竜カツカレー
それじゃあ、そろそろいい時間だし、真美の家に転移しよう。
いつものように転移魔法で真美の家に移動。リビングでは、ちいちゃんがむむむと唸っていた。魔法の練習中らしい。
んー……。ちいちゃんは、まだまだ先が長そうだ。魔法が存在しなかった世界だし、気長にやるしかない。
「おかえり、リタちゃん」
真美が顔を出してそう言った。配信しながらだったから、すぐに気付いたみたい。
「ん。もうすぐ?」
「もうすぐ。もうちょっとだけ待ってね」
「ん」
いよいよ竜カツカレーだ。とても、とっても楽しみ。
テーブルで少し待つと、真美が戻ってきた。真美の手にはカレーライスが盛られたお皿。ただ、香りがいつもと違う。カレーライスの香りはもちろんあるけど、別の美味しそうな匂いの方が強いかもしれない。
ちいちゃんも気付いたみたいで、はっと顔を上げた。私と目が合って、ぱっと顔を輝かせる。ちいちゃんはいつも通りかわいい。
「順調?」
短くそう聞くと、ちいちゃんは顔を曇らせてふるふると首を振った。そうだろうな、とは思う。そう簡単にいくはずもないことは分かってる。
「大丈夫。ゆっくりね」
「うん……」
撫でてあげると、ちいちゃんは笑顔で頷いてくれた。
さて、改めてご飯だ。私の前には切られたカツが載せられたカレーライス。お肉の方はまだ少し赤いけど、生でも食べられるぐらいだから大丈夫だと思う。
ただ、多分この強い匂いは竜カツ由来のものだと思う。不愉快な匂いじゃないけど、カレーライスの香りよりも強いのはなかなか人を選びそう。
「それじゃ、食べよっか」
「ん。いただきます」
「いただきます」
みんなで手を合わせてそう言って、早速竜カツを口に入れた。
すでに切られた後なのに、それでも噛むと肉汁があふれてくる。ソースもないのにお肉の旨みだけで十分美味しい。むしろソースは邪魔になるかも。
うん。うん。…………。うん。
『おや?』
『竜カツ食べてる時は美味しそうなのに、なんか微妙な表情』
『美味しいんだよな?』
「ん。すごく美味しい。すごく美味しいけど……」
これ、カレーライスで食べるものじゃないと思う。試しにカレーと一緒に食べてみたけど、予想通り、竜カツの味が強すぎる。カレーの味があまり感じられないほどに。
真美を見てみると、苦笑いしながら頷いた。
「ちなみに、肉汁もすごく強い味があってね……。肉汁だけでもカレーを感じにくくなるよ。正直、カレーライスにしたのは失敗だったかも」
「竜カツとご飯で食べれば良かったかも」
「あはは。そうだね」
不味いわけではないけど、失敗だったね、これは。
『カレーって万能だと思ってたけど、さすがにダメだったか』
『でもそれなら、ドラゴンステーキとかなら美味しそう』
『次はそっちやろうぜ!』
そうだね。次はステーキにしてほしい。真美を見ると、笑顔で頷いてくれた。
デザートにアイスクリームをもらってから、森のお家に転移した。お家の窓からは少しだけ明かりが漏れてる。カリちゃんが今も本を読んでるのかも。
お家に入る前に、私はちょっとだけやることがある。
「配信を終わる前に、もうちょっとだけ」
『お?』
『おやすみー、と書こうと思ったのに』
『なになに?』
「ん。お菓子、ほしい」
『おおおおお!』
『久しぶりの投げ菓子だ!』
お菓子はたくさんあったけど、研究中にカリちゃんと一緒に全部食べちゃったから、そろそろ補充しないといけない。ただ、この前みたいに無制限で受け入れるとまたすごい量になってしまうと思う。
だから、今回はちょっと制限をかけることにした。お菓子を投げてくれる人には申し訳なく思っちゃうけど、あのお菓子の山はさすがに怖いから。
「魔法陣に置いてくれてるお菓子から百個、適当に選ばれて回収されるようにしてもらった。だから、回収されなくても怒らないでほしい」
『りょ!』
『まあしゃーない』
『家より大きいお菓子の山はさすがになw』
さすがにもう、あの光景は見たくない。
短く合図をして、杖で地面を叩く。するとすぐに、目の前にお菓子の山ができた。今回は大きな山じゃなくて、私の身長にも届かない小さな山だ。けれど、それでもたくさんのお菓子をもらえた。本当に嬉しい。
「ん。お菓子、ありがとう。カリちゃんと食べる」
『いえいえ』
『いっぱい食べてね! いつでも送るから!』
『むしろ送らせろ!』
「んー……。頻度は多分、増えるよ」
カリちゃんもたくさん食べるだろうから。
配信を切ってお家に入ると、やっぱりカリちゃんは本を読んでいた。テーブルの上に本を広げて、小さな光球を浮かばせて本を読んでる。じっくり読んでるみたいで、なかなかめくらない。読みにくいだけかもしれないけど。
カリちゃん、と呼ぶとすぐに顔を上げてくれた。
「リタちゃんおかえりですよー。どうでしたー?」
「楽しかった。お菓子、食べる?」
「もちろんですー」
さっきもらったお菓子の山を床に置くと、カリちゃんはすぐにお菓子を食べ始めた。選ぶことはせずに、手に取ったものから順番に食べてる。私も食べよう。
「もぐもぐ……。これはなかなか、酸っぱいけどおいしいですー。日本はすごいですねー」
「ん。ところでカリちゃん。どうだった?」
「さすがに初日から見つかりませんよー」
まあ、そうだよね。さすがにそんなにすぐに師匠が見つかるとは思ってない。それでも、ちょっとだけ期待してしまうけど。ちょっとだけ、ね。
「生命のいる惑星は少し見つかりますけど、それだけですねー」
「そっか……。今後もよろしく」
「はーい、よろしくされましたー」
にっこり頷くカリちゃん。本当に、カリちゃんにはとても助けられてる。いつか、お返しができたらいいんだけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます