師匠の繋がり
「は? 父上、それはどういう……」
「黙っているといい。すぐに分かる」
「はあ……」
ミリオさんとエドリアさんの短い会話。ミリオさんの方はやっぱり何も知らないみたいだね。改めてエドリアさんを見ると、眼光が鋭いというより、興味深そうに私を見てるだけみたい。
「賢者コウタからは、何を聞いてるの?」
「元精霊の森の守護者と」
あ、そう。全部言っちゃってるんだね、師匠。いや、うん、隠さないといけない、なんて精霊様に言われてるわけじゃないからね……。多くの人に伝えてるわけじゃないみたいだけど、一部の人には伝えてるのかも。
師匠の性格を考えると、多分信頼した人だけだと思う。信頼した人で最小限に、かも。エドリアさんがその対象なら、隠す必要もないかな。
「ん。改めて……。賢者コウタの弟子。精霊の森の守護者。隠遁の魔女。リタ。よろしく」
「なあ!?」
ミリオさんがすごく驚いてるけど、気にしない。今はエドリアさんとの話の方が大事だから。
私の名乗りを聞いたエドリアさんは、さっきまでの表情が嘘みたいに、満面の笑みになった。
「そうか! そうかそうか! やはり君があいつの弟子か! ミリオが出会った場所と名前を聞いて、もしかしたらと思っていたんだ! 歓迎しよう!」
わあ、すっごく明るい。びっくり。
「私じゃなかったら、どうしたの?」
「もちろん消すが」
『ヒェッ』
『あかん完全に貴族だわこの人』
『ある程度確証持ってたんだろうけど、こえーよw』
思い切りがいい人、と言えばいいのかな。そういうことにしておこう。
「師匠とどういう関係だったの?」
「あいつがどう思っているか分からないが、私は友人だと思っていたよ。親友だと思っている。毎週のように酒を飲みに行った」
懐かしそうに目を細めるエドリアさんを見ると、友人だっていうのは間違いないんだと思う。
そっか、この人は師匠を知ってるんだね。私が知らない間の師匠のことを。どうしよう、すごく話を聞きたい。師匠がどんな生活をしていたのか、とか。あと……。
「あの……。師匠は、私のことをなんて言ってたの……?」
気付いたら、そんな言葉が口から出ていて。それを聞いたエドリアさんは、何とも言えない表情になった。
『あれ、なんか微妙なお顔』
『もしかして悪いことを言われてたり……?』
『あいつが? リタちゃんを? ないない。ない、はず』
ん……。もしそうだったら、ちょっと、やだな……。
「君のことか……。それはもう……自慢の嵐だった……」
エドリアさんは、ふっと遠い目をした。
「故郷に残してきた弟子がどれほど優秀か、どれだけかわいいか、どれほどの才能かをそれはもうあらゆる言葉を尽くして自慢してきたよ……。しつこいほどにね……」
「ん……。その……。ごめんなさい」
『あいつらしいっちゃあいつらしいけどw』
『聞かされる側はたまったもんじゃないだろうなw』
『俺ら関係ないけど謝りたくなる謎の罪悪感』
何をやってるのかな師匠は。そう思って思わず謝ったけど、エドリアさんはいや、と笑って、
「安心するといい。君は間違いなく、あいつに愛されていたよ」
そう、言ってくれた。
「ん……。ありがと。嬉しい」
今更師匠を疑うようなことはしないけど。でも、それでも、やっぱり嬉しい。
「教えてくれてありがとう。できれば、他にもいろいろ聞きたい」
「もちろんだとも。また改めて時間を取ろう」
さて、とエドリアさんが咳払いをした。ここからは話を戻して真面目に、だね。
「君の留学の件だが、もちろん歓迎させてもらうよ。守護者殿が得られるものは少ないだろうが……。そうだ、臨時教師なんてどうだろうか。その方が動きやすいと……」
「やだ」
「そ、そうか? それなら、うん。いいんだが……」
そんなに残念そうにされても、嫌なものは嫌だよ。ちいちゃんに教えるのでも大変で、ミトさんぐらいになると本を貸してあげることしかできないから。大人数に教えるなんて、できるとは思えない。
それに。
「学校、興味があるから」
「うん?」
「私も学校に通ってみたい。それだけ」
ついで、だけどね。師匠のことを調べるついでに、学校も体験できたらいいなって思ってる。学校から帰ってくる真美はいつも楽しそうだから、ちょっと気になってる。
どんなことをするのかな。今から楽しみ。
『そっか、学校か』
『リタちゃんずっと森で暮らしてるもんなあ……』
『ごめんねリタちゃん気付かなくて……』
今のは真美かな。ちょっといいな、なんて思ってただけだから、気にしないでほしい。
私の意思が変わらないことを察したのか、エドリアさんは苦笑と共に頷いた。
「分かった。寮についてはエリーゼさんに聞いてほしい。一階で待っているはずだ。彼女に任せてある」
「用意がいいね?」
「教師の方は断られると思っていた」
引き受けてくれたら儲けもの、みたいな考えだったのかも。
「明日の朝、教師を案内に向かわせる。授業についてはその者に聞いてほしい」
「ん。分かった。いろいろありがとう」
「いや。ミリオを助けてもらった礼だと思えば安いものだ」
そういうものなのかな。ともかく、これでアート侯爵家との貸し借りはなしだね。もったいない使い方だと言われるかもしれないけど、こうして簡単に話し合いが終わったと思えば、私にとっては十分価値があった。
「ん。それじゃ、行くね」
「ああ。時間を作れたらこちらからまた連絡するよ」
「わかった」
二人に手を振って、私は学園長室を後にした。
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