ジニアス
檻の中で風の刃を発生させて、地面を大きく抉っておく。盗賊さんたちはそれだけで全員怯えたように後ずさりした。フランクさんが言うから生け捕りにしただけで、余計な手間とか時間とか必要ならさっさと殺すよ。
こんこんこん、と杖で地面を叩いていたら、盗賊さんたちは大柄な人も含めて我先にと武器を捨てていった。最初からそうすればいいのに。手間ばかり取らせないでほしい。
『盗賊死すべし、慈悲はない』
『人を殺して金品奪う連中の願いなんて聞く必要ないってやつやな!』
『それはそうだけど、容赦なさすぎて笑うわこんなんw』
『テンプレどこ……? ここ……?』
『圧倒的な力で制圧するっていうテンプレはしただろ?』
『画面映えはしなかったけどな!』
『戦いすら起こらなかったからなw』
これでも視聴者さんにとってはちょっと不満らしい。もっと派手な魔法を使ってほしかったのかな。爆発とか、嵐とか、雷とか。
んー……。
「今からどっかんする……?」
そう言った瞬間、盗賊さんたちがもれなくびくっとしたのはおもしろかったかもしれない。
「リタちゃん、さすがにそろそろ勘弁してやってくれないかな。片付けの方が面倒そうだし」
『慈悲はないけど殺意はあった』
『リタちゃん、もう満足だからね……』
ん。じゃあ、いっか。
杖で地面を叩いて、土から手枷を作る。全員の腕を拘束して、ロープでそれぞれの腰を結ぶ。あとは近くの村まで連れて行けば、牢屋で拘束できるんだとか。
「村に牢屋があるの?」
「村でも犯罪はあるからな。これだけの人数を入れられるかは見てみないと分からないけど」
ん。じゃあ、とりあえず出発だね。大行列になっちゃったけど、気にせず行こう。大行列だからゆっくり、なんてせずに、むしろ時間を使ったから急ぎ足でね。
「鬼だ……」
『鬼がいる……』
『リタちゃん、マジで身内以外に容赦ないな……』
必要性を感じないから。
歩き始めたところで馬車に戻ると、エリーゼさんに手招きされた。とりあえず二台目の馬車に入ってみる。
「リタさん! すごく、すっごくかっこよかったです!」
あ、お褒めの言葉だった。
「ん。勝負ぐらい認めてやれって言われるかと思った」
「ははは。そんなこと言いませんよ。本来ならすぐに殺されても文句は言えないですからね」
そう答えたのはミリオさんだ。可能なら生け捕りにして他にいないかの情報を吐かせたいらしいけど、それが難しいなら手加減せずに殺してしまえ、というのが盗賊の扱いらしい。
私もそれでいいと思う。相手だってこっちを殺すつもりで来てるから。
「それじゃあ、私はまた上にいるから。何かあったら呼んでほしい」
「はい、分かりました!」
エリーゼさんたちに小さく手を振って、馬車の屋根に移動。いつもならそろそろ日本に行きたいところだけど……。今日は捕まえた盗賊もいるし、さすがにちゃんとしておこう。
ミトさんのお昼ご飯は……。今日は大丈夫、かな……?
盗賊の引き渡しも済ませて、さらに数日馬車で移動を続ける日を送って。
ミレーユさんに見送られてから八日。私たちは魔法学園のある街にたどり着いた。
街の周囲は大きな壁に囲まれてるけど、これは大きな街ならどこでもそうらしい。人が住む場所に魔獣が入ってくることはあまりないけど、それでも絶対にないわけじゃないから、そういった魔獣対策として壁があるんだって。
「この街、ジニアスは魔法学園が中心にある街です。街の北側に商店が集まっていて、南側は住宅街です。もっと細かく分けられたりしていますが、それさえ分かっていればここでの生活には困らないかと!」
そう説明してくれたのは、エリーゼさんだ。門が見えてきたところでどんな街なのか聞いてみたら、それはもうすごい勢いで説明してくれた。
「冒険者ギルドは北側ですが、魔法学園のすぐ側にあります。素材集めを学園が依頼することもあるためですね」
「ん……。じゃあ、とりあえずはギルドに向かうの?」
「はい。そこで依頼の報告ですね。リタさんはどうします? 魔法学園は全寮制ですけれど」
「ん……?」
ぜんりょうせいって、なに?
ちょっと待ってね、とエリーゼさんに告げて、私は振り返って光球へと小声で言った。
「ぜんりょうせいってなに?」
『リタちゃんwww』
『マジかよw』
『全寮制、な。簡単に言ってしまえば、生徒は必ず学園が用意した家に住まないといけないってやつ』
『遠方から来る人もいるだろうから、それで統一させたんだろうね』
「ん……。なるほど」
宿に泊まる必要がないと思えば便利だと思う。ただ、私はお家に転移すればいいだけだし、ミトさんのご飯も用意しないといけない。この街に住む必要はないんだけど……。
でも、決まりなら仕方ないかな。お家に転移する時に誰にも見られない場所があるっていうのは便利かもしれないから。
エリーゼさんに向き直ると、不思議そうに首を傾げていた。
「リタさん、どうかしました?」
「ん。気にしないで。私はその、寮? に住めるの?」
これに答えてくれたのは、ミリオさんだ。
「部屋には余裕があるので問題ありませんが、まずは学園長に報告をしますのでお待ちください」
「ん」
最初の街でギルドマスターさんに挨拶したみたいなものだね。私も行った方がいいかな。
そこで思い出した。一応、この街のギルドマスターさんにも挨拶した方がいいよね。
「ミリオさん」
「はい?」
「ギルドについたら、ギルドマスターさんに挨拶してもいい?」
私がそう聞くと、ミリオさんはどうしてか戸惑ったように目を見開いた。なぜか私の顔をまじまじと見つめてる。私が首を傾げると、いえ、と小さく首を振った。
「さすがは魔女の弟子、と考えただけです。お気になさりませんよう」
「ん……?」
んー……。どういうこと、かな?
『いやいやリタちゃん』
『他の街から移動してきたからギルドに挨拶は分かる。でもギルドマスターに挨拶は普通はないと思う』
『それ』
ん……。そっか。そうだよね。Aランクとかの高位ランクならどこにいるかを把握しておきたいっていうのはあるだろうけど、低いランクの人をわざわざギルドマスターさんが管理したりはしないか。
ミリオさんは、私が魔女の弟子だからって納得してくれたみたいだし、それを利用しよう。
その後も馬車に揺られて、太陽が真上に上る頃にギルドにたどり着いた。
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