学園とのお別れ


 私たちがギルドに入ると、大勢の視線が突き刺さった。視線は私の方を向いてる。フードを被ってるせいで、よく分からない人が入ってきた、みたいになってるだろうから仕方ない。

 私はまっすぐにカウンターに向かって、Sランクのカードをカウンターに置いた。


「ドラゴン、討伐してきた。確認してほしい」

「は……。は、はい! では、ドラゴンの討伐証明は角か牙となりますが、お持ちでしょうか?」

「ん」


 アイテムボックスから角と牙を一本ずつ取り出す。それをカウンターに置くと、周囲がざわざわとうるさくなった。受付さんが確認して、間違いありません、と言うとさらにうるさくなった。


「これはこれは。隠遁の魔女殿。依頼を受けずに帰ってしまわれるのかと思っておったが、まさかドラゴンを討伐するとは驚いたわい」


 奥の階段から下りてきたのはギルドマスターだ。多分、誰かが急いで報告したんだと思う。ギルドマスターはカウンターの角を手に取ると、しっかりと観察して頷いた。


「見事なものじゃ。一人で仕留めたのかの?」

「ん。強かった」

「ほう……?」


 やめてほしい。そんなじろじろ見ないでほしい。疑ってるのは分かるけど、これ以上何も言うことはない。


『強かったわりに汚れ一つないからなw』

『強かった (無傷)』

『強敵と書いてザコと読むんですね分かります』


 視聴者さん、絶対に楽しんでるよね。配信切ろうかな。

 私がちょっとだけ内心で葛藤していると、ギルドマスターさんが角をカウンターに置いた。


「ドラゴンの討伐、感謝するよ、隠遁の魔女殿。素材はどうしようかの? いらないのであれば、是非とも買い取らせてほしいところなのじゃが」

「だめ。譲る相手は決めてる」

「ほほう……。それは全て?」

「ん。食べられるところ以外は、全て」


 ギルドマスターさんとしては売ってほしいみたいだけど、ドラゴンの素材はミレーユさんに渡すって決めてある。角と牙の一本ずつぐらいならそのまま持って行っていいから、諦めてほしい。

 ギルドマスターさんとじっと見つめ合っていると、慌てたようにエリーゼさんが駆け寄ってきた。私の腕を取って、


「あ、あの! り……、隠遁の魔女様! 私は最低限でいいですから! 是非ともギルドにも売ってあげてください!」

「えー……」

「というより、あの量の鱗をいただいても使い切れませんから!」


 エリーゼさんがそこまで言うなら、仕方ないかな。私が頷くと、エリーゼさんはほっと安堵のため息をついて、ギルドマスターさんは嬉しそうに微笑んだ。

 渡す量は、食べられない素材の半分ほど。鱗とか骨とかだね。ただし目とか数が少ないものはエリーゼさんに渡すことにした。とりあえずそれで決着。相談とか面倒だから、これで終わり。

 ちなみにもちろん、ドラゴンの討伐の報酬とは他に、素材のお金ももらった。金貨いっぱい。しばらくお金には困らなさそう。


 ギルドを後にした私たちは、そのまま学園長室へ。まだどこかに行ったままかなと思ってたけど、学園長は部屋に戻ってくれていた。

 部屋に私たちが入ると、学園長は驚愕に目を見開いて、そして深く椅子に腰掛けた。大きなため息をついてる。エリーゼさんとフォリミアさんがいなくなってることに気付いて心配してたのかな。


「無事でよかった……。エリーゼ。フォリミア。怪我はないか?」

「はい、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした、学園長先生」

「隠遁の魔女様に助けていただき、無事に帰ってくることができました」

「ああ……。そうか。教えたのか?」


 最後の問いは私に向けてのものだった。素性のことだよね。


「ん。もう帰るし、最後にちゃんと伝えておこうかなって」

「そうか。それならいい」


 そう言って立ち上がると、学園長は私に深く頭を下げてきた。


「生徒二名の救出、感謝致します、隠遁の魔女殿」

「ん……。知ってる人が死んじゃうのは、嫌だから。それだけだよ」

「ふ……。そういうことにしておきましょう」


 そういうことだから変なことは考えなくていいよ。


『リタちゃんお顔真っ赤やで』

『てれてれリタちゃん』

『もじもじリタちゃん』

『かわええのう』


 本当に怒るよ……?

 とりあえず、やることはやった。と、思う。だからあとはミトさんに話を聞くだけ。

 そのはずなのに、エリーゼさんとフォリミアさんに両手を掴まれてしまった。二人を見ると、なんだかとっても素敵な笑顔だ。

 日本の本で笑顔はもともと攻撃的な表情っていうのをどこかで見た気がするけど、本当にその通りだと思う。怖いよこの二人。


「リタさん、帰るとはどういうことですか?」

「寮に、という意味ですよね?」

「森に帰る」


 短く告げると、二人は途端に泣きそうな表情になってしまった。でも、引き留めるようなことはしてこない。そうですか、と二人とも離れてしまった。


「せめて……何かお礼をさせてほしいです! 何かできることありませんか?」

「私もお力になれることがあれば」


 いきなりそう言われても困る。二人ができることで私ができないこと、だよね。何かあるかな。


『リタちゃん、どうせならミトちゃんのこと頼んでおいたら?』

『この二人と一緒ならミトさん孤立しなさそう』


 ああ、それはいいかも。それにしよう。


「ミトさんのこと、気にかけてあげてほしい。賢者が死んだ原因だって嫌がらせとかあったみたいだから」

「な……!」


 驚いたのは学園長。やっぱり気付いてなかったみたい。対してエリーゼさんとフォリミアさんの二人は知ってたみたいで、そういうことならとすぐに頷いてくれた。


「ん。よろしく。それじゃあ、ミトさん。お話をしよう」

「あ……。はい。分かりました」


 ここからが、私にとっての本題だ。師匠の最後を、ちゃんと知りたい。

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