ノートパソコン
お家ではミトさんがやっぱり本を読んでいた。熟読してる。ミトさんが本を読んでる間に、これからのお話しをしておこうかな。
「護衛依頼を受けてる間、日本に行く時は真美の家だけになるよ」
『えー!』
『そんな! ひどい! 次はこっちかと楽しみにしてたのに!』
『まあまあ落ち着け、理由を聞こうや』
ん。冷静な人がいてくれるととても助かる。なんだか楽しみにしてくれてる人も多かったみたいで、ちょっと申し訳なく思っちゃってたし。
私ももっと日本を見て回りたいけど、私自身が分身と魔力を繋げられるのは、この世界限定だ。日本に行くとなると精霊様に手伝ってもらう必要があるんだけど、精霊様といえどもあっちこっちに移動されるとちょっと難しくなってくるんだとか。
私としても本来の仕事をおろそかにしてまで手伝ってほしいわけじゃないから、護衛依頼の期間中は真美の家だけ、ということで約束した。
そんなことを説明すると、視聴者さんたちも納得してくれたらしい。
「ごめんね。私ももっと観光したいんだけど……」
『いやいや、リタちゃんが悪いわけじゃないから』
『おら文句言うやつのせいでリタちゃんが気に病んでるだろ!』
『ごめんよ、そんなつもりなかってん……』
『しんでわびろ』
『過激すぎない?』
さすがにそこまで求めないよ。そんなことされても迷惑なだけだ。
説明も終えたところで、ミトさんのお昼ご飯だ。お昼ご飯といっても、今回はせっかくだから果物をね。
アイテムボックスから取り出したのは、築地でもらったグレープフルーツと甘夏。風の刃ですぱっと切って、お皿に並べておく。そうしてから、ミトさんの本を引き抜いた。
「あ……。ご、ごめんなさいリタさん!」
「ん。ごはん」
「わ……。ありがとうございます!」
ミトさんはしげしげと果物を眺めてる。すごく物珍しそうだ。ミトさんにとっては、見るのも初めてかな。
「見たことない?」
「はい。これはなんですか? みかんもどきに似てますけど……」
「ん。その仲間、らしいよ」
「なるほど」
やっぱりこの二つの果物はこの世界にはないらしい。ミトさんはグレープフルーツを手に取ると、ためらいなく口に入れた。
「あ」
『あ』
『あー……』
「んぐ……!?」
うん。その、えっと……。わざとじゃないんだよ。ちゃんと説明しようと思ったんだよ。まさかそんな、ためらいなく口に入れるとは思わなかったから。みかんもどきの仲間って言ったから、味も近いものと思ったのかな。
ミトさんは両手で口を覆うと、すごく涙目になっていた。それでも吐き出すまいと必死に噛んで、のみこんで……。困惑した表情で私を見た。
「なんですか、これ……?」
「ん。グレープフルーツっていう果物。すごく酸っぱくてほのかに苦みがある……、と言おうと思ってた」
「ごめんなさい、少し待つべきでした」
「んーん。私がすぐに説明するべきだった」
精霊様はこういういたずらは笑いながら許してくれるけど、ミトさんは分からないから、するつもりはなかった。気にしてないみたいだから一安心だ。
「こっちは甘夏。みかんもどきほどじゃないけど、甘いよ」
ミトさんは頷いて、すぐに口に入れた。また驚いてるけど、さっきとは真逆の意味の驚きだと思う。
「これは、本当に甘いですね……。美味しいです」
「ん。でしょ?」
「はい!」
喜んでもらえて私も嬉しい。よかった。
『日本の果物は異世界にも通用するんだな』
『グレープフルーツは日本じゃないけどな!』
『こまけえことはいいんだよ!』
ん。あれ? 日本の果物じゃないの? それは知らなかった。外国とかいうところの果物なのかな。少しだけ、調べてみようかな?
「ところでミトさん。本はどこまで読んだの?」
「今日中には読み終わりそうです」
「ん。急がなくていいから。ゆっくりでもいいから、理解を最優先で」
「はい!」
ミトさんなら大丈夫そうだね。私もあまり心配してない。
果物を食べ終えて、再び読書に戻ったミトさんを残して、私は真美の家に転移した。
真美の家には誰もいなかった。みんな学校かお仕事に行ったらしい。ちょっと寂しいけど、仕方ない。
「あ」
机の上には、えっと……。そう。ノートパソコンが置かれてる。真美が使ってるもので、ピンク色のかわいいノートパソコンだ。
『おお……。女の子っぽい』
『真美ちゃんは美少女だからな!』
『そうなん?』
『知らんけど』
『知らんのかい』
最近その言い方、よく聞くね。認識阻害があるから、真美の顔は誰も覚えてないから仕方ない。
ノートパソコンの横には、自由に使ってね、という真美の文字。以前に使い方は簡単にだけど教わったことがある。ちょっと使ってみようかな。
「せっかくだからみんなが私のことをどう思ってるのか、見てみる」
『まって!?』
『おいやめろそこから先は地獄だぞ!』
『マジで考え直していや本当に』
そんなになの? そこまで言われると余計に気になるんだけど。
というわけで、パソコンを開いて調べてみる。起動させて、えっと……。ぶらうざ? をくりっく? する。あ、ちがう。えっと。そう、だぶるくりっく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます