フラグを回収しました
「え、ええ……? 魔女様!? 今のはまさか転移魔法……? まさか使える人が今もいたなんて……!」
「隠して。誰にも言わない。いい?」
「あ、はい。分かりました」
さすがに転移魔法について噂になるのは困るから。守護者のことを知ってる学園長なら大丈夫と思って使ったけど、まさか他に誰かいるとは思わなかった。気をつけないといけない。
『部外者がいると分かった瞬間にリタちゃんが何かしたのは分かった』
『サブマスターさんも学園長も真っ青で草』
『リタちゃん何やったんだよ……』
えっと……。魔力をちょっと、叩きつけたかな……。それだけ。それだけだよ。
とりあえず放出しちゃった魔力を引っ込めて、改めて学園長に向き直った。
「ミトさん、連れてきた」
「あ、ああ……。久しぶりだな、ミト。元気そうで何よりだ」
「え、と……。ご無沙汰しています、学園長先生。恥ずかしながら戻ってきました……」
「いや。優秀な君に戻ってきてもらって、こちらとしても嬉しいよ」
んー……。問題はなさそう、かな。二人が話している間に、私はサブマスターさんと話をしよう。
「サブマスターさん」
「は、はい! 何でしょう!」
明らかに怯えられてるけど、気にしないでおく。謝ったらだめだと思うし。転移魔法を言いふらされるぐらいなら怯えておいてほしい。少しだけ罪悪感は覚えるけど。
「サブマスターさんはどうしてここに?」
「実はですね……。街の側の岩山にドラゴンが来ているようなのです。森にも近い山なので、学生たちに立ち入らないように伝えていただきたく、参りました」
「ドラゴン? 強いの?」
「はい。おそらく、イオという国を滅ぼしたドラゴンです。かのドラゴンはずっとその廃都を住処にしていたのですが、いつの間にかこの街に来ていました。かのドラゴンの目的はいまだ不明です」
そういえば、ギルドに登録する時に聞いた覚えがある。高位ランクにするための試験の一つにあったはず。私が受けなかったから他の誰かが討伐したのかなと思ってたけど……。
「まだ討伐されてなかったの?」
「はい。廃都から動かないのなら、手を出す必要はないだろうという周辺国の判断です」
楽観的だね。いずれドラゴンが起きて、どこかの国に行くかもしれないのに。
『誰も引き金を引きたくなかったんじゃない?』
『下手に攻撃して暴れられたらと思ったのかも』
『その結果放置はだめだと思うけど』
怖かったから、か。あり得そうだなと思ってしまう。ミレーユさんも勝てるらしいけど、やろうと思えば勝てる、だったはず。つまりはSランクでも簡単に勝てる相手じゃない。
手を出して襲われたら、なんて考えたら、やっぱり難しいのかも。
少し気になるけど、山にいるなら今は気にしなくてもいいかな。この街を襲おうとしたら、さすがに対処しようと思うけど。ばくっと。
「ということなので、学園長。生徒たちにはしばらく森に立ち入らないように、必ずお伝えください。こちらはもしものために、高位ランクの冒険者を集めておきます」
「ああ、もちろんだ。すぐに手配する」
学園長が頷くと、サブマスターさんは一礼して帰って行った。
「さて。それではミト。君の復学は明日からだ。寮の部屋もそのままにしてある。使いなさい」
「は、はい! ありがとうございます!」
ミトさんの方も話は終わってるみたいで、ちゃんと学園に通えそう。これで安心だ。あとはドラゴンだけど、何もしてないドラゴンを討伐するのは……どうなんだろう?
少し考えていると、学園長が立ち上がった。
「私は生徒たちにドラゴンのことを伝えてくる。この部屋には鍵をかけるが、大丈夫か?」
「ん。転移で出るよ」
「転移を頻繁に使うのは避けた方がいいと思うがね」
それはそうかもしれないけど、便利だからね。我慢するつもりもない。
学園長は手を上げると、そのまま部屋を出て行った。少し急ぎ足だったのは気のせいじゃないと思う。生徒がドラゴンに襲われたらひとたまりも無いだろうから、当然だろうけど。
「ミトさんは寮の前でいい? 転移で送るよ」
「はい。大丈夫です。でも、リタさんは?」
「私は、ちょっと森に行く」
エリーゼさんとフォリミアさん。二人とも、素材を集めに東の森に行ってる。山がどこにあるかはまだ分からないけど、もしものことがあるから。
「わたし、ここで待ってますよ?」
「ん……。じゃあ、ちょっとだけ待ってて」
ミトさんの言葉に甘えて、とりあえず二人がどこにいるのか、ドラゴンがどこにいるのか調べておこう。探査の魔法を、広範囲へ……。
「え。いや、え……?」
『おん? どしたリタちゃん』
『珍しく慌ててるけど』
「あの二人、森をこえて山に入ってる。しかもドラゴンがいる……」
『いや草』
『笑ってる場合じゃねえよやばいやつじゃん!』
『今朝のやり取りはフラグっぽいとは思ったけどマジで回収しなくていいんだよ!』
これは、まずいよね。すぐに行かないと……。やっぱりミトさんにはここで待ってもらって……。
いや。
「ミトさん」
「はい。なんでしょう?」
「一緒に来て。隠蔽の魔法、使ってほしい」
それを聞いたミトさんはすごく不思議そうな顔だったけど、でもすぐに力強く頷いてくれた。
「はい。任せてください!」
「ん。任せる」
それじゃあ、改めて。エリーゼさんたちを迎えに行こう。
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