次の目標
ミトさんに場所を聞いて転移した先は、さっきの山の近くだった。ドラゴンがいた場所は目で見えるほどに近い。今回は関係ないはずだけど。
「ここ?」
「はい。賢者様にお願いして、魔法を見てもらうために来たんです。不慣れな攻撃魔法だったので、人が少ないここで試そうと……」
ミトさんが言うには、ここで魔法を試そうとしたところ、魔獣に襲われたらしい。この岩山に生息するサンドワームという魔獣だったそうだ。
サンドワームは、精霊の森にも生息してる魔獣だね。話を聞いているとやっぱりサイズは違うみたいだけど、特性は同じみたい。だから普段は地上には出てこない魔獣のはずだけど、ミトさんの魔力に気付いて食べようとしたのかも。
「もしかして、慌てて隠れようとして隠蔽の魔法を使った?」
「はい……。あとから、通用しないと知りました……」
そうなんだよね。私や師匠みたいに完全に隠れられるならともかく、多少なりとも揺らぎのある隠蔽だとサンドワームには気付かれてしまう。
サンドワームは普段は地中にいるからか目がない魔獣で、地上の魔力を感知して食べようとしてくる。つまり魔力の流れに敏感ということ。揺らぎのある隠蔽の魔法だと、サンドワームにとっては狙ってくれと言ってるようなものだ。
ミトさんはそれを知らなくて、隠蔽の魔法で隠れられると思ってしまったらしい。そのため迎撃の用意もせず、完全に油断してしまっていた。襲われそうになって初めて気付いたみたいで、でもそれじゃあ間に合わなくて。それで助けに入ったのが、師匠。
ミトさんの視点では。師匠はサンドワームとの間に立つと、不思議な魔法を使って大きな光を放った後、サンドワーム諸共消えてしまった、ということだった。
「ん……。分かった。ありがとう。それじゃあ、学園に転移させるね」
「はい……。あの、本当にごめんなさい……。せめて、もっと早く言うべきでした」
「ん。気にしてない。本当に気にしてないから」
だからそんなに泣きそうな表情をしないでほしい。私もちょっと心苦しくなっちゃうよ。
「それじゃあ、またね。また行き詰まったら森に来て」
「はい……! ありがとうございました!」
そう言って頭を下げるミトさんを、学園長室に転移させた。
さて。
「聞いてた?」
『聞いてた』
『聞いて思った。おかしくない?』
『あいつがサンドワームと相打ちになるか? しかも精霊の森のやつより弱いんだろ?』
そうなんだよね。師匠がサンドワームと相打ちになるとは思えない。例え丸呑みにされてしまったとしても、お腹をぶった切って出てくるはずだから。私もできるし。
でも、そうなると師匠が消えた理由が分からない。ミトさんは師匠が自爆みたいな魔法を使ったと思ってるみたいだったけど、あり得ないから。使う必要性がなさすぎる。
んー……。だめだ。分からない。無駄だとは思うけど、魔力の残滓でも調べてみようかな。強い魔法なら、一年経っても何かしら残ってるかもしれないし。
もちろん師匠の魔法はとても綺麗な魔法だから、そんな痕跡が残るようなことはないと思うけど……。
「ん……?」
『おん?』
『どした?』
『なんかすっごい変な顔』
失礼だと思うけど、今はそれどころじゃない。
魔法は、超常現象を起こす技術だ。だから、使い方が下手だと何かしらの魔力の残滓が残ってしまう。普通はすぐに消えてしまうけど、禁術級の魔法を無理矢理使うと、長く影響が残る、らしい。
私も師匠もそれを残すようなことはしないから気にもしていなかったけど、ここにはほんのわずかにそれがあった。
一応それを視聴者さんにも説明したら、納得はしたみたい。
『自然現象でも影響が長く残るものもあるし、そういうもんなんかね』
『で、具体的にどんな魔法が使われたっぽい?』
『それで分かるかも!』
んー……。さすがに一年以上も経つと、禁術級でも微かにしか残らないから……。ちょっと調べるのに時間がかかって……、あ、いや。違うこれすぐ分かる。私がつい最近まで、実験で頻繁に見ていたものに近い。
つまりこれは、転移魔法だ。
「私が地球に行くのと同規模の転移魔法」
『マジかよ』
『え? いやでも、つまりあいつ、生きてんの?』
『でも精霊様、コウタは死んだって……』
そうだよ。精霊様が嘘をつくとは思わない。精霊様も師匠が死んだって言って……。
いや。待って。違う。そうだ。言って、ない。
「私がそう思っただけで……、精霊様は師匠が死んだって一言も言ってない……」
『マジで!?』
『ちょっと急いで過去配信見てきた。マジだ、死んだなんて言ってないぞ!』
『見てきた! もういない、とは言ってたけどそれだけだ!』
『つまりなんだ、地球への転移と同規模ってことは、死んだからいないじゃなくて』
『この世界にはいないって意味かあれ!』
確信はない。でも、それで間違いないと思う。師匠はまだどこかで生きてるかもしれない。
「ちょっと、精霊様に聞いてくる」
『りょ!』
『精霊様、嘘だけは絶対につかないから、しっかり聞けば教えてくれるはず!』
『でもリタちゃん、あまり期待しすぎないようにな』
『精霊様が濁した事実は変わらないから』
「ん……。そう、だね。大丈夫。分かってる」
期待はしちゃうけど、しすぎないように、だね。そう自分に言い聞かせて、私は精霊の森、世界樹の前に転移した。
「精霊様」
世界樹の前に立って精霊様を呼ぶ。するといつも通り、精霊様はすぐに出てきてくれた。いつもの笑顔で私を見て、でもすぐに顔を曇らせてしまった。
「リタ……」
「精霊様。はっきりと言ってほしい。師匠が生きているか、死んでいるか」
「…………」
精霊様がじっと見つめてくるので、私も見つめ返す。しばらく睨み合うような形で見ていたら、精霊様は一瞬だけ目を伏せてから答えてくれた。
「生きています」
「……っ!」
ああ、やっぱり。師匠は、生きてる。生きてる!
『おおお! やったあああ!』
『とりあえず生きてることは確定か!』
『でもまだこれからだぞ。喜びすぎたらだめだ』
そうだね。生きてる、という事実だけ受け止める。精霊様が言わなかった理由があるはずだから。
「精霊様。師匠とはすぐに会える?」
「いいえ」
そしてやっぱり、会うことは難しいみたいだった。
「ん……。どうして?」
「その前にリタ。何故コウタが生きていると思いましたか?」
「師匠が殺されたっていうのが、そもそも不自然だった。だから、師匠が庇った人に場所を教えてもらって、魔法の痕跡がないか調べた。大規模な転移魔法の痕跡があった」
「そこまで分かっているのなら、もう察しているでしょう。コウタは、こことは違う惑星に召喚されてしまったようです。どこにいるかは、私でも分かりません」
ああ、そっか。精霊様が言わなかった理由が分かった気がする。生きていたとしても、もう会えない事実は変わらないから。だから、私が諦められるように、私の勘違いを利用したんだ。
それが悪いとは言わない。思うところがないわけではないけど、きっと精霊様は、私を気遣ってそうしてくれたんだと思うから。
「精霊様、本当に分からない? 師匠がいる場所」
「おかしなことを聞きますね、リタ。それが分かっていれば、取り返しに行きますよ。その世界を滅ぼすことになろうとも」
「あ、うん。ごめんなさい」
『ヒェッ』
『目が笑ってないってこういうこと言うんやなって』
『でもまさか異星とくるとは……。これは探すのはかなり難しいぞ……』
地球を探す時は、天の川銀河というヒントがあったからまだ探すことができた。でも、今回は難しい、なんてものじゃない。天の川銀河の他の星も調べる必要があるだろうし、他にも銀河はたくさんあって、惑星はもっともっと多い。見つけられるとは、私もさすがに思えない。
けれど。それでも。
「精霊様」
「はい」
「私は、師匠を探すよ。どれだけ時間がかかっても、必ず」
そう宣言すると、精霊様は眉尻を下げて淡く微笑んだ。
『よっしゃ、やったろうぜリタちゃん!』
『俺たちで協力できることは何でもするぞ!』
『まあ何もできないけどな!』
『悲しい』
ん……。その気持ちだけでも、十分だよ。うん。十分。
「お菓子をくれたらいいよ」
『あいあいさー!』
『とびきりのお菓子を用意するぜ!』
『美味しい晩ご飯を用意するね!』
ご飯は楽しみにしてる。
とりあえず、まずは魔法を作ろう。最低限、生命がある惑星をある程度自動で探せるような、そんな魔法を作りたい。自分でも無茶だと思うけど、どうにかする。
術式を考えながら帰ろうとしたところで、精霊様に呼び止められた。
「リタ。精霊を一人、あなたの配下につけましょう。自由に使いなさい」
「いいの?」
「もちろんです。私が直接的に協力する余裕はありませんが、せめてこれぐらいはさせてください」
それはすごく助かる。人手はあった方が絶対にいいから。
「ん……。ありがとう、精霊様。がんばる」
「はい。よろしくお願いします、リタ」
ん。よし。目標ができた。師匠を探し出そう。絶対に、必ず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます