スマホの宇宙進出
「んー……。他のも気になる……」
おうどん、たくさん種類あるみたいだけど、どうしようかな。お持ち帰り、だっけ。それもやってるなら欲しいけど……。
「お持ち帰りってできる?」
近くの店員さんに聞くと、言葉に詰まって困ったように眉尻を下げた。やってないってことだね。
「ん……。残念」
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
慌てたように奥に小走りで去ってしまった。ちょっと無茶なことを言ってしまったかも。あとで謝らないと……。
そう思っていたら、カウンターの奥から中年ぐらいのおじさんが出てきた。私を見て、少し驚いたように目を丸くしてる。でもすぐににこやかな笑顔になった。
「リタちゃんだね。うどんを持ち帰りたいとか」
「ん。でも、やってないなら無理を言うつもりは……」
「そうだな。本来ならやってないけど……。でもせっかく来てくれたんだ。一杯ぐらいなら、器ごと持ち帰ってくれて構わないよ」
内緒だぞ、とウインクというものをしてくれる。でも、その……。
「配信中だから内緒になってない……」
「…………。内緒だぞ!」
「あ、うん」
『草』
『いい店主さんだなあw』
『俺らは何も聞いていないし、この後に見るものもちょっと覚えられる気がしないな!』
みんなで内緒、だね。
「それで? ご注文は?」
「んー……。オススメは?」
「あー……。肉うどんとざるうどんを食べたんだよな……。それなら、天ぷらうどんかな」
「じゃあ、それで」
「あいよ。ちょっと待っててくれよ」
おじさんが中に戻っていく。私はアイテムボックスを開けておこう。ここに入れておけば、なかなか劣化しないから。暇な日のお昼ご飯にしようかな。楽しみ。
待つこと数分。さっきのおじさんが天ぷらうどんを持ってきてくれた。肉うどんに似てるけど、お肉の代わりに違うものがたくさん載ってる。これが天ぷらなのかな。
「ちょっとサービスだ。とり天にえび天、そしてかき揚げ。アイテムボックス、というものの仕組みは一応理解してるつもりだけど、早めに食べてくれよ」
「ん。ありがとう」
おうどんの器ごと、アイテムボックスに入れる。正直、今すぐ食べたくなっちゃうけど……。我慢。お楽しみにするから。
「ありがとう。ここのおうどん、とても美味しかった」
「こちらこそ、ここを選んでくれてありがとうよ。気をつけてな」
「ん」
スマホの電子マネーでお支払いをして、お店を出る。いいお店だった。
「まだちょっと早いけど……。あ」
そういえば、首相さんから連絡が来てたはず。スマホを起動させて、えっと……。こう、だっけ。こう……。
『もたもた』
『電子マネーには慣れたのに操作は慣れないなw』
『電子マネーはかざすだけだからw』
自分でも研究前よりひどくなってる気がする。
スマホのメッセージを呼び出して、首相さんからの連絡を確認する。結構前、私が研究中の時に送られていたメッセージみたい。また話をしたい、というものだったけど……。返信、遅すぎるかな。とりあえず、いつ、どこがいいかを送信しておこう。
「ああ、そうだ。電波を森まで届くようにするのを忘れてた」
『そんなこと言ってたなあ』
『また研究かな?』
『リタちゃん、晩ご飯忘れないでね?』
それは大丈夫。竜カツカレーは私も楽しみにしてるから。生でもあれだけ美味しかったんだし、カツならもっと美味しいはず。
でもその前に。やっぱり電波はどうにかしたい。
「んー……。よし。ちょっと研究してくる」
『マジでやるのかw』
『がんばれー』
『どれだけかかるかな』
森に戻って亜空間に入って研究して。魔法を形にして精霊様に確認してもらった時には、おうどんを食べてから一時間が経っていた。配信魔法を真似して作ればすぐかなと思っていたけど、結構時間がかかってしまった。
晩ご飯はまだ大丈夫、だよね。それを楽しみにしながら頑張ったから。
電波の魔法陣はもらったスマホの裏に刻み込んだ。壊れないかちょっと心配だったけど、問題なさそう。魔法陣に魔力を流すと、すぐにスマホのアンテナって言うのかな、それが立った。
この魔法陣、仕組みは配信魔法の簡易版と言えるものだ。配信魔法から映像も声も全て削除して、電波のみをやり取りする、そんな感じだね。ただ、さすがに常に電波を送受信することはできなくて、私が魔力を流している間のみになってしまった。
こればかりは仕方ない。かなり無茶なことをしようとしていたのは自覚してるから。
とりあえず、試しに真美にメールを送ってみよう。えっと……。ここを、こうして……。お、う、ち、か、ら……。送信。
少し待つと、すぐに返信があった。
『もしかしてもう完成したの!?』
驚いてるみたい。ちょっとだけ嬉しいかも。あとは配信で、だね。それじゃあ、いつも通りに配信開始、と。
「ただいま」
『おかえりゃー!』
『わりと早い気がする。行き詰まった?』
「んーん。完成した。試しに真美にもメール送ったよ」
『ちゃんと届いたし返信もした!』
『おおおおお!』
『すげえええ!』
『ついにスマホが宇宙に進出かあ……! 胸熱やな!』
これで真美といつでも連絡が取れる。予定も聞きやすくなるからちょうどいい。
首相さんからの返信も届いてる。えっと……。明日のお昼、東京のいつものホテル。渡したいものがある、だって。
たまにお守りの依頼は受けてるけど、それとは違うみたい。なんだろう。
「まあ、いっか。とりあえず明日も日本で」
『やったー!』
『安価は!? 安価はやりますか!?』
『連続安価!』
「安価はしない」
もう行く場所は決まってるから。晩ご飯をどうするか、ぐらいだ。
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