怒ってる人を見ると冷静になるあれ

 門からここまで、つまり魔法学園の側まで、しっかりと石畳で舗装されていた。活気もあるし、いい街だね。

 魔法学園は……あとで詳しく見よう。


『とりあえず学園が無駄に大きいってことは分かった』

『探検とかしたら楽しそう』

『隠し扉を見つけてからの隠し財宝発見、とか!』


「ん……。楽しそう」


 すごく大きい建物みたいだし、それも考えてみようかな。


「それではリタさん。学園長には私が話を通しておきますので、ギルドマスターへの挨拶が終わったら魔法学園へいらしてください」

「ん。わかった」


 三台の馬車が魔法学園へと向かっていく。私と、そしてフランクさんたちはギルドまでだ。さすがに街の中だし、ギルドは目と鼻の先。襲われるようなことはまずないと判断したみたいで、依頼はここまでということになった。


「リタちゃん、ギルドマスターに挨拶するんだろ? 俺たちもすぐに戻るとはいえ、報告があるからな。一緒に行こうか」

「ん」


 それはとても助かる。いつもの街のギルドならもう慣れたけど、初めての街のギルドは少し緊張するから。知らない人ばかりだろうし。


『こっそりテンプレ期待してる』

『おうおう見ねえ顔だなどこのもんだ、みたいな!』

『次は是非ともたたきのめしてほしい!』


 変な期待しなくていいよ。実際に起こったらどうするの? 確か、こういうのをフラグって言うんだっけ。やめてほしい。

 でも、私はそこまで不安には思ってない。だって、あの街だとみんな優しかったから。きっとここもそうのはず。

 その期待は、見事に裏切られた。


 私たちが入った瞬間に向けられる好奇の視線。フランクさんが報告にカウンターに向かうと、その視線はさらに強くなった。

 特に強い視線は、掲示板の側から。ここのギルドの内装はあのギルドのものと大差はないね。その方が嬉しい。そんな現実逃避はほどほどにして。

 私に向かってくるのは、中年の男。片手にはお酒を持ってるみたい。ちょっと息が酒臭いかも。


「おうおう嬢ちゃん、何しに来たんだ? まさか冒険者になろうとか思ってるわけじゃねえよなあ」

「ん……」


『テンプレキタアアア!』

『今度こそ! 今度こそこのテンプレを!』

『さあリタちゃんしっかり格の違いを分からせてやろうぜ!』


 視聴者さんは相変わらず血の気が多い。何に興奮してるのかはよく分からない。


「もう冒険者」

「子供が冒険者なんてやるもんじゃねえんだよ! こういう危ないこともあるからな!」

「聞いてない……」


 男の人は背中の剣を鞘ごと引っ張り出すと、私に向かって思いっきり振り下ろしてきた。でも、うん。言葉は強いし敵意はあるみたいだけど、殺意は感じない。少し痛い目にあえってやつかな。

 それだったらまあ適当に……。

 男の人の剣が、私の目の前で壁に当たったみたいに止まってしまった。


「あ」

「あ?」

『あ……』


 私のローブのフードには隠蔽の魔法がかけられてるけど、三角帽子には防御の魔法がかけられてる。この防御の魔法が発動すると、もう一つ、自動的に発動する魔法を仕込んでる。

 反射、と言えばいいのかな。受けた衝撃をそっくりそのまま返しちゃう魔法だ。

 つまり。


「うげえ!」


 男の人の顔面に衝撃がいっちゃったみたいで、その人は後ろに倒れてしまった。


「…………」


 周囲を見る。みんな、私を見てる。うん、その、えっと……。


「私は悪くない」


『どこかで聞き覚えのあるセリフだなあw』

『俺は悪くねえ!』

『いやまあ実際に反撃しただけだからそんなに悪くないと思うけど』

『何よりもちゃんと生きてる! 生きてるよね?』


 ん。それは大丈夫。咄嗟だったけど、衝撃を返す前に男の人の前に簡易的な結界を張ったから、ちゃんと生きてる。大怪我を防ぐ程度の結界だったけど。

 でも、どうしようこれ。私が困っていると、笑い声が聞こえてきた。


「いきなりやってるなあ、リタちゃん」


 フランクさんだ。げらげらと楽しそうに笑いながらそんなことを言われた。


「ん。なにこれ。殺意は感じなかったけど」

「おう。洗礼みたいなもんだよ。子供相手にはやらないはずだけど、酔っ払ってたからな……。ちゃんと判断できてなかったんじゃないか?」

「んー……。これ、怒られる?」

「怒られるとしたら黙って見てた周りの冒険者どもだから気にするな」


 な? とフランクさんが周囲を見渡せば、みんな気まずそうに目を逸らしていた。普通は止めるものだったってことなのかな?


『だったら止めればいいのに』

『いや多分このおっさんの方が強いとかじゃね? 強そうだし』

『それで怖くて止められなかったってこと?』


 それはそれでどうなんだろう。私がそう思っていると、カウンターの方から女の人が歩いてきた。ギルドの受付さんがみんな着てるおそろいの服の人。制服って言うんだっけ。その女の人は水がたっぷり入ったバケツを持っていて、容赦なく男の人にぶちまけた。


「ぶえ……っ、何しやがる!」

「うるせえテメエが何してやがんだ殺すぞハゲ座れボケ」

「あ、はい」


『ア、ハイ』

『やべえネタじゃなくてマジのア、ハイだw』

『てか職員さんが怖すぎるんですがそれはw』

『青筋浮かんでますねえ!』


 すごく怒ってるね。とても怒ってるね。私は何も知りませんなので受付に行きます。


「誰が座れ言ったんだクソがあ! 立てやゴルァ!」

「理不尽!」

「うるせえ今はあたしがルールだ文句あっか! 文句あれば言え! 殺すから」

「ありません!」


『最後の殺すがガチトーンなのマジで草』

『やばいぞくぞくしてきた……。なんか、いい……』

『おいバカ冷静になれその先は地獄だ』


 なんだかとっても楽しいことになってるね。フランクさんたちも我関せずだ。あの職員さん、多分強いだろうからね。元冒険者だったりするのかな。

 気にしても仕方ないし、私も早く用事を済ませよう。魔法学園に行きたいし。

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