学園長


 ギルドを出て、街の中心部、魔法学園へ。魔法学園は大きな壁に囲まれた場所にある。街を囲む壁よりは低いけど、それでも立派な城壁みたい。

 街と違って、門は北と南に一つずつ。街の兵士さんが二人ずつと、先生が一人ずつで門番をしてるんだとか。先生は持ち回りの当番制らしいけど。


『前衛二人に後衛一人かな』

『わりと良い構成』

『今度こそ魔法バトルしようぜ!』


 どれだけ戦わせたいのかな。やらないってば。

 兵士さんたちがいる門へと向かうと、一緒にいた男の先生が私に笑顔を向けて挨拶してくれた。


「いらっしゃい。エリーゼさんから話は聞いているよ。君がリタさんだね?」

「ん。学園長に会いたい」

「もちろんだとも。魔女様の弟子なら大歓迎だ。案内するね」


 先生が兵士さん二人に行ってくると告げると、兵士さんは敬礼を返していた。門を守るためにいるわけじゃなかったのかな。連絡係、とか?

 先生に案内されて門をくぐる。そこにあったのは、とても大きな建物。なんだかお城みたいにも見える。その建物と門を繋ぐ道はとても大きくて、両端には立派な木が植えられていた。しっかり石畳で整備されていて歩きやすい。

 道じゃない場所には建物や広場が無秩序に並んでる。先生曰く、実験室とか魔法の演習場に使われてるらしい。


『なんか日本の大学よりもすごい気がする……!』

『機械とかはないけど、規模だけなら下手な大学より上かもしれない……』

『お城すげえ! なんでお城なのか謎だけど!』


 それは私も気になる。聞いてみよう。

 お城へと歩きながら、先生に声をかけた。


「質問、いい?」

「いいとも。何かな?」

「なんでお城?」


 お城を指さして聞くと、先生はああ、と笑いながら教えてくれた。

 このお城、実際に本当にお城だったらしい。ずっと昔、まだここが街じゃなくて一つの国だった頃に使われていたお城らしいよ。今の国の属国になった後、いつからか精霊の森の素材を求めて魔法使いが集まるようになって、そしてまたいつの間にか魔法を教える組織ができあがって、それならと正式に国の方針で魔法学園が作られたんだとか。

 その時に学び舎として使われることになったのが、このお城ってことだね。


 もともとの王様がどうなったか、とかは……。まあ、聞かないでおこう。結構昔のことらしいから、そもそもとして知らないかもしれないし。

 お城の中は見た目通り豪華絢爛な内装……ではなかった。

 入ってすぐの広間には大きなカウンターがあって、魔法学園の案内係さんがいる。階段もたくさんあるのが入ってすぐに分かるんだけど、その階段の側には迷子にならないようにと、見取り図が貼り付けられた看板が必ず設置されていた。


『外観とのギャップがすげえ……』

『ただの迷いやすい校舎やなこれ』

『広さはあっても利便性がかけらもねえ!』


 覚えるまではすごく大変だよね、これ。

 先生の案内に従って階段を上って、そうして連れてこられたのは最上階の部屋。元は王様のお部屋だったらしいけど、今は学園長が使ってるらしい。

 先生が大きなドアをノックすると、すぐにドアが開いた。中から開けてくれたのは、ミリオさんだ。私たちの姿を認めると、お待ちしておりましたと笑顔を浮かべた。


「お疲れ様です。ここからは私が引き継ぎます」

「はい。よろしくお願いします」


 ミリオさんに連れられて、部屋の中に入った。

 王様の私室だったって聞いたからすごい部屋なのかなと思ったけど、なんだかギルドマスターの部屋と似てる。テーブルや椅子、ソファ、そしていくつかの棚が並ぶだけの部屋だね。

 ただ、一番奥の壁だけちょっと新しく見えるから、意図的に狭くしたのかもしれない。使いやすいように、とか。


 一番奥の机に中年ぐらいの男の人がいた。エブレムさんほど年は取ってないけど、ミリオさんほど若くもない。顔にいくつかしわが刻まれてる。

 ただ、眼光はとても鋭い。私を値踏みするみたいに睨み付けてる。ちょっと怖い。


『すっごく感じ悪いなこいつ……』

『なんだあ、てめえ……』

『視聴者がキレた!』

『なお意味はない』

『な、ないこともないし! その、あれだ、応援できる!』


 つまりないのと一緒ってことだね。知ってた。


「学園長。この者が隠遁の魔女の弟子、リタです。ここまでの道中で護衛をお願いしましたが、紹介状にあるように間違いなく魔法使いとしては一人前と言える腕前です」

「ならなんで魔法学園に通いたいんだよ……」

「…………」


 ミリオさんが言葉に詰まって私へと振り返ってくる。説明は私だね。


「私は師匠からしか魔法を教わってないから、どんな魔法があってどうやって魔法を使ってるか、見てみたい」

「なるほどね。まあ、一応理解はできる。私がここの学園長であり、そして領主でもある、エドリア・アートだ。アート侯爵家の当主でもある」

「ん。隠遁の魔女……、の弟子。リタ。よろしく」

「ああ、よろしく」


『リタちゃん弟子って言い忘れかけただろw』

『リタちゃんがんばれ! 超がんばれ!』

『多分ばれるのも時間の問題だろうけど!』


 余計なことは言わなくていいよ。私も内心でそう思ってるから。

 エドリアさんは頷いて、けれどやっぱり眼光は鋭いまま。


「では、リタ。愚息の命の恩人だ。君の学園への留学を認めよう」

「ありがと」

「だがその前に、聞きたいことがある」


 エドリアさんはそう言ってから、少しだけ間を空けて、


「君は、隠遁の魔女の弟子と言ったな?」

「ん」

「では賢者コウタが隠遁の魔女と言いたいのかな?」

「…………。え?」

「君は賢者コウタの弟子だろう?」

「…………。ん……? え……、あれ……?」


『リタちゃんがめっちゃ混乱してて草』

『いや草生やしてる場合じゃないだろどういうことだこれ』

『あー……。いやこれ、わりと単純なのでは……』


 単純、なの? えっと、どうしてこの人は師匠と私の関係を知ってるのかな。だって、師匠以外だと、ミレーユさんとセリスさん、ミトさんぐらいしか知らないはずなのに……。

 あ、そっか。師匠がここにいたのなら……。


「あいつは、コウタはよく君のことを自慢していたよ。リタという、自慢の弟子がいると」

「…………」


 本当に単純に、師匠が話していた、ただそれだけ。

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