天ぷらうどん

 それはともかく。次は王都だ。精霊様をじっと見つめると、すぐに落ち着いて話をしてくれた。


「魔法学園の街がある国ですね。他の精霊から報告は何度か受けていますが、あの国は長く安定している国だそうです。リタも気に入るかもしれませんね」

「ふうん……。美味しいもの、あるかな?」

「きっと」


 美味しいものがあったら、それだけでも私は満足できる。日本ほどの料理は高望みかもしれないけど、美味しいものがあると嬉しい。

 私がそんなことを考えていると、精霊様が言った。


「ところでリタ。先ほどの話からすると、今回は守護者ということを最初から伝えるのですね」

「ん……?」

「え?」


 そうなるのかな。えっと……。あ、そっか。守護者として向かえば敬語とかは気にしなくていいっていうことだったよね。隠して行くとなると、敬語とかちゃんとしないといけない。

 えっと……。んー……。どうしよう……。


『ていうか、マジで気付いてなかったんか』

『てっきりもう気にしないのかと思ったのに』

『てかリタちゃんなんで隠してるの? 別に言っちゃってもよくない? その方が早いと思うけど』


 それは、うん。そうだね。ミレーユさんたちの反応から、守護者というのを出すだけでみんないろいろ教えてくれそうだとは思う。その方が確かに手っ取り早い。

 でも、それはなんだか嫌だ。

 思い出してしまうのは、ギルドマスターのセリスさん。ミレーユさんから私のことを報告された後に会った時、セリスさんは私に対して怯えか恐怖を感じていた。私が魔力の流れを止めるかも、なんて思っていたみたいだったから。

 だから、必要以上に隠すつもりはないけど、かといって自分から名乗るのは嫌かな。


「それに、王様だとセリスさん以上に反応しそう」


『それはそう』

『なにせ一国の責任者だからな』

『お腹がきりきりしそうだなあw』

『胃腸薬買ってく?w』


 それはもう煽りみたいなものだと思うよ。

 師匠もそれを知ってたのか、賢者なんて呼ばれていても守護者というのは言わなかったみたいだしね。ミレーユさんが驚いていたぐらいだから。だから私も、同じようにしようかと思う。

 そう精霊様に言うと、そうですかと納得したように頷いた。


「ですがリタ。必要だと思ったら遠慮なく使ってください。私たち精霊は有象無象の人間よりあなたの方が大事ですから」

「いや怖いよ? 怖すぎて嬉しくないよそれ」

「え……?」


『それで喜ぶのはよっぽどのサイコパスですよ精霊様』

『さすが精霊様、思い出したように天然要素を入れてくる』

『さすがのあざとさだぜ!』


「ひどくないですか!?」


 今のは精霊様が悪いと思うよ。私も自分の身の安全を第一にするつもりだけど、そんな容赦なく他の人全てを切り捨てられないからね。

 でも……。


『言いながらリタちゃんはちょっと嬉しそうだけどな』

『まさにこの親にしてこの子あり』


「ん……」


 まあ、うん……。大事だと思ってもらえていると、やっぱり嬉しいかなって。


「あ、精霊様。もうちょっとだけ、いい?」

「はい。大丈夫ですよ」

「おうどん、食べよう?」


『おうどん? 今から買いに行くの?』

『ばっかお前、お持ち帰りしてたうどんがあっただろうが』

『天ぷらうどんやな!』


 そう。精霊様と一緒に食べるためのお楽しみ。でも正直なところ、竜カツカレーの衝撃ですっかり忘れてしまっていたもの。

 アイテムボックスから天ぷらうどんを取り出すと、精霊様の視線がおうどんに釘付けになった。


「それがおうどんというものですか」

「ん」

「いただきましょう」


 魔法で木の枝を軽く削ってお箸にして、二人で食べる。天ぷらはいろいろとあるみたいだけど、とりあえず半分こ。風の魔法ですぱっとね。

 おうどんは以前食べたから、とりあえず天ぷらから食べてみる。細長いえび天というものから。ぱくりと食べると、さくさくととても楽しい食感だった。あと、ちょっと熱い。


「んー……。さくさくしてる。ざくざく?」

「いい音ですね……。私も同じものをいただきましょう」

「ん」


『あー! あー! あー! ぶっちゃけ他のうどんの時より食べたくなるんだけど!』

『ざくざくって音が! いいなあ! 天ぷら食いたいなあ!』

『ばっかお前! 俺らには文明の利器があるだろうが!』

『出前ですね! 分かるとも!』


 視聴者さんにとってはこの天ぷらの音が美味しそうに感じるらしい。でも確かに、美味しいのも当然だけど、音が楽しいって思ったのは初めてかもしれない。

 精霊様はおうどんも食べていたけど、これも満足そうだった。美味しそうに食べてる。


『ちなみに衣に味がしっかり染みこんだやつも美味しいよ』

『ざくざく食感じゃなくなるけど、それはそれでまた格別』


 そうなんだ。じゃあ、この大きいかき揚げというのでやってみよう。

 かき揚げを沈めて、精霊様と他の具材を食べる。とり天も美味しいし、おうどんも安定してる。すごく美味しい。


「これは素晴らしいですね……。この世界の人々ももう少し頑張ってほしいものです」

「ん。でもこの世界の宿で食べた料理も美味しかったよ」


 日本と比べるとやっぱりちょっと微妙かなとは思うけどね。

 おうどんを食べ終わって、最後に残していたかき揚げを食べる。さくさくじゃなくなったけど、本当に美味しいのかな。

 これも精霊様と半分こにして、口に入れた。


「おー……」


 確かにさくさくの食感はない。でも、お出汁っていうのかな? しっかりしみこんでいて、噛むとじゅわっとあふれ出てくる。この食べ方も美味しい。


『あー! いけませんいけません! あー!』

『落ち着けwww』

『俺両方好きだから、カップうどん食べる時は半分はさっさと食べて残り半分はしっかりしみこませてる』

『わかるw』


 さくさくも美味しいから、両方食べたくなるね。私もまた食べる時はそうしようかな。


「とても美味でした。ありがとうございます、リタ」

「ん。また持ってくる」

「ふふ。楽しみにしていますね」


 ん。また美味しいものを見つけたら、一緒に食べたいね。

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