異世界風丸焼き料理


 ミレーユさんが来客用に使ってる部屋に入って、改めてご飯。さすがに五人用のテーブルはないから、アイテムボックスから取り出そう。魔法の練習で作ったやつがアイテムボックスに入れっぱなしになってたはず……。


「あった」


 アイテムボックスから大きめのテーブルを取り出すと、フランクさんたちがぎょっと目を剥いた。


「リタちゃん、アイテムボックスにそんなもん入れてるのか……?」

「すごい子だとは思っていたけど、そんなに入るとは思わなかったわ……」

「ん。いっぱい入る」


 魔法学園よりも大きいよ。間違いなく。

 テーブルの上に料理を置く。ミレーユさんが真っ先に近づいてその料理を観察して、ほう、とため息をついた。


「見事なものですわね。汚れが落とされていますわ。アイテムボックスに入れる時に汚れになるものは除外したのですわね」

「ん」

「さすがですわね。わたくしでも苦労しますわよ」

「いや普通はできないから!」


 パールさんが頭を抱えてるけど、そんなに難しいことじゃない。慣れれば簡単だよ。

 大きいナイフや取り皿も置いてから、改めて料理を食べることになった。

 ナイフでお肉を切り分ける。当たり前だけどドラゴンステーキとは違って、ちょっと固い。それでもまだちゃんと切れる程度ではある。しっかりと切って、お皿に移してと……。そうしてから、お肉を口に入れた。


 んー……。しっかりと焼かれていて、とても香ばしい。でもお肉の味しかしないというわけでもなくて、香草の香りがほどよいアクセントになってる。中に入っていたお野菜の味もお肉に染みていて、焼いただけのお肉とは明確に違う味だ。

 あとちょっと意外だったけど、切り分ける時は固かったけど、固いのは表面だけだったみたい。中は結構柔らかかった。表面はぱりぱりとした食感でちょっと楽しい。

 うん。うん。美味しい。回収してきてよかった。


『ドラゴンステーキも美味そうだったけど、こっちもなかなか……』

『作ろうと思ったら、豚の丸焼きが近いのか……?』

『ちょっと手が届かないなあ……』


 やっぱり高いのかな。これもすごく高いらしいし。


「いや美味いなこれ。すげえ」

「とても美味しい。本当にありがとう、ミレーユさん」

「いえいえ。わたくしも美味しい料理は皆と共有した方が楽しいですもの」


 その気持ちはちょっと分かる。一人で食べるより、みんなで食べた方が楽しいしね。

 五人で綺麗に食べ終わって、骨とか食べられないものは私のアイテムボックスに入れておいた。あとで適当に処理しよう。


「いや、美味かった。あんな料理もあるんだなあ」

「もう少し食べ物にお金をかけたくなるね」

「以前からそうしようって言ってるじゃない……」


 フランクさんたちはご飯にあまりお金を使わないみたい。フランクさんは二つ名持ちの冒険者さんだし、お金はかなり稼いでると思うんだけど、違うのかな。

 不思議に思っていると、ミレーユさんが先に教えてくれた。


「いい冒険者というものは、自分に合った武器を使うものですわ。当然ながら低ランクの冒険者の武器よりも高いものがほとんどですし、手入れにも相応の金銭がかかります。おそらく多くの人が想像しているほど稼げることなんてありませんわ」

「そうだぜリタちゃん。報酬から装備、消耗品、そういったものの金額を引けば、残るものはそこまで多くないのさ。冒険者はいつでも金欠だよ」

「ん……。そうなんだ」


 特にフランクさんたちみたいに前に出て戦う人だと、剣の整備とかでも高そうだ。苦労しているのかも。

 そう思ってたけど、パールさんが苦笑いしながら言った。


「誤解しないでね、リタちゃん。実際にはお金には余裕があるの。フランクの意向で、貯蓄しているだけ」

「そうなの?」

「そうだよ。僕たちは仕事柄、いつ大怪我して動けなくなるか分からないからね。稼げる間にしっかり貯めておこうってわけさ」


 そう言ったのは、ケイネスさんだ。フランクさんが苦笑いしながら頷いてるから、それが本当のことらしい。

 ミレーユさんへと振り返れば、さっと視線を逸らされた。今回はミレーユさんの感覚がおかしいってことかな。宿を貸し切ったりしていることを考えると、あまり貯めることは考えてなさそうだし。

 その後も軽くお話をして、フランクさんたちは帰っていった。明日はまた依頼で街を離れるらしいから、しばらくは会えなさそうだ。フランクさんたちは話しやすいから、ちょっと残念。


「ミレーユさん、私も帰るね」

「わかりましたわ。明日、またこちらに来てください」

「ん」


 紹介状をもらわないといけないからね。忘れずに来るようにしよう。




 森に帰った後は、お家に入る前に世界樹の前に来た。報告と、あとは王都に行くことを精霊様に伝えるために。


「精霊様」


 私が呼ぶと、精霊様はいつも通りすぐに出てきてくれた。


『精霊様だー!』

『精霊様お美しい!』

『崇めなければ!』


 精霊様はそんなコメントが並ぶ黒板をちらりと一瞥して、内容を見たのか何とも言えない曖昧な笑顔になった。怒っていいのか照れていいのか分からない、そんな顔だと思う。

 精霊様は咳払いをすると、改めて私に向き直った。


「おかえりなさい、リタ。どうかしましたか?」

「ん。報告」


 ミレーユさんから聞いた話を話して、明日から王都に行くことを伝える。全部話し終えた時には、精霊様は何に驚いたのか目を丸くしていた。


「リタが……ついに王都まで……! あの引きこもりのリタが……!」

「…………」


『まあ今はともかく、以前は引きこもりだったからw』

『以前も言われてるんだからショック受けなくても』

『精霊様も分かってて言ってそうw』


 結構お外に出るようになってると思うんだけどね。

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