ドラゴンのお肉

「えっと……。さんやま? し? うどん……?」


『草』

『ちょっとログ見てくる』

『さぬきうどん、じゃないかな』

『地名じゃねえw ちな香川県な』


 香川県だね。スマホを取り出して、地図を開く。検索するとすぐに出てきた。以前行ったことがある大阪の側だね。四国、という地方の一つらしい。


「讃岐うどんはどこで食べられるの?」


『どこでも』

『香川に行けば苦労せずに見つけられると思うよ』

『ちょっとオススメ考える』


「ん。よろしく」


 どこでも食べられるってすごい。それだけ讃岐うどんが愛されてるってことかな。

 待っている間は暇だから、ちょっと真美の家に行こう。預けたいものもあるし。


「真美。ちょっと今から行く。預けたいお肉があるから」


『はーい』

『預けたいお肉……?』

『あっ(察し)』


 覚えてる人もいるみたいだね。私も、食べてみたかったのをずっと我慢してたから。

 真美の家、リビングに転移すると、ちいちゃんがお昼寝をしていた。机に突っ伏してくうくうと整った寝息を立ててる。かわいい。

 起こさないように台所に行くと、真美が待ってくれていた。


「いらっしゃい、リタちゃん。久しぶりだね」

「ん。本当に久しぶり」

「あはは……。絶対に時間の感覚が違うよね……」


『真美ちゃんは俺らと同じ一週間ぐらいだろうけど、リタちゃんは数十年だからな』

『この子ほんと実年齢いくつなんだろうなw』

『それなのに精神面が成長しないのは、その、なんだ……。うん』


 ケンカを売られた気がするのは気のせいかな。言いたいことは分かるから別にいいけど。

 精神面の方はハイエルフだからとしか言えない。あとはまあ、守護者になった時にいろいろと。


「真美。これ、調理してみて」


 アイテムボックスから正方形に切り取られたお肉を渡す。ずっしりとした重さがあるほどの大きさだけど、余った分は適当に食べてほしい。


「これ、何のお肉?」

「ドラゴン」

「ドラゴ……、ああ……」


『エリーゼちゃんたちを助けた時のやつか!』

『そういえば回収してたなw』

『でもこれ、調理方法分からないのでは……』


 それはそうだと思う。魔獣によっては毒とか持ってたりもするし。でも、ドラゴンのお肉については大丈夫だ。


「魔法で処理済み。毒はない。あと精霊様に聞いたけど、牛や豚みたいに使っても問題ないって。生でも食べられるよ」

「生でも……」


『ははーん。つまり馬刺しみたいなこともできるってことやな?』

『なにそれめちゃくちゃ羨ましい』

『お肉の刺身か。今はほとんどないからなあ』


 お腹が痛くなるんだっけ。その辺りはよく分からないけど。

 真美はまな板と包丁を取り出すと、さっとドラゴンのお肉を薄く切り取った。とりあえず二枚ほど。私と真美で一枚ずつみたいで、渡してくれた。

 見た目は悪くないかな。うん。とりあえず食べてみる。


「んー……。うん。美味しい。ワイバーンより弱いけどワイバーンより美味しい」


『それ絶対ドラゴンにとって嬉しくないwww』

『強さはワイバーン以下なのに味は上って、乱獲される未来しかねえw』


「いや、しないよ」


 そもそもワイバーンだってそんなに頻繁に狩るわけじゃない。一匹狩ったらしばらくお肉に困らないし、地上にいる私を襲ってくることも、ほとんどないから。


「真美はどう? 美味しい?」

「うん……。すごいね。今まで食べたどのお肉よりも美味しい。すごく濃厚だけど、不思議とくどくない。これなら胸焼けとかもしないかも」


『なにそれめっちゃ食べてみたい!』

『こってりしてるのに胸焼けしないってすごく気になる』

『リタちゃん俺たちにもわけてくれー!』


 無茶を言わないでほしい。ドラゴンのお肉はいっぱいあるけど、さすがに視聴者さん全員に配ったら残らない。私だって真美に料理してもらったのを食べたいんだから。


「それじゃあ、今日はこのお肉をカツにするね」

「ん。楽しみにしてる」


 お肉は真美に任せて、私はお昼ご飯に行こう。それじゃあ、転移を……。


「あ、リタちゃん待って!」

「ん?」


 魔法を中断して、真美に向き直る。真美は少し言いづらそうにしていたけど、すぐに話してくれた。


「ちょっと、お使いというか……。香川に行くならお願いしたいことがあって……」

「ん!」


『おや、リタちゃんちょっと嬉しそう』

『多分普段もらってばかりだから、頼られて嬉しいのだと予想する』

『なるほどリタちゃんかわいいな!』


 やめてほしい。わりとその通りだから言わないでほしい。


「えっとね……。香川に、イルカと触れ合える施設があるんだけど」

「いるか」

「うん。その……。ぬいぐるみが欲しいなって……」


 これなんだけど、と真美がスマホで見せてくれたのは、かわいい魚のふわふわな人形。さわり心地が良さそうだ。私もちょっと触ってみたいかも。


「わかった。場所は?」

「地図に登録するね。スマホ貸してもらえる?」

「ん」


 アイテムボックスからスマホを取り出して……。なんだかすごく震えてるけど気にせず真美に渡した。すごくぶるぶるしてる。


「リタちゃん、通知いっぱい来てるけど……」

「後回し」

「ええ……」


 日本でご飯よりも優先する用事なんてないから。だからお昼ご飯を食べて、晩ご飯を食べて、それから確認する。それまでは待ってもらうよ。

 真美は、いいのかなあと苦笑いながらも、スマホを何度か操作して返してくれた。


「ん。分かった。じゃあ、行ってくる」

「うん。気をつけてね」


 手を振ってくれる真美に私も小さく振り返して、転移した。

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