エブレムさん
「では私はここで失礼致します」
そう言ってサブマスターさんが帰ってしまう。一緒に来てくれるわけじゃないみたい。少しだけ期待してたけど、仕方ない。
「ん。じゃあ、入る」
『がんばえー』
『リタちゃんなら大丈夫!』
『見守ってるよ! それしかできないとも言うけど!』
それでも十分。
ドアを開けて、中に入った。
ギルドマスターの部屋は、あっちのものと大差ないね。デスクと机、ソファ、そして本棚がいくつか。違うところは、壁にたてかけられてる杖かな。たくさんの宝石がついたちょっと豪華な杖だ。
その杖の側におじいさんが立っていた。長い白髪にたっぷりの髭のおじいさんだ。
『おお、いかにもな魔法使い』
『これはリタちゃんと魔法バトルやな!』
いやしないけど。
おじいさんは柔和な笑顔を浮かべて言った。
「ようこそ、隠遁の魔女殿。わしがここのギルドマスター、エブレムじゃ」
「ん。リタです。隠遁の魔女とも呼ばれる時がある。でも普段はCランクにしてもらってる」
「うむ。セリスの嬢ちゃんから聞いておるよ」
セリスの嬢ちゃん……。あっちのギルドマスターさんの名前だね。すごく親しげな呼び方だけど、知り合いか何かだったりするのかな。
「ふむ……。ところで隠遁の魔女殿」
「ん?」
「おぬし、何か他にも隠しておるな? それも言ってしまった方がいいと思うがの」
「…………」
隠してる、というのはもちろんある。私が精霊の森の守護者っていうのは、さすがに知らないはずだから。でも言う必要はないと思う。
『てかこのおっさん、なんで知ってんだよ』
『いやそりゃこんな子供がSランクって、何もない方がおかしいのでは?』
『確かにwww』
あー、うん……。そうだね。Sランクってすごいらしいからね。気にしたことがないせいで、忘れそうになるけど……。
「言えない」
「なんじゃ、つまらん。刺激あるわくわくなお話を期待したんじゃがの」
「うわあ……」
『ただの興味本位の暇つぶしってかw』
『一瞬でも警戒した俺らがバカみたいじゃんw』
『あのシリアスな空気なんだったんだよ!』
『言うほどシリアスだったか……?』
そうでもなかったと思う。世間話みたいな感じだったね。エブレムさんもどうしても知りたかったってわけでもなかったんだと思う。
「無理強いなどせぬよ。下手に触ると実は公爵令嬢だった魔女とかいたしのう……」
『どこの灼炎の魔女さんかな?』
『多分同じような感じで聞いたんだろうな……』
『そして語られる身の上話と公爵家の立場』
『地雷じゃないですかやだー!』
ミレーユさんは優しいけど、みんな貴族は扱いが面倒とか、そんな評価だよね。他の貴族がどんな人か、ちょっとだけ興味がある。会う機会はあまりなさそうだけど。
「して、隠遁の魔女殿。この街での活動はどうするのかの?」
「ん。冒険者としては何もしない。学生になるから」
そう答えると、エブレムさんは不思議そうに首を傾げた。
「学生?」
「学生」
「どこの?」
「魔法学園」
ふむ、と頷いて一言。
「魔女が今更通うとか意味不明じゃの」
『ですよねーw』
『何も知らなかったら当然の評価』
これについては何も言えない。でも私の魔法は師匠と精霊様に教わったものだから、人間が発展させてきた魔法にも得るものがあると思う。だから、実は結構期待してたりするよ。
「でも、そういうことだから」
「ふむ。了解じゃ。もし緊急で隠遁の魔女殿に依頼したいことがあれば、連絡させてもらうがいいかの?」
「ん。受けるかは分からないけど、確認はする」
十分じゃよ、とエブレムさんは笑ってくれた。話の分かる人で良かった。
それじゃ、と手を振って、ギルドマスターさんの部屋を出る。それじゃあ改めて、魔法学園に向かおうかな。
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