ミトの視点


 お庭に転移すると、ちょうどミトさんが隠蔽の魔法を使うところだった。ミトさんが地面に描いた魔法陣を杖で叩いて、魔力を流していく。すると魔法陣はすぐに効果を発揮して、ミトさんが見えなくなった。


「おー……。すごい。すごくすごい。かなり良くなった」


『今までにない高評価!』

『そこまで言うってことは、お師匠をこえたか……!』

『もうリタちゃんでも見つけられないとか!』


「いや、それはないけど」


『ですよねー』


 さすがに私や師匠の魔法と比べると、まだまだ安定はしてない。微妙に残る揺らぎが、そこに誰かがいるのを教えてくれる。そしてそれがあれば、揺らぎから中を調べることもできる。

 でも、隠蔽の魔法としてなら十分だと思う。森の外なら、発動の瞬間を見られない限り見つかることはないんじゃないかな。


「森の魔獣にも通用すると思う」


『いやリタちゃん、それならほぼ全世界で通用するってことでは……?』

『人外魔境と一緒にするんじゃありません!』


 人外魔境扱いはやめてほしいな。

 ミトさんに近づいて肩を叩く。するとびくっとミトさんが震えて、魔法は一瞬で解除されてしまった。もったいない。


「あ……。リタさん……」

「ん。集中力が課題。体に触れられた程度で解除しないように気をつけて」

「は、はい……。ごめんなさい……」

「ん……。でも、さっきの魔法はすごくよかった。あれなら十分だと思う」

「あ、ありがとうございます!」


 ミトさんが勢いよく頭を下げてきたけど、さすがにそれはやめてほしい。だって、少しだけ助言はしたけど、ほとんど本に任せちゃったから。

 だからこれは、ミトさんの才能と努力の結果。


「隠蔽の魔法だけとはいえ、まさかこんなに早く終わるなんて思わなかった。ミトさん、すごい」

「そ、そうですか? そう言われると照れちゃいますね……」

「ん。じゃあ他の魔法も、いずれは上級魔法もがんばっていこう」

「はい!」

「ただし魔法学園で」

「はい?」


 何を言われたのか分からなかったみたいで、ミトさんの表情が固まってしまった。そしてすぐに青ざめていく。やっぱり学園で何か言われてたりしたのかもしれない。

 そう思ってたんだけど。


「リタさん……。学園長から聞いたんですか……?」


 怯えられてるのは私だったみたい。


「ん。ミトさんには聞きたいことがある。師匠に助けられたのはミトさんで合ってる?」

「はい。私が油断してしまったせいで、賢者様は……。私の、目の前で……!」

「ん……?」


 師匠は生徒をかばって魔獣に殺された、と聞いた覚えがある。助けただけで魔獣を倒してないなら生徒が生き残れるはずもないから、相打ちになったってことかなと思っていた。

 だって、師匠の結界を破れるような魔獣から逃げ切れるなんてあり得ないから。


 でもミトさんは、油断したのが原因みたいなことを言った。それはつまり、油断しなければミトさんでもある程度は渡り合えることができたってことのはず。

 その程度の魔獣に師匠が殺される? だって師匠、私みたいに常に結界を張ってるよ? 少なくとも森のワイバーン程度じゃ破れない結界を。


 何かが違う気がする。私は何かを勘違いしてる。根本的なところで。


『リタちゃんどした?』

『急に黙り込んだせいでミトちゃんも困惑してるぞ』

『むしろこれはびびってるのではw』


 ああ、うん。ごめんねミトさん。全然聞いてなかった。気になるけど、考えるのは後回しにしよう。


「ミトさん。あとで詳しく教えてほしい。師匠の最後は聞いておきたいから」

「はい……。はい。もちろんです」

「ん。じゃあとりあえず、学園に行こう。ここで学んだことを活かせば、卒業なんてすぐだよ」


 ここで一人でがんばるよりも、誰かに教わった方がいいと思うから。先生たちの授業は分かりやすかったから、質問とかができない本で学ぶよりも、先生に教わる方がいい、と思う。


「それとも、やっぱり何か言われてたの?」


 そう聞いてみると、ミトさんは小さく頷いた。学園長も把握できてなかったってことかな。


『それはしゃーない』

『ずっと一人を監視してるわけにもいかんだろうし、嫌がらせとか気づきにくいもんだよ』

『でも辛いのは辛いと思うよ。勉強にも邪魔だし』


 んー……。どうしようかな。学びやすいのはやっぱり学園だと思うけど……。

 うん。よし。


「学園長に相談しよう。それでもだめそうなら、一緒に帰ってくる。それでどう?」

「それでいいのなら……。あ、でも、せめて片付けは待ってほしいです」

「分かった。急がないからゆっくり片付けて」


 こくりと頷いて、ミトさんが片付けを始める。テントとか、だね。テントの中にも色々と出してたみたいだし、時間がかかりそうだ。お昼ご飯の用意でもしながら待っていよう。




 ミトさんが片付けを終えると、お庭からはもう何もなくなってしまった。ミトさんが来る前の状態に戻っただけだけど、なんだか少しだけ寂しく感じる。

 お昼ご飯にレトルトのカレーを食べて、それから転移、と思ってたんだけど。


「あの、リタさん。最後に精霊様にご挨拶をしたいです」

「ん? あ……。そうだね。そういえば最初に失敗したきりだった」

「思い出させないでください……!」


 あれを忘れるのは難しいよ。あの時に悪かったのは間違いなく私だからあまり言うつもりはないけど。

 ミトさんと一緒に世界樹の前に転移すると、精霊様はすぐに出てきてくれた。


「おかえりなさい、リタ。そしてようこそ、ミト。いえ、お疲れ様でした、でしょうか?」

「あ、あはは……。挨拶ができずに申し訳ありません」

「ふふ。いえいえ。リタがいないと来られないでしょうから、気にしなくて構いません」


 そう言われると、少しだけ申し訳ない気がしてくる。もっと早く連れてきてあげればよかったかも。


「短い間でしたがお世話になりました」

「いえ。あなたにリタとの繋がりがある限り、私はあなたを歓迎しましょう。また来てくださいね」


『これは紛う事なきママ』

『精霊ママー!』

『しかしこの惑星の生命の母とも言えそうだし、あながち間違いないのでは?』


 ミトさんが深く頭を下げて、私の方に戻ってきた。それじゃあ、行こう。


「精霊様、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい、リタ。気をつけて」


 精霊様に手を振って、学園長室に転移して。

 転移した先に学園長だけじゃなくてギルドのサブマスターもいたからすごく驚いた。

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