イルカとの触れ合い


 転移した先は砂浜だった。わりといい場所に転移した気がする。目の前には海がある。


「海の水ってしょっぱいんだっけ」


『しょっぱいというか、塩辛いというか』

『なめれば分かる!』


「ん……。うわあ……」


『本当になめるのかw』


 一度は試してみたいと思ったから。でも、本当に水にこんな味がついてるんだね。海は不思議だ。私の世界の海も同じようなものになってるのかな。


『そういえば、リタちゃんの世界で海はまだ見てないな』

『よくよく考えたら日本でも初めてなのでは?』

『初めての海が日本で良かったのかな……w』


 森の周辺に海はないから、別にいい。でもいずれは、私の世界の海も見てみたいと思う。

 指先の海水を払って振り返ると、何人かが私を見て驚いていた。いつものやつなので気にしないでおく。周囲を確認すると、三階建てかな、建物があった。

 ちょっと不思議な形状の建物だ。岩の上に建ってるのかな。それとも、そういう風に見えるようにしたのかな。

 ともかく、気にせずに建物に向かうと、外に受付があるみたいだった。受付にいる人も私を見て目を丸くしてる。


「入りたい。大丈夫?」

「あ、はい……! 入場ですね! 入場料は……」

「ん。電子マネー? それで」

「では、こちらにかざしてください」


 ん、と頷いて、アイテムボックスからスマホを取り出す。アイテムボックスはやっぱり目立つみたいで、周囲がちょっと騒がしくなってる。

 受付の人の指示に従って、小さな機械にスマホをかざす。するとスマホから小さな軽い音が聞こえてきた。お金を落としたような音だ。これが支払い完了の合図らしい。

 すごい。本当に、お金のやり取りをせずに終わってしまった。日本すごい。


「あの……。リタさん、ですよね?」

「ん。讃岐うどんを食べにきた。そのついでに、友達にイルカのぬいぐるみを頼まれた」

「なるほど……! では少しお待ちください!」


 なんだろう? でも悪意は感じられないから、おとなしく待ってみよう。

 受付の人は小走りで建物に入っていって、そしてさほど待つこともなくもう一人、女の人も連れてきた。おそろいの服を着てる。制服なのかな。

 連れてこられた人は私を見て驚いてるみたいだったけど、すぐに嬉しそうに破顔した。


「ようこそ! 私はトレーナーの相沢といいます。トレーナーと呼んでいただければ大丈夫です」

「ん。トレーナーさん。私はリタ。イルカのぬいぐるみが欲しい」

「はい。でもせっかくなので、どうでしょう? イルカと触れ合ってみませんか?」


 イルカと触れ合う……。何するのかな。大きいお魚というのは分かるけど、それしか分からない。他のお魚より賢いのは知ってるけど。


「イルカってお魚だよね? 何するの?」


 トレーナーさんに聞いてみると、何故か苦笑いされてしまった。


「イルカは哺乳類なので、魚とは違いますよ」

「え」


 そうなの? 光球へと振り返って黒板を確認すると、


『そうだぞ』

『でもそうだよな、見た目しか知らないんだもんな』

『勘違いしてもしゃーない』


 みんな知ってることだったみたい。大きいお魚だな、なんて思ってしまってた。もしかして、他の動物や魚にも似たようなものがあったりするのかな。調べてみたい。


「今ならイルカの餌やりを体験していただけますよ」

「餌やり……ごはん……」


『リタちゃん間違ってもイルカは食べちゃだめだぞ』

『当たり前だけどイルカのエサも食べちゃだめだぞ』


「食べないよ」


 私をなんだと思ってるのかな。お腹はちょっと減ってるけど、今はおうどんが楽しみだから我慢できる。早くおうどん食べたい。

 でも、イルカという生き物にも興味がある。かわいいらしいし、見てみたいかも。


「見てみたい」

「ふふ。では、こちらにどうぞ」


 トレーナーさんに案内されて、建物の横を通って海の上へ。道が作られていて、その周辺を大きな魚が泳いでいた。魚じゃないらしいけど。


「これがイルカたちのエサになります」


 そう言ってトレーナーさんが渡してくれたバケツには、小魚がたくさん入っていた。これを投げたらいいのかな?

 トレーナーさんと一緒に道の先へ。するとイルカが二匹ほど近づいてきた。ひょこりと顔を出して、きゅるる、と高い音を出してる。鳴き声なのかな。かわいい。

 小魚をイルカの方に投げてあげると、ぱくりと食べた。そのまままた口を開けてる。


「撫でることもできますよ」

「ん……」


 顔を出してくれてるイルカを撫でてみる。ちょっと硬いけど、つるつるしてる。似たような感触のお野菜があった気がするけど、なんだっけ。

 きゅるる、とまた鳴いたからお魚をあげて、また撫でる。んー……。かわいい。


『リタちゃんずっと撫でてるw』

『イルカ気に入ったのかな』

『かわいいがかわいいを撫でててすごくかわいい』


 犬や猫とはまた違うかわいさだ。甘えてくれるのがすごくいい。人にすごく懐いてるからこそ、だとは思うけど。


「ちなみに、こんなこともできますよ」


 トレーナーさんがそう言って腕を上げると、もう一匹のイルカがジャンプした。続いて、私が撫でていたイルカもジャンプ。そうして戻ってきたイルカたちにトレーナーさんがエサをあげてる。

 お魚じゃない、とは聞いたけど、でも見た目はお魚だ。それなのにあんなに大きくジャンプできるなんてすごいと思う。イルカ、すごい。いいものを見れた。


「ん。ありがとう。楽しかった」


 最後のエサをあげてもう一度撫でてから、そうトレーナーさんに伝えた。


「いえいえ。お付き合いいただいてありがとうございます。せっかくですから、イルカの魅力を伝えたくて……」

「ん。かわいかった」

「そうでしょうそうでしょう! いやあ、嬉しいですね!」


 この人はイルカのことがすごく好きなんだね。この人にとっては家族みたいなものなのかも。長く一緒にいるんだろうし。


「君たちもありがとう。またね」


 そう言ってからもう一度撫でると、またかわいく鳴いてくれた。本当に賢い。また機会があれば、遊びに来たいかも。

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