ドラゴンの強さ
エリーゼさんたちを襲ってたから、とりあえずミトさんに隠蔽を頼んで隠れてもらおうと思ったんだけど……。必要なかったかもしれない。
「様子見の風の刃で翼が取れちゃうとは思わなかった」
『取れちゃう……』
『表現がかるーい……』
『どう見ても切り落としてるんですがそれは』
だって、精霊の森にいるドラゴンなら間違いなく通用しない魔法だから。ワイバーンですら個体によっては弾いてくるよ。つまり、
「ワイバーン以下かな……」
『ええ……』
『サイズも風格もワイバーン以上なのにw』
「ん。見た目で判断はだめっていうことだね」
『違うそうじゃない』
『知ってるかリタちゃん。多くの場合、その言葉は油断しないようにするための言葉なんだ』
そうなんだ。覚えておくね。
私はのんびりと視聴者さんと雑談してるけど、これは別に油断でもなんでもない。だってもう、戦いは終わったから。もうあの大きいトカゲは何もできない。
風の刃で翼を切り落とした後、私は結界の魔法を使った。私を守るためのものじゃなくて、ドラゴンを閉じ込めるための結界だ。
ドラゴンの体にぴったりと覆う結界を作ったから、あのドラゴンはもう身動き一つ取れない。私の結界を破れる魔力があれば逃げることもできるけど、あのドラゴン程度なら絶対に無理。
つまり、あとはばくっとすればいいだけ。
「じゃあ、ばくっとするね」
『え?』
『え?』
「え?」
私が杖で地面を叩く前に、たくさんの一文字だけのコメントが流れていった。変なこと言ったかな。
『リタちゃんのことだからてっきり食べるかなと』
『日本で漫画を読んだなら分かると思うけど、ドラゴンって高級食材のイメージ』
『実際、精霊の森のワイバーンってすごく美味しいんだろ?』
食べる。食材。そっか。それもいい。師匠の話を聞きたいから手早く終わらせようと思ったけど、そうだね、どうせなら食べてみようかな。
みんなが言う通り、精霊の森のワイバーンはすごく美味しいお肉だ。だからドラゴンも美味しいかもしれない。日本の漫画にも、ドラゴンステーキが美味しいっていうのはよくあったから。
そう思うと……。すごく、食べたくなる。
「はい」
『はいじゃないが。はいじゃないが!?』
『すぷらっただあああ!』
『はいの直後にドラゴンの首が落ちた……こわひ……』
やったことは最初と同じ、風の刃ですぱっと。翼よりも硬いかもしれないから威力を上げておいたけど、これも必要なかったかも。
結界を解除すると、ドラゴンの体が地面に倒れた。ドラゴンのお肉、楽しみ。
解体にはとっても便利な魔法がある。かなり複雑な術式だけど、血抜きとかを終わらせてくれる魔法。ちなみに私のオリジナルじゃない。師匠の魔法でもない。ずっと昔の守護者が作った魔法だ。昔の守護者さんはとってもえらい。
ドラゴン用の解体の魔法を使うと、ドラゴンの体がふわりと浮き上がって、すごい勢いで解体されていった。血みたいな液体は大きな球体になって浮かんでる。たくさんだね。
『まってまってなにこれすぷらったあああ!』
『あー、そっか。地球に行ってから、あんまり狩猟してないんだっけ』
『最近は配慮してくれてるのか、解体はあんまり配信してなかったのもある』
『古参組が教えてやろう。これは解体魔法というものだ。効果は見ての通り』
『めちゃくちゃ羨ましい魔法……!』
いや、でも不便な部分もあるよ。獲物やサイズとか細かい部分はその都度、術式をいじらないとだめだから。血もたくさん出るからか、見るのが苦手な人も多いみたい。
ドラゴンの解体が終わったところで、エリーゼさんたちが近づいて来た。すごく怯えられてる気がする。
「び、びっくりしました……。まさか一瞬でドラゴンを倒してしまうなんて……」
「あなた本当に魔女の弟子なのですか? ミレーユ様でもそう簡単に勝てないと思うのですが……」
えっと……。いっか。学園に通うことはもうないし、言っちゃっても。それに、二人にはちゃんと話しておきたいから。
「私が魔女」
「え?」
「隠遁の魔女は私のこと」
私がそう言うと、二人はそろって目を丸くした。その隣ではミトさんが苦笑い。
『ミトさんも一度通った道だからなあw』
『内心でわかるわあ、とか思ってそうw』
そうなのかな。そうかも。
「エリーゼさん、ドラゴンの素材はいる?」
「あ……。いえ、その……。襲われていただけですし……」
「口止め料ということで」
「そんなものがなくても言いません! 命の恩人なのに!」
「でも私もお肉ぐらいしかいらないから、捨てるよ?」
エリーゼさんの頬が面白いほどに引きつった。信じられないものを見るような目で見られてる。魔道具を作るエリーゼさんにとっては宝の山だとは思うけど、私にとっては生ゴミだよ。
「では、その……。鱗、とか……」
「ん。エリーゼさんのアイテムボックスに入れてくれたらいい」
「多過ぎて入りません!」
「んー……。じゃあ、とりあえず入るだけ入れておいて。残りは預かっておく」
私のアイテムボックスなら、ドラゴンの素材程度なら邪魔にもならない。必要になったらミレーユさん経由で連絡してくれたら、ミレーユさんに預けることもできる。劣化もしないし、これが一番だね。
エリーゼさんが鱗をアイテムボックスに入れ終わるのを待ってから、残りを私の方に全て入れた。お肉もたっぷりだ。しばらくはお肉に困らないかも。
せっかくだし、真美に料理してもらおうかな。きっと真美なら美味しくしてくれる。楽しみ。
『なんだろう、今すごく無茶ぶりされる気配を感じた……』
『推定真美さん、ドラゴンのお肉の持ち込みに備えるべし』
『配信楽しみにしてます!』
『さすがに無理だよ!?』
初めてのお肉だと難しいかな。精霊様に注意点だけ聞いていこう。
それじゃあ、後片付けも終わったし、帰ろう。その前にフードを被っておこうかな。ドラゴンの討伐の報告で目立ちたくないから。魔女が討伐した、程度にしておきたい。
私がフードを被ると、エリーゼさんとフォリミアさんが息をのみ、そしてエリーゼさんがぐいっと近づいてきた。
「リタさん! ですよね!」
「ん……」
「そのローブ、すごい魔道具です! すごい、目の前で見ていたのにリタさんだと分からなくなりました! まさかこれほどの魔道具だったなんて……! リタさん是非とももっと詳しく……!」
こわい。
『圧がやべえ』
『リタちゃんのローブの衝撃はドラゴンすら上回るのか……』
『これが……魔道具オタク……!』
これだけ情熱を持てるのは、それだけで才能だと思う。天才とはまた違うのかもしれないけど、きっと努力をやめないだろうし、いずれすごい魔道具を作りそうだ。
その時は是非とも見たい。多分ミレーユさんが自慢しに来るだろうけど。
でも今はとりあえず、うっとうしいので無視して歩き始めた。
「隠蔽の魔法の付与? でもそれだけとは思えない、魔女のローブ、魔女の魔道具、きっと他にも何かあるはず。一体どんな……どれほどの……」
私のローブを食い入るように見つめながらエリーゼさんがついてくる。歩いてくれてはいるけど、ぶつぶつ小声で何かを言っていて、ちょっと怖い。
助けを求めてミトさんとフォリミアさんに振り返ると、二人そろって目を逸らした。
『これはだめみたいですね』
『異世界のオタクってすげえな』
『お前らも好きな物を語る時にこうなってないか?』
『黙秘権を行使する』
好きなものに一直線なのはいいことだよ。多分。きっと。
ただ、うん……。ドラゴンと戦うより移動中の方が疲れたよ……。
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