か、それぐらいかな。私が彼の前に立つと、はっと我に返ったみたいで姿勢を正した。


「失礼致しました。高名な魔女殿とお見受けしますが、ギルドカードを確認させていただいてよろしいでしょうか」

「ん」


 アイテムボックスから取り出して、渡してあげる。今回はちゃんとフードを被ってるから、Sランクのカードだ。兵士さんは短く息をのんで、とても丁寧にカードを受け取ってくれた。


「少々お待ちください」


 そう言って、門の側にある小さな家、みたいな場所に入っていく。兵士さんが待機する場所かな。かすかに話し声が聞こえてきてたけど、それはだんだんと大きな声になってきた。


「馬鹿野郎! このギルドカードが本物ならSランクの冒険者だぞ! 魔女だ魔女! 外で待たせるやつがあるか!」

「ぎ、偽造の可能性とか……」

「空を飛ぶような魔法使いならわざわざ偽造する必要なんてないだろうが!」


 空を飛ぶ魔法はここでも便利だね。


『一定の実力の証明って感じだなやっぱ』

『えっと。なんだっけ。お師匠さん曰く空を飛ぶ魔法は基礎中の基礎、だっけ』

『(精霊の森の基準で)基礎』

『あんな魔境の基準が世界基準なわけないだろうがいい加減にしろ!』


 私のお家がある森をめちゃくちゃ言い過ぎじゃないかな。いや、うん。最近は特に否定できないと思うようになってきたけど。

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